第14話 魔王学芸会

「よくぞ、ここまで来たな! 勇者よ! 我が魔王軍の精鋭を倒し、ここへたどり着いた手腕をまずは褒めておこう!」


 廃墟の奥。巨大な門を開いた先に、その魔族の騎士は立っていた。

 全身漆黒の鎧に包まれた騎士。

 しかし、その首から上には何もなく、あるはずの首を自らの腕で抱えている首なしの騎士デュラハン。


「しかし、それもここまでだ! お前達の冒険は今! ここで! 終わる! この私の手によってな!!」


 それはまさにRPGのボスのようにこちらを待ち受け、用意していたかのようなセリフを次から次へと吐いていた。


「七海ちゃん。いよいよ、決戦だよ。さあ、全力で行こうか」


「そうねー……」


 しかし、私はどこかやる気の無い様子で剣を構えてうなだれていた。

 というのも、ここに来るまで、まるで学芸会のような演技の魔物達と何度も戦闘していたためである。

 そして、目の前にいるこのデュラハンの無駄に熱の入った演技。

 そろそろ、いつ突っ込もうかと悩んでいた。

 しかし、そんな私のやる気のなさなどお構いなしにデュラハンはどこかノリノリな様子で武器を構える。


「ふははは! お前達のような子供がこの私を倒すだと! 笑止! 力の差を見せてやるわ!」


 ノリノリなデュラハンがそう言って武器を構えるとそこから闇のオーラが放出される。

 うん、演技はともかく、あれマジでヤバくね?


「さあ、我が腕の中で眠るがいい!!」


 そんなどこかで聞いたようなセリフをデュラハンが叫ぶと、彼の武器から放たれた闇のオーラが衝撃波として広がり、それにぶつかった私はそのまま後方の壁に激突してしまう。


「うぐっ!」


 思ったよりも激しく背中を打ってしまい、私はそのまま咳き込むように膝をつく。

 分かってはいたけれどやっぱりレベル1の私とデュラハンじゃ力の差がありすぎる……。

 あれ多分、一発でもまともに受けたら私は軽く数回は死ねると思う。


「ふはははは! どうしたその程度か! あまりにも貧弱すぎるぞ勇者よ! ならばこちらから先に行かせてもらうぞ!」


 そう言って悪役の笑いを浮かべたまま、こちらに駆け出すデュラハン。

 あ、これマジでアカン。私、死ぬかも。

 と、ぼんやりとそんな事を思った次の瞬間、デュラハンの体が横に吹っ飛ぶ。


「ごはあ!?」


 間抜けな声を上げつつ、そのまま壁に激突するデュラハン。

 彼を攻撃したのはオーリであった。


「おい、こら。予定と違うだろうが、誰が七海を攻撃しろと言った。ごらぁ」


 見るとオーリはそれまでとは全く異なる雰囲気を纏い、首だけのデュラハンを片手で持ち上げ、その顔をギリギリと締め付けていた。


「い、痛っ! ちょ、か、顔潰れます! す、すみません! つ、つい盛り上がっちゃって、やりすぎちゃいました! つ、次はもうちょっと手加減しますので、どうかお許しくださいませ!!」


「あとお前、ちょっと演技が臭すぎるぞ。ボスキャラは熱血よりも少し抑えた感じの方が威圧感出るんだぞ。わかったな?」


「は、はい、わかりました……次からはそうします……」


 そう言って必死に懇願するデュラハンの首をそのままポイッと投げ捨てるオーリ。

 その後、彼は何事もなかったかのようにこちらに戻ってくる。


「……こほんっ、では」


 再びデュラハンが元の位置に戻ると、咳払いをした後、両手を大きく広げ、高笑いをあげる。


「はははは! 先程は失礼したな、勇者よ! よし、ここまで来た褒美に先にお前からの一撃を許そう! さあ、我の好きな場所に攻撃するがいい! その攻撃が終わると同時に今度は我の反撃と行かせてもらう! これは最初で最後のチャンスだぞ! 存分にこのチャンスを活かし、全力の一撃を我に叩き込むがいいー!」


「さあ、七海ちゃん! 今がチャンスだよ! 君の全力をデュラハンにぶつけるんだ!」


 そう言って明らかに先程よりもクサさの増した演技をするデュラハンとオーリを私は白けた目で見つめていた。

 しばしの気まずい沈黙の後、私は持っていた剣を鞘に収めて、デュラハンのもとまで近づくと静かに呟く。


「あの、とりあえずこの廃墟から全軍連れて出て行ってもらえますかね。それさえしてくれれば私もこれ以上は何も言いませんし、追求もツッコミもしませんので」


「…………」


 私のその一言にデュラハンは明らかな気まずい空気を感じつつ、右手に持っていた首が咳払いをした後、私の提案に頷く。


「わ、分かった。それでは我らはここから出ていくということで今回の件はもう終わりということで」


「そうですね。お互いこれ以上無駄な戦闘はやめましょう」


 マジで心の底の本音を呟き、デュラハン達はすぐさま部下を引き連れて、廃墟から出て行った。

 そんな彼らがいなくなった後、こちらに対し背を向けていたオーリが静かに呟く。


「いやー、さすがだね、七海ちゃん。まさか連中を一言で撤退に追いやるとは、その技量は万の軍にも及ぶ手腕だよ」


「そうねー」


 わざとらしく私を褒めているオーリに対し、私は冷たい視線を彼の背中に向けていた。

 ちなみにイブリスは私達から離れた位置で、我関与せずといった様子で、こちらに背を向けている。


「そ、それじゃあ、そろそろ戻ろうかー。七海ちゃんも今回の依頼の結果をギルドに報告しないとだしねー」


「そうねー」


 さすがにそろそろ不穏な空気をオーリも気づいたのか、急いだ様子でこの場から逃げようとするが、それに対し私はあることを呟く。


「そういえばパパ。スマホの返信についてなんだけどー」


「ん! どうしたんだい! やっぱり、あれどこか故障してたかい!?」


 何気なく呟いた私のそのセリフに全力で反応するオーリ。

 しばしの沈黙が両者の間を駆け巡る。


 どうやら、マヌケは見つかったようだな。

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