第17話 VS四天王グレン! 情熱の炎は恋の予感!?

『ブルルッ! ブルルッ! ブルッ!』


 な、なに!?

 私は慌ててポケットに入れておいたスマホを取り出す。


 そこには新着メールが届いていたが、それはパパからではなく、別の人からのメールであった。


『件名:イぶリすです 内容:ナなミさあへ、現在そちらへお乳上と一緒に向かっていまあす。もうしばあくしたら同着すると思いますので、グレンの相手をよろしくおえがいいあします。 追伸:メール東六しました。よろしければ今後ともお願いいたあまあヽ(・@‘(』


 な、なにこれ……?

 イブリスからのメールで、とりあえずこっちに救助に来てるのはわかったけれど、ところどころ誤字がある上に初めて使ってると思しき顔文字も変なことになってるし……。

 か、彼女もしかして携帯打つの初めてなの……? とか思っていると、先程から私と対峙しているグレンが何やらイラついた様子でこちらに話しかけてきた。


「おい! さっきから何やってやがる! まさかそいつがてめぇの武器か!?」


 見ると両手には炎を出してこちらを威嚇する始末。

 め、滅相もございません! と、というか、やめませんか、こういう戦いとか!

 思わず、そう叫びそうになったがそれよりも早くグレンの持っていた炎が私の頬を掠めて飛んできた。

 遥か後方では激しい爆音と共に、その場所にどでかいクレーターを作っていた。


「へっ、微動だにしないってか。さすがだな、こういう挑発されても未だに戦闘能力を隠したままとは。それとも今のオレじゃ、まだ本気を出すに値しねぇってことか? 上等だぜ」


 いや! 恐怖のあまり動けないだけです!

 そう叫びたいものの、マジで足が震えて動けずにいた私を前にグレンは挑発されたと思ったのか、それまで身にまとっていた炎を収めると、瞳を瞑り何やら精神を集中し出す。

 見ると彼を中心に地面が静かに振動し出し、周囲の岩や石などがひとりでに宙に浮いては爆散し始める。

 しまいにはグレンを中心に雷が発生し、その余波で周囲の地面がボロボロになっていく。


 あ、これ明らかにやばいやつや。例えるならスー〇ーサ〇ヤ人的な変身の……。


「はああああああああああああ!!!」


 そんなことを思っていると次の瞬間、周囲一帯を覆うほどの絶叫と共にグレンの姿が変わった。

 先程までの普通の肌から、赤褐色の肌へと変化し、頭の両脇には巨大な角が二本生え、腕はまるで爬虫類のウロコのようなものが生え、その指先は猛獣の爪のように伸びていた。更にはお尻からは竜の尻尾のようなものまで生えていた。


「これがオレ様の真の姿。オレの体の中には赤竜の血が混じっている。この状態となったオレの放つ炎は竜のブレスをも遥かに上回る。相手がたとえ魔王様でも受ければタダではすまない力だ」


 そう宣言するグレンは素人の私から見ても明らかに先程とは比べ物にならないほどの化物的なオーラを纏っていた。

 というかシャレ抜きでマジでヤバイ。


 これ、やってることってクリ〇ン相手にいきなりフ〇ーザが最終形態の全力で相手しにくるみたいなものだから!?

 いや、実際私はクリ〇ンよりも、ヤ〇チャくらいの例えがいいかも。


 などとアホな事を思っているとグレンの両手からこれまでにない炎の塊が生まれ、すでにその直径は一メートルを越えようとしていた。


「こいつはオレが持つ中で最強の技だ。これ一つで国一つを滅ぼすほどの威力を持ち、放たれたが最後、その場所は七日七晩に渡って決して炎が消えず燃え盛り続けるまさに地獄の炎の具現化だ」


 などと、とんでもない事を言ってそれを私の前に見せびらかすグレン。

 や、やめて! マジでやめて! それ食らったら私、瞬時に蒸発する自信あるから! 過剰攻撃だから! オーバーキルなんてレベルじゃないから!


