第10話「SHOPハシマ」


 外に出るともうわりと朝、という時間ではなくなっていた。

 砂塵舞う朝と昼の丁度間ぐらい、俺はミリに引っ張られながらギルドの方へと真っ直ぐに走っていった。

 正確には走らされた、と言うのが一番近いが。

 そして俺らは様々な高級店が立ち並ぶギルド本通り、そこにたどり着いた。

 

 ギルド本通りとは、ギルドから南に一直線に続く、野太い一本道。

 それはまるで教科書に描いてあった平城京の朱雀大路のように幅広で、長い。

 平城京繋がりで言うと道の始まりと終わりに大きな門があるところも酷似している。

 その長さは、道の始まりからだと巨大なギルドは見えるものの道の終点は見える気配すらない、それぐらい長いのだ。

 

 しかし、粗い土の上から無理矢理白などの煉瓦張舗装用ブロックで覆われた道は、その長い道のりを一瞬だと感じるほどに発展している。

 お菓子、ジュース店から始まり武器装備屋、さらには病院、ホテルやレストランそして、謎の魔術協会まであったりする。

 とにかく誰がなんと言おうと第三地区でもっとも発展している場所なのだ。

 

 まぁ勿論普段ならこんなところ一瞬にして通りすぎてしまわないと誘惑に負け、有り金を全部持っていかれてしまうが30万Z持っている今ならきっと丁度いい所になるはずだ。

 


 そんなこんなで歩いていると、とあるひとつの店の前で俺とミリは立ち止まった。

 

「はいストーップ!」

 

 立ち止まったと言うのはただの結果であって実際には、突然横に大開にしたミリの腕が俺の顔面に食い込み仕方なく止めさせられた、と言うのが正しい。

 

「痛い……」

 

 鼻を抑える。

 

 しかしどうやらミリの行きたかった装備屋と言うのはここらしい。

 超巨大極まりない木製のバンガローのような外観。綺麗な三角の屋根に奥行きのある感じの本体。入り口の前にはちょっとした階段があり上りやすいようになっている。 

 が、その平和なイメージとは裏腹に周りの古びたコンクリートには厳つい武器や防具ばかりが突き刺さっている。

 これは芸術? それともゴミ捨て場?

 

 さすが武器屋、普段は涼しげな風もこの辺り一帯だけ淀んでいるようにも感じる。

 淀んでいると言うよりかはどちらかと言うと生暖かいといった方が良いだろうか、どうせここにも厳つい装備をつけたやつがゴロゴロと居るのだろう。

 そんなここは、第三地区上位の人間御用達の超高級武器及び防具販売店「SHOPハシマ」。

 

「まぁこんなとこ一人じゃ来れないよなぁ」

 

 腕を組み辺りを見回す。

 やはりどっからどう見てもこの辺りには上位のやつらばっかりが回りを歩いている。

 明らかに無駄なトゲが肩から生えてたり、黒いボーリングの玉のようなものをいくつも首から下げていたり、逆に装備を全く着けていないような人もいる。

 よくわからないけどとりあえずみんな強そうだ。

  

 ランクが低いだけで見下される第三地区、こんな厳ついやつらばっかりがいるところにミリが一人で行ったらもう、小学生達のやるあの理不尽ないじめよりもひどいこと。

 そう、例えばもう外に出たくなくなってしまうぐらいのことをされるかもしれない。

 

 しかしここまでの俺の心配とは裏腹にミリは意外そうに答えた。

 

「え? この前行ったけど?」

 

 お行きになっていらっしゃる! 

 なんで、なんでミリがこんなところに一人で行けるんだ? 俺なんて今も、道端で歩いているだけで大胸筋、大胸筋とバカにされるってのに。

 昨日のこともあるから今回に限っては誉め言葉なのかもしれないが、俺的には普通に嫌だ。

 

 いやまてよ、もしかして第三地区でこんな扱い受けてるのって俺だけなのか?

 

 ミリからはいじめられたみたいな報告なんて聞いたこともないし勿論見たこともない。

 もし俺の目の前でミリが苛められていたら俺は容赦なく叩き潰さなくてはならない。

 そうしなくては、俺が殺されてしまう(来栖さんに)。

 

 そんなことを考えている俺のことを目の先にもいれていないのだろうか、ミリは一人で軋む木製両開きの扉を開け放ち中へと入っていく。

 

 今日の俺、わりとマジで財布としか扱われてない? 

