第3話

 ハルの母親に怒られた俺たちは入口前で、さっさと黒球にキレイにしてもらう。ついでだからハルの母親もキレイにしたら、1割増しの美人になっていた。ハルの今後に期待だ。

 夕食後、すぐに寝付いたハルをそのままに静かに外に出た。月が無いので薄暗い。このケモノボディは夜目がくようだ。明かりのない物陰や石壁にたいまつがあるのまで見える。


「とりあえず、今後のこともあるからなぁ。戻れるのかなぁ。」

「やっぱり戻るの? 森に。」

「……起こしちゃったか。まぁ、あてもないんだけどなー森には。」

「居たいだけ居て良いのよ? ハルも居て欲しいだろうし。」


 ハルの母親が家の入口から声をかけてくる。あてはないが、黒球がいれば大丈夫だろう。ハルは弓があるから大丈夫だな。


「まぁ、気が向いたらまた来るさ。」

「そう、いつでも来てね。門まで送るわ。」

「いや、それより街とか無いか教えてくれ。」

「明かりの無い方の門から出て、まっすぐ行けば着くわ。でも数日かかるわよ?」

「なんとかなるさ、ハルによろしく言っておいてくれ。」

「わかったわ。」


 別れは寂しいからなー。愛着が湧いてしまう前にどこかの街にでも行ってみよう。

 昨日の熊を警戒してか門は閉まっていた。

 門番のオッサンが眠そうにしている横をすり抜け、石壁の上へ。ふちに立ち黒球を捕まえる。オッサンを起こすのも悪いし静かに行こう。車輪跡が見えるから方向は良しっと。


「俺の体を持ち上げて、あっちへ進めー。」


 ふわふわと滑空しながら、村の外へ。地上3メートル付近で水平飛行になった。もっと高度をあげるように言っても黒球は高度を上げなかった。この高さが限界らしい。歩くよりは良いなと思うことにする。

 夜道。月明りのない状態でも、わだちが眼下に見えている。このまま行けば数日で次の街か。わだちはまっすぐに伸びているが、左右に夜の森があるため遠くまでは見通せない。


「俺の害になりそうなものがいたら教えてくれ。あと自動で迎撃してくれ。」


 と言うと、俺の周りに矢印が2つ浮かび上がった。2つも害があるのか。指示しなくても良いかが気になるな。マップのようなものは表示されないらしい。少し残念だ。

 しばらく進むと、1つの矢印が動き始めた。相手が動き出したらしい。矢印の方向を見るが、動くものは見えない。結構離れているのだろう。もし相手に見つかっていたら狙い撃ちされるだろう。先手を打ってみるか。大きな音は避けたいが。


「静かに攻撃しろ。」


 矢印の方向を見ながら言うと、黒球の高音のみ聞こえた。目の前の矢印が一つ消えているので、倒したのだろうか。確認するため移動する。

 5分ほど森を進むと、小さな人型の何かが地面に横たわっているのを見つけた。まさか人をと思い近寄ると、肌が緑色をした身長1メートル弱と思われる人型が、血だまりの中にいた。

 顔の部分がえぐれており、ひどい有り様だ。手の指は3本、足の指は4本か。人じゃないな。木の棒が手の傍に落ちているが、拾う必要はないだろう。血の匂いがしないのは黒球のおかげか。下手に臭いを嗅いでしまったら大変だった。

 確認も終わったので元の道に戻ろうとすると、黒球が人型に追い打ちをかけ始めた。


「おいおい、ってなんか光ってるな。」


 人型の胸付近、心臓の辺りに正八面体の結晶があった。黒球が回収している。エサなのだろうか? と、数秒見ていたが、黒球は持ち上げたまま動かない。結晶を見せてもらうと、透き通った結晶の内部にモヤが漂っている。価値など分からん。

 街についたら誰かに見てもらおう、と黒球にしまうように言い、元の道へ戻った。

 もう一つの矢印に変化は無かった。何かあっても黒球がどうにかするだろう。日が昇るまでに進めるだけ進もう。俺は乗っているだけだから楽なものだ。月明り以外にも光っている花や虫がいる。名前は分からないが、取っておけば売れたりするのだろうか。


「移動しつつ、役に立ちそうなものは回収してくれ……って、うわぁ!」


 と、黒球に言うと、色々な方向から物が飛んできた。思わず警戒してしまうが、これは回収してるのかと思い直す。まるで掃除機だな。まぁ、あって困ることもないだろう。どれだけ保管したのかを街に入る前に確認しよう。

 数時間も道なりに進むと、空が少し明るくなってきた。日の出まで2時間くらいだろうか。

 黄昏たそがれていると、村が見えてきた。遠くて詳しくは分からないが、たくさんのものが動いている。


「ん? こんな明け方に何をって戦っているのか?」


 俺の目の前に矢印が多数現れる。敵なのだろう。黒球とともに近づいていくと、数時間前に倒した緑色の人型が多数、村人と交戦していた。俺が倒したので移動しちゃったりしてないよな。まぁ、倒すのが先か。


「あの緑色のを倒せ。」


 と言うと、俺の左右の地面が所々えぐれ、土球が出来上がる。

 しばらく俺の近くで浮遊していたが、射程に入ったのだろう弾丸のように飛び、緑色の人型にぶつかり四散した。ちゃんと村人に被害が出ないようにしているらしい。

 飛び散った土で村人が大変なことになっているが。少し咎めるように黒球を見るも、黙々と緑色の人型を倒していく。全て倒しきったようだ。黒球が静かになった。

 周りは地面に穴が無数に空いている。どれだけ撃ったんだよ。村人も呆然としていたが、すぐに動き出し地面に倒れうめいている人型に止めを刺していった。

 その後、俺たちに気づいた村人が武器をこちらに向けた。まぁ、こんなりでは警戒されるはずだ。

 地面に降りて声が届く距離に近づく。黒球は俺の上で浮遊している。村人同士で話している会話が聞こえてきた。


「なんだ、あの小さいのは。」

「おーい、言葉は通じるかー?」

「!? ぉ、ぉい! しゃべったぞ! 上位種か!?」

「なに……ってあんな小さい上位種がいるのかよ。」

「おーい! 通じてるならなんか返せよ!」

「うるせー! 黙ってろ!」

「えぇ……?」


 話しかけたら体が小さいことを軽くディスられ、さらに暴言かよ。まぁ、襲撃後に未知との遭遇では仕様がないか。

 少し待ってみると、話がまとまったらしい。先ほどの村人が武器を向けながらも近づいてきた。


「言葉が話せるんだな?」

「話せるぞ。