「さあ、こいつを食らってもまだ実力を隠しておけるかな! とっととてめぇの真の力をこのオレに見せてみな――!!」


 そう言って空中に飛び上がったグレンは両手に生み出した巨大な炎の塊を私目掛けて投げつけた。


 あ、これ終わったな。


 でも幸い、痛みとか感じる前に楽に蒸発しそう。

 などと遠い目でそんなことを考えた次の瞬間、グレンの放った火球が横から飛んできた謎の魔術にぶつかった瞬間、粉々に砕け散った。


「な、なにっ!? ば、馬鹿な!!?」


 自分の放った最強の技が目の前で粉砕され、思わず驚きに固まるグレン。

 しかし、驚くのも束の間、空中で固まったままのグレンに対し、空から一人の男が現れ、彼の背中に向け遠慮ないキックをお見舞いする。


「魔王様キ――――ックッ!!」


「ごはあああああああぁ!!?」


 モロに背中からその一撃を食らったグレンは地上へと吹き飛び、その場所にクレーターを作りながらめり込む。

 し、死んだかな……? と思って近づくと、微妙に手足がピクピクしているので生きているのは確認出来た。


「七海――!! 無事か―――!!!」


 そんなことを思っていると空から降りてきた魔王ことパパが全力で私に抱きつこうとしたので片手で顔を抑えながら、距離を取る。


「あ、ああ、うん、まあ、パパのおかげで無事だよ……あ、ありがとう」


 相変わらずの暑苦しい親バカっぷりには呆れたものの、今回ばかりは素直に助けてもらえたので礼を言う。

 すると次の瞬間、パパは胸を抑えながら「と、尊い……」などと言いながら倒れる。

 ほ、本当に大丈夫なんだろうか、この世界の魔王は……。


「ご無事なようで安心しました。七海様」


 見るといつの間にか隣にはイブリスもいた。


「あ、ああ、イブリスも来てたんだ。あ、ありがとう」


「いえ、それよりも今度顔文字の種類について、よろしければ教えていただけないでしょうか?」


 とイブリスはスマホを手に、目をキラキラさせながら近づいてきた。

 う、うん、もしかしてイブリス、スマホにハマった?


「な、なんと、そちらのお嬢さんは魔王様のご息女、だったのですか……!」


 そんな私と魔王、イブリスとのやり取りを見ていたグレンがボロボロの体を起こし、何やら先程までとは異なる雰囲気で私に対して片膝をつく。


「そ、そうと知らずなんというご無礼を……! ど、どうぞお許し下さいませ! 七海様!!」


「え、い、いや、別にいいって言うか、助かったんだし……」


「いえ! あなた様は最初から全て見透かしていたのです! 魔王様のご息女ともなれば、その力をオレが感知出来ないのも当然! それほどの実力差を七海様は分かっていながら、このようなオレの座興に付き合うなどとは……! なんと申し開きすればいいのか……!」


 なんだかすごい誤解されつつも、グレンは必死に頭を下げて謝っていた。


「オレは自分が恥ずかしいです! これでは文字通りただのいきがっていただけのDQNです! このご無礼、死してお詫びするより他ありません!」


 DQNって単語、この世界あるの!?

 そんなことを思いつつも、文字通り地面に頭を打ち付けているグレンを見て、私は思わず彼に対して、手を差し伸べる。

 するとグレンは信じられないと言った表情を見せた。


「あ、あのさ、別にそこまでしなくてもいいんじゃないかなー。ご、誤解って誰しもあるし、お互いに無事なのが一番だと思うしさー。今回の件はそれでいいんじゃないかなー?」


 というか、目の前で自殺とかされたらマジでシャレにならないし。

 などと思っていると、グレンは感動に目を潤ませていた。


「な、なんと……知らなかったとは言え、これほどまでの無礼を働いたオレに対して、そのような言葉を投げかけてくださるとは……! 七海様はなんという慈悲溢れる方なのですか……!」


 なにやらよくわからないまま感謝されている私はただ曖昧な笑顔を返すしかなく、見るとグレンの額からは先程地面に頭を打ち付けた際に、その場所を切ったのか血が流れていた。

 正直、あまり他人の血を見るのが得意ではない私はポケットに入れていたハンカチを取り出し、グレンの額の血を拭いた後、それを渡す。


「そんなことよりも頭から血が出てるから、これで拭いて。それと、もうこれに懲りたら私のいるところに侵攻してきたり、勝負しかけたりしないでね。あ、出来ればこれ他の人達にも言っておいてください。一応四天王なんで、そういう権限とかありますよね?」


 そんな本音を伝える私であったが、しかしグレンは顔を真っ赤にしたまま硬直しており、こちらの話を聞いているのかどうか分からなかった。

 あの、聞いてました?


「は、はいいいい! わかりました!! 男グレン!! 七海様の告白しかと受け止めました!!!」


 はい? 今この人、なんて言った?

 告白? いやまあ、ある意味、胸の内を吐露して、告白みたいなものだけど……。


「この男グレン。七海お嬢様の周りに余計な男共が群がらないよう、心身共に捧げて護衛致します!! そして、いつか七海様に相応しい男になって見せますともー!! どうか、それまでお待ちくださいませー!!」


 などと全身から炎を突き出し右手に持ったハンカチを天に向けて掲げる。

 いや、あの、燃えますから。ハンカチ燃えますから。


 そんなよくわからないグレンの宣言を背に私は早くこの場から立ち去るようにイブリスに頼む。

 その一方で、グレンの背後からは、うちのパパこと魔王が、


「グレン。よもやとは思うが、うちの娘に手を出そうなんてしてないよねー?」


 とグレンの肩に手を置きながら、奥へ引っ張る姿が見えた。


「え、あ、いや、そういう意図は決して無きにしも非ずといいますか、いや、あの、魔王様、なんで笑顔のままオレを奥に引っ張るんですか? ちょ、え、いた、肩! 肩砕けます! 魔王様ー!?」


 そんなグレンの叫び声に対し、私は見ないふりをしつつ、イブリスと共にとっとと街に帰るのであった。

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