1-6
小さい村なので、ピーソーが住むという屋敷はすぐに見つかった。
「屋敷というか、ちょっと大きな家って感じだな」
エリオットが言った。
「郊外の村ってのはこんなもんだろ」とアンナ。
「これを屋敷って言うんだから、やるせない」
「都市の住人とは違う。ここの奴らは金も時間もない」
「そんな中でも穀潰しはいる。どうする?」
「私が乗り込むと思ったのか?」
「そうするもんだとばかり」
「馬鹿にしてるだろ? 私のこと」
「尊敬してる」
「本当はどう思ってる?」
「人殺し」
「それはお前だ。首斬り野郎」
「そういうこと言うなよ」
「お前が先にいけ。私は外にいる」
「はいはい」
エリオットが扉に近づき、ノックした。
中から年老いた女の声がして、それからすぐに扉が開いた。グレーの髪、くすんだ色をした肌、深いほうれい線と眉間に皺。紫色の唇の奥には欠けた前歯。
「どちら様ですか?」と女。ピーソーの母親だろうか。
「ローゼンベルク修道院から来ました」
「司祭の方ですか?」
訝しげな視線。確かにエリオットは司祭服を着ていない。
「トマスの遣いです。個人的なお世話をしております。今日はトマスから用事でピーソーさんに会いにきました」
「ピーソーに?」
「えぇ。間違いないです」
「ちょっと呼んできます」
扉が一旦閉まった。
後ろを見る。アンナは消えていた。どこ行ったんだよ。外で待つのは冷える。荒野にぽつんと佇む小さな村だ。遮蔽物なんてない。風の冷たさがそのまま身体に当たる。
扉が再び開いた。
同じ女が出た。ピーソーではない。
「すいません。さっきまでは居たんですが」
「いないんですか?」
「はい。すいません」と女。
家の後ろで物音がした。
「そうですか。ではまた日を改めます」
女が消えた。
さっきの物音が気になった。
扉が完全に閉まってからエリオットは裏手に回る。
「エリオットか」とアンナ。
傍らには金髪のデブがいた。
アンナがナイフを顎の下に当てている。
泣きそうな顔で頬が赤く染まっていた。太った身体、金髪に濃い腕毛、低い鼻、あばたに無精ひげ。
「そいつがピーソーか?」とエリオット。
「変態っぽいだろ?」
「俺は優しい人間だから明言はしないよ」
「お前が扉をノックした後、裏から逃げようとしていた」
「最高だな」
「こいつは何か知っている」
見たことろ変態だが、悪そうな奴じゃない。今まで死刑執行人として、悪い人間は腐るほど見てきた。ピーソーはいいとこ小悪党止まり。
「どこに連れて行く?」とエリオット。「ここは見晴らしが良すぎる」
裏手は畑だった。冬なので作物も少ない。乾いた土に積み穂が点々と広がっているだけだ。さっき顔を出した女は親だろう。神経質そうな奴だった。見つかりたくない。
「教会へ行くぞ。ピーソー、歩けるな」
「あ、あんたら、なんなんだよ」
初めて喋った。泣きべそで鼻水を啜る。
「正義の使者だ」とアンナ。
それを聞いてエリオットは笑った。
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