 いや、まぁそんなことはないか、というよりそうで無いと考えたい。

 

 でもわざわざ元いた上位のパーティーと別れて俺と一緒にパーティーを組んでくれるようなやつだ。

 きっと欲しいものでもあるのだろう、最近は俺のせいで貧しい思いもさせ続けていたし、今日ぐらいは楽しませて上げよう。

 

 あ、そういえば俺、あの大会の賞金でミリに美味しいもの奢ってやる予定だったんだ。てかもともとの目的は機嫌を治す事だったし。

 

 運よく勝ったんだからな、今回ばかりはステーキは無理だとしても、あまいあまーいショートケーキぐらいは買って上げよう。

 ミリって甘いものにはさらに目がないからなぁ。

 喜ぶ顔が楽しみだ。

 

「ソーウーマー! そんな思春期の女の子を見るお父さんのような目で私のこと見てないで早く早く!」

 

「お、おうわかった」

 

 どうやら俺は来栖さんと全く同じ目をしていたようだ。

 俺はミリが開けておいてくれた扉を目一杯広げ、くぐり未知の世界「SHOPハシマ」の中へと入っていった。

 

 まず驚いたのはまだ春なのにも関わらず店内は非常に暖かい空気で溢れていた事だった。

 

 一瞬でわかった、これは空調だ。

 所謂、一般的な名称で言うとエアコンというやつだ。

 もう何年も感じていない文明の利器のあの生暖かい風。

 第三地区に来てからというもの俺はずっとエアコンのありがたみを感じたいと思いながら生活をしていた。

 それがまさか自ら避けていた所に探し求めていたものがあるなんて驚きだ。

 確かに家にエアコンはある。しかしもちろんのことながら基本的に第三地区では電気が通っていないのだ、夏は暑すぎるし冬は寒すぎる。

 だったら中途半端な季節の春は丁度いいと思うかもしれないが、全然寒い、寒くて夜眠れなくなるぐらい寒い。だからもうこの、この空間が。

 

「あぁ至福だ……」

 

「私服? 違うわよ私服じゃなくて防具よ防具、まぁでもいつも着るものだから私服とも呼べるかもだけどね!」

 

 いや、そうじゃない。

 なんて突っ込みはしない方が良いだろう。今のミリはどや顔に目もとにピーズをするあの決めポーズ、いかにも私今面白いこといったでしょ! と言う雰囲気を醸し出しているのだから。

 

 ともかくとして俺は至福の空間、もとい「SHOPハシマ」店内を見回す、しかし見える範囲ではミリが買いたいと言っていた防具とやらは見当たらない。

 

 あるのは触るのも少し躊躇うような豪華な装飾が施された武器ばかりだ、俺が謎の女の子からもらった特になんの手も加えられてないような剣とは全く以て比べ物にならない。

 

 武器はギターショップのギターのように壁に掛けられていたり、地面にたてられたこれまた高そうなスタンドに立て掛けられたりしている。

 勿論生身(生きていないから生身と言うのは可笑しいかもしれないが)ではなく革製の鞘や、金属製の鞘やらに収まっている。

 

 見た感じだとざっと500個ぐらいの剣が、そういう風に有るなか盾なども散り散りに置かれている。

 そしてその全てが、天井から等間隔で吊り下げられた裸電球の白い光によって美しく照らされている。

 きっとセットで買ったりすると30%OFFとかやっているんだろう。

 

「ソウマ! ほら武器ばっかり見てないで二階に行くわよ二階!」

 

 そしてこれから武器をひとつひとつ見ていこうとしていたら、また腕が引きちぎられそうになった。ミリはもうちょっと力の加減と言うものを覚えた方がいいと思う。

 

「二階? なんでさ」

 

「防具は二階にあるのよ」

 

「そうなのか、じゃあ俺、ここで武器みてるわ」

 

 座り込み武器を眺める。

 自分でも驚くほどの完璧な判断だと思う、俺のみたいものは一階にあってミリのみたいものは二階にあるのなら別々でみてくるのがどう考えても一番効率的でどちらも楽しめる。

 そしたら二人で来た意味が無くなってしまうがそこまで気にすることでもないだろう。

 

「……そう、じゃあ見終わったら上に来てね!」

 

 ミリは少し考える風に目をそらし間を開けてからそう言うと軽いステップで奥の方にある階段を使い上の階へと上がっていった。

 

「はぁ、これだからあなたはダメなんだよー」

  

 ミリを遠目に立ち上がり、よし! これで自分の好きな武器類を思う存分堪能出来るぞと思った矢先どこかで聞いたことのある間の抜けた声が聞こえた。

 

 声の聞こえた後ろへ体を反転させ振り返るが特にこれといった人は見えない。

 空耳が何かかな。

 しっかり寝たはずだけど昨日の疲れが残っているのだろうな。睡眠は大事!

 

「視線さ! げ! て!」

 

 またどこからともなく声が聞こえる。

 まぁ声と言っても少しこごもった子供のような声だが。

 渋々声の言う通りに視線を下げるとそいつはいた。

 今時珍しくもない金髪ショートに黒いつぶらな瞳、黒いワンピースからちらりと見える女性用の白い布地。

 俺の記憶のなかにこんやつは一人しか知らない。

 

「なぜこんなところに貧乏小娘」

 

「番組名みたいに言うなぁー!」

 

 地団駄を踏みながらの完璧な突っ込み。

 そう、俺の後ろに斜め下にいたのは俺に謎の剣をくれた金髪の少女だった。

 

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