死後の世界で君と

結城瑠生

プロローグ

 異世界転生ものの主人公みたいに、どうしてもなりたかったんだよ。あいつらって死んでから異世界に行ったりするからさ。死にたかったわけじゃないんだけど、とにかくなりたかったんだ。

 例えば、大剣でドラゴンを倒したり、旅の途中で出会った女の子と恋に落ちたり、魔王と戦ったり、女の子と恋に落ちたり、勇者様なんて呼ばれたり、女の子と恋に落ちたりして……そう、女の子と運命的な出会いをしたかったんだ。

 ――なんて、都合よく自分の過去を改変できるわけがないよな。

 そう車に轢かれた自分の姿を見ながらつぶやく。

 スクランブル交差点の中心。死体の周りには人が大勢集まり、スマートフォンを使って写真を撮る人や悲鳴を上げる人、必死で助けようとしてくれる救急隊員。誰もが僕に注目していた。

 明日にはニュースで、この事故を報道してくれるのだろうか。

 なったとしたら、報道内容は『スクランブル交差点の真ん中で男子高校生の事故死』。これをみて、こんな若いのに事故死なんて、という中年女性。馬鹿なやつと、にちゃんに書く大学生。かわいそうに、と嘆く高齢の男女。

 他にもたくさんの人たちが僕のことを笑ったり泣いたりしてくれるのだろう。

 これだったら本当に悪くない。

 ――本当に。

 実際はこんなことが起こるわけがないのだ。

 だって、実際は田舎の横断歩道を赤信号で渡って車に轢かれて死んだのだから。

 仕事もしていない、彼女もいない、ひきこもりな、ただの高校生。

 親にいわれて登校しようとした矢先の事故。

 これだから思う。


 生き返ってやり直したいって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る