6-5
「どうだった?」
死体巡りを終えて戻ってくるとニーナが言った。
「アントーニオはいたか?」とアンナ。
「いなかったらしい」
エリオットが答える。
生首のデイジーも「あいつはいなかったよ」と続けた。
「財宝もなかったんだろ?」
「ご名答」
「収穫なしか。出来損ない共め」
「あたしが完全復活できてたらあんたなんて一撃だよ。小娘が」
アンナは常に喧嘩腰だが、デイジーも同じだった。
「そっちは何か見つかったのか?」とエリオット。
「死体の観察に小一時間費やしてる間に、私は有力な手がかりを見つけた」
「もったいぶらずに出せよ」
「これだ」
布だった。相当大きい。「旗だ。千切られて半分程度しかないが、どういう紋章かははっきりわかる」
槍を持った緑の竜が吼えている紋章だった。
「正解を早くいいな、小娘」
デイジーが吼えた。
「これはベネット家の紋章。千切られてなくなってる部分には、剣を持った赤い竜がいるの」
ニーナが答えた。「ねぇ、エリオット、ジュペールにもあったでしょ? 覚えてない?」
「いや、あんまり記憶にないな」
「馬鹿。ほんとそういうの無頓着」とニーナ。「自分以外に興味ないの?」
「酒は好きだよ」
「馬鹿。ベネットに話を戻しましょ」
「あぁ、そうだな。じゃ、ベネットさんがここにいたってことか?」
「ベネット家はサウスタークの名家だ。由緒正しき国粋主義者で軍人の家系。ニーナの情報に寄ると、当主のイアン・ベネットはこのあたり、サウスターク南方の総司令官らしい」
アンナが言った。
「つまりサウスタークの兵士がモロウ・リー盗賊団を全滅させたのか」とエリオット。
「偶然だと思うか? たまたまここに野営していたサウスターク兵士と隠し財産を取りにやってきたモロウ・リー盗賊団が鉢合わせたと思うか?」
「運命的な出会いがあったとは思えないな」
周りの死体を見る。
「これは仕組まれたものだ。そしてアントーニオの死体はなかったんだろ? デイジー」
アンナがデイジーに言った。
「弟がサウスターク軍に密告したってことかい?」
「自分で答えを言ったな」
「言わせたんだろ」とエリオット。
デイジーは何も言い返さない。沈黙を貫く。
「イアンの要塞はここからさらに東に行けばあるの。スハール・ジーン要塞。たぶんそこに戻ってると思う」
無言の時間を破ったのはニーナだった。
「財宝とアントーニオもそこか」
エリオットが言った。「けどアントーニオは別のところへ行ったかもしれない。サウスタークに密告して盗賊団を始末して、財宝は独り占め。もしくはイアンに分け前を与えて、自分はとんずら。そっちのほうが可能性は高くないか?」
「だがどこへ?」
アンナはデイジーを見る。「心当たりは?」
「さぁね。再会したのもついさっきだったし、あの子がどこで何をしていたかなんてさっぱりだよ」
「要塞だな。仮にいなくてもイアンを拷問して情報を引き出せる。すぐにでもアントーニオを追いたいが、そこへ向かうしかない」
「うん。そうだね、アンナさん。とでも言うと思ったか野蛮人」
エリオットが呆れる。「向こうは南方司令官だぞ」
「誰が南方司令官かも知らなかったくせに」とニーナ。
「南方も司令官もどっちの言葉も知ってた。それで十分だろう。俺の人生は色んなことでもう手一杯なんだよ。知識の節約だ」
エリオットは言った。
「エリオット、私はサウスタークのヴェトゥーラだった。諜報員だぞ。北方司令官を暗殺したこともある」
「なにそれ脅し?」
「アンナお姉さんからの忠告だ」
「俺の負け。さっさと移動しよう」
朝日が昇ってきた。「喋ってばかりじゃ眠くなっちまう。動かないと」
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