第3話「マッスルコロシアム」

「こんなの勝てるわけないじゃない!」


 俺の持っていたチラシを奪い取り舐め回すように見たあとミリはそう言った。


「でもまぁ、どうせ無料だしさやる価値はあるだろ」


「いやいやいや! これ普通に死んじゃうやつでしょ」


 確かに、15才であるこの俺の人生がたかが女の子の機嫌直しのために終わってしまうなんてのは最悪きわまりない。

 でもちょっと出てみたいってのはある。

 理由は簡単。実は勝てちゃったりするのではないかと思っているからだ。


 今回闘う相手はあのきんもちわっるいキメラ型のエネミーではなく同じ人間だ。故に俺でも勝てる可能性はある。

 実際あの恐怖さえなければ俺は筋力ステータスSランクの、恐らく最強クラスの討伐者になってるはずだし。


 いくら30万Zとは言えSランクの騎士とかになってくるとこんな下らない催しに一日を使うぐらいだったら上級エネミーの素材集めでもしたほうが効率が良いだろうと思うからだ。

 俺の予想はこうだ、このイベントは弱い人たちをお金でつって戦わせそのなかでも優秀な人をからっさらっていきたいと思ったお金持ちパーティーのちょっとした遊びのようなものだろう。

 先ほどミリから取り戻したチラシにも開催した人の名前は載ってない。やはり俺の予想通りだろう。


 もしここで俺が何らかの記録でも残しておけばどっかしらのパーティーからお声がかかり今よりもっと楽に生活できるかもしれない。まぁ、そんなことは夢のまた夢かもしれないが。


「大丈夫だよミリ。俺なら多分勝てる!」


 不安そうな表情を浮かべるミリにサムズアップをする俺。少し無理矢理ではあるがここで押しきれちゃうのがミリだ。


「もう勝手にすればいいじゃない、でもこれだけは約束して。危なくなったら絶対に逃げる! 分かった?」


「うん分かった! じゃあ今からエントリーしてくる!」


 そういつもの感じでミリに別れを告げると俺は大急ぎで大会の行われる場所【旧東京ドーム】へと足を運ばせた。



 ◇◇



 旧東京ドーム。 

 それは俺がまだ小学校に行っているときは野球場として使われていたり人気のアーティストのライヴなどが行われていたような場所。

 大戦のおかげで天井は剥がれ落ち上側半分が欠けてしまっている外観のせいかコロッセオと呼ばれることもある。しかしその呼び方はあながち間違っていなかったりもする。


 旧東京ドームで行われることのほとんどが闘技大会やら格闘技の選手権だったりするからだ。

 ほとんどの娯楽が奪われやることと言えば次元門を潜った先にいるエネミーを狩ることぐらいしかない今日この頃。


 ストレスと言うのは何をしていなくとも勝手に溜まっていくものでそれは必ずどこかで解放しなければならない。大抵の人間はそのストレスをエネミーにぶつけているのだが、ストレス発散と言うのは人それぞれなもの、時々人に暴力を奮ったり最悪殺してしまったりする輩も出てくるようになってきた。


 実際それは上の連中からしたらごみ同士がお互いにごみ処理をしてくれている状態でもあるので都合が良かったのかもしれない。しかし死者数が一日何万人を超えた頃だっただろうか、そのストレス発散の矛先が第一地区の人間に向いたことが合った。

 そんなときストレス発散をする場所として急遽解放されたのがこの旧東京ドームである。



「すみませーん! まだこの大会のエントリーってできますか?」 


 旧東京ドームに着くと真っ先にでっかい文字で受付! とかいてあるところに走りそうさけんだ。

 そこには想像していた長蛇の列はなく受付嬢が一人ポツンと椅子に座っていただけなので、もう受付終わったのかなとか思ったりもしたがその不安は一瞬にして振り払われた。


「6時59分、危なかったですねあと1分ずれていたら参加出来ないところでしたよ。では、どうぞ」


 受付嬢から手渡された整理券らしきチケットには4256と番号が書いてあった。


 なんと言うか縁起が悪いな。まぁ、そもそもそんなに風水とかは信じない方だが流石にこれから殺し合うと言うときの番号が『死に頃』ってのはないだろ。


 初っぱなから雲行きが怪しくなってきたが要は実力だ。結果がすべてなんだ。俺は何としてでも優勝してミリに美味しいメシを奢らなくてはならない。こんな番号に踊らされてたまるか! 

 そう心に言い聞かせ俺は旧東京ドームの入り口である回転扉の中へと入っていった。


「うわぁー屈強な人ばっかだなぁ」


 俺の整理券の番号が4256、この番号がランダムでないのならここには少なくとも4256人以上の人間がいることになる。

 しかもここにいるのは大抵がお金目当ての実力者。恐らくみんなDランク以上だったりするのだろうか、恐ろしや。

 それにしても筋骨隆々なやつらが多すぎるとも思えなくもないな……。と、考えているとその答えはアナウンスとして流れてきた。


『ハァーい! たった今、4258人全てのエントリーが終わりました! と言うわけで《マッスルコロシアム》予選を開始したいと思いまーす!』


 ほう。マッスルコロシアムか……。だせぇな。


  もっと他にいい名前はなかったのだろうかと言うかチラシには闘技大会みたいな事かいてあったような気もするがこれはきっと考えてはいけないことなんだろうと無理矢理選択肢からもみ消す。

 でも何故こんなに所謂ゴリマッチョ的な人が多いのかと言う疑問は晴れた。

 まぁ、筋力だけで言えば俺はこの中で三本の指には入ると言うのが不思議なぐらい俺は場違いであった。身長からしても装備からしても、だ。


 てか予選ってなにすればいいんだ? もしかしてもう始まってたり……。


『予選を始めると言っても何をすればいいのかわからないって顔をしているそこのあなた! 先ほど受付で貰ったチケットの裏を見てください! そこの裏に赤い文字で数字が書いてありますよね。それがあなたのチーム番号になりまァす! それでですねぇ今からそのチームの集合場所をメインモニターに出しまぁス!』


 少し外国人っぽさのあるアナウンスに俺を含めた回りの人全員が耳を塞ぐ。流石第三地区、音量の設定はできないようだ。


凄い情報量だったけど取り敢えずはチケットの裏を見ればいいのかな? 裏を見るとそこには血文字のような赤いインクで1919と、書いてあった。

 なんと言うかもう……いや。




「えっと……1919はっと……あ、合った3B-6」


 筋骨隆々な人たちがメインモニターに集まるなか俺は歩きながらちらりとメインモニターへ目配せして番号を確認する。

 自分で言うのもなんだが動体視力はいいほうだと思う。あと視力も。こんな状況になってからさらに眼が良くなった気もするが実際のところは図る手段がないので分からない。ちなみに最後に図ったときまではずっと視力は2.0でした。


『みなさァん! 場所の確認は出来ましたでしょうかぁ! いい忘れてましたが、集合時間は7時30分です! でわでわぁー』


 今回のアナウンサーと言うか実況者はなかなか適当過ぎやしないか? あとうるさい。いつもだったらもうちょっときれいな声の人がやっていると思うんだけど……今回はきっとそこまでお金が回らなかったんだろうな。


 それにしてもあと10分か……暇だな。

 回りを確認してみると俺以外の人は装備の点検やら移動やらを始めていて大変そうに見えた。俺も装備の点検でもしようかと思ったが一回も切ったことのないこの武器は整備するほどでもなかった。

 集合場所はそこの階段を上がったとこだし近くには売店もある。よし戦闘前の腹ごしらえでもしてくるか。


 俺は回転扉横のドアから外の売店へと足を運んだ。

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