第4章
4-1
馬を一頭、トマスとコリーンにやった。エリオットとアンナは残されたもう一頭に二人で乗る。
朝日が昇り始めていた。いい朝だ。だが寒い。やはり今は冬なのだ。
「ニベス会は厄介だな」とエリオット。
「奴らは頭おかしい」
「死霊術の研究をしてるんだよな」
ニベス会は、教皇庁から公認を受け、禁術と言われる死霊術の研究をしている唯一の宗教結社だ。
「詳しいか?」とアンナ。
「俺の前職は死刑執行人だ。仕事で使う魔術の分野がニベス会と被るんだ。冥府の神ハデスとの契約は死霊術でも使う。だから噂はよく聞いた。研究分野が似ているから、交流があったらしいし」
「今でも繋がってるか?」
「歴史上、繋がりがあった時期はごく僅か。今は業界同士の交流ない。向こうも秘密結社なら、こっちもそうだよ」
「役立たず」
「俺はいつでも全力だよ」
「気づかなかった。ジュペールへ行くぞ」
「ほんとに行くのか?」とエリオット。
上着がなく寒い。
「嫌そうだな」
後ろのアンナが言った。
「昔、住んでたんだ」とエリオット。「そこで首切りの仕事を始めた」
「思い出の地じゃないか」
笑っているのがわかる。「ここからなら夜には着く」
「それが嫌なんだよ。出来ることなら永遠に着きたくない」
「何があった」
「そうだな。挫折して仕事をやめた、あと昔の恋人がいる」
「久々に抱いてやれ、どうせブスだろ? 男に飢えてる」
「あんたほんと最低だ」
「純情だな。笑える」
「あんたはどうなんだよ」
「何度か行った。それだけだ。お前みたいにブスと交尾はしてない」
「行くよ、ジュペールに行く。だからもうからかわないでくれ」
■
その日の晩、ジュペールに着いた。
「やっぱ着いちゃうんだな」
エリオットは馬から下りる。雪は止んでいた。
だが夜は冷える。
「目指してたんだから着くだろ」
アンナが言った。
サウスタークの街、ジュペールは毎年夏に開かれる大市で栄えた商人の都市。街の中央には巨大な広場があり、他の街にあるような市庁舎、教会はそこにない。広場の周りには店が並び、そこから伸びる六つの通りも同じだった。専門店が並び、昼間は常に賑わっている。それだけに人の出入りは激しく、物乞いも多い。角の度に物乞いが金と食事をせがんでくる。
「お勧めの宿は?」とアンナ。
「俺の知らない宿」
エリオットが住んでいたときには存在しなかった旅籠に部屋を取った。
「疲れた」
「寝ろ」
食事も取らずに眠りに着いた。
■
朝食を取って外へ。
晴天だった。残っている雪の照り返しが眩しい。
「希望は?」とアンナ。
「何のための?」
エリオットは伸びをする。ちゃんとした睡眠を取ったのはいつ振りだろうか。激しい移動と戦いで消耗した全ては回復できないが、昨日までの身体とはまるで違う爽快感。
「ニベス会の奴らを捕まえるための」
アンナが言った。
「ここはあんたの庭でもあるだろ?」
そもそもアンナはサウスターク出身の諜報員だ。
「随分昔だ。ここに来るのも八十年ぶりか、とにかくそのくらいだ」
「クソばばあ」
「二度と言うな」
「聞こえてたのか。ごめんごめん」
「隣にいるんだぞ」
「右だろ? 俺は左を見てた」
「死ね。で、エリオット君。案は?」
「まぁ待て」とエリオット。「ならずの王に会おう」
「ならずの王か」
アンナが頷く。「いい案だな。なじみか?」
「顔がきく」
「自信満々だな」
「行こう。さっさとこの街を離れたい」
「そんなに昔の恋人が怖いか?」
「いい別れ方じゃなかった」
「ブス同士じゃ美しくなるはずがない」
「俺はブスと付き合ってない」
「自分は?」
「自分で言わせるのか? 俺は謙虚でいたい。気持ちを汲んでくれ」
「お前は不細工だ」
歩き出した。ならずの王の下へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます