7-3

「目が覚めたか?」

 瞼を開くとアンナの顔があった。

 周りを確認する。

 釜、デイジーの生首、大蛇の死体、横になるニーナ。

「ニーナは」

 起き上がろうとしたが出来ない。

 そうか。

 左前腕がなかった。

 エリオットの上着がなくなっていた。千切られて、左腕の止血に使われていた。

「まだ落ちたままか」とエリオット。

 仕方なく横になる。「あぁ、もうすごく痛い」

「すまんねぇ、エリオット。実は解毒剤二つあったんだよ」

 デイジーが言った。

「嘘だろ」

「嘘だよ。安心しな。からかってやったのさ」

 けけけけ、とデイジーが笑った。

「ニーナはどうだ?」とエリオットが聞いた。

「大丈夫そうだ。お前は?」

「左腕がなくなった」

「いつでもいけるな」

「アントーニオはこの先だ。奴は惑星の書を上下集めて、過去に行くつもりだ」

「デイジーから聞いた。両親の殺害を止めるのが目的らしいな」

「偉いし泣けるよな。孝行息子だよ」

「あいつのせいで腕がなくなったぞ」

「前言撤回だ。あんた、壁を突き破ってきたよな。どんでもないことをするもんだ」

「私たちが行った通路は蛇の間に通じてた。装置が作動したら部屋に鍵がかけられて出れなくなって、蛇が大量に降ってきたんだ。壁の穴からな」

「気色悪」

「ニーナはそのとき既に噛まれていたが冷静だったぞ。蛇が出てきた壁穴の向こうに空間があるはずだ、というんだ。大量の蛇が出てきたんだから、それなりの空間がある、と。しかも蛇が繁殖できるように餌となる生き物とかも出入り自由な空間のはずだって」

「それで壁を壊して、ここまできたのか」

「餌となる生き物がお前だったのは意外だったよ」

「出会いは劇的だった。壁が崩れるんだもん」

「結果的にはニーナの予想は間違っていた。空間も通路もあったし、餌となる生き物が出入りできる空間もあったが、それは非常に小さかった。だから今度は壁の薄そうなところを破壊して、どんどん別の通路へ移っていった。壁が駄目そうなら、通路を進んだ。それでまた壊して、別の道を探して最後にはお前を見つけ、あいつは無事だ」

「俺は無事ね」

「ニーナの悪運に感謝だな」

「デイジーもありがとな」とエリオット。「解毒剤は助かった」

「いいんだよ。そういう使い道のためのもんなんだからね」

 デイジーが言った。「それよりもアントーニオを追うんだよ、ちんたらしてないで何とかしとくれ」

「そうだな。どうやって上へいく?」とエリオット。

 今度こそ起き上がった。左腕が痛む。

「大蛇を縄みたいに放り投げる」

「さすが怪力。俺は協力できないぞ」

 エリオットが先のない左腕を見せた。「しばらく力仕事は無理だ」

「元々期待してない」

 アンナは大蛇の死体に近づき、尻尾を両手で抱えるように持ち上げた。

「固まってるか?」

「多少な。だがこれくらいのほうが上るときは楽だ。これを上に投げたら、剣でもそこの砕けた石でもいいからつき刺して足場を作って上っていく」

「あんたマジで賢いな」

「長生きはいいぞ、エリオット」

 アンナが網を投げるようにして大蛇の身体を天井に向かって放った。

 穴の縁に大蛇の死体がかかる。

 エリオットたちのいる地面に向かって、上から大蛇の身体が伸びていた。

「アンナ様特性の蛇の階段だ」

「なんか不気味だな。あんたが言うからなのか」

「右手も斬りおとすぞ」

「みんなこんな怖い思いして首を斬りおとされてたのかな、って思うと悪いことしたなって反省してる」

「上れ。ニーナは私が担ぐ」

「よしきた」

 穴を抜けた。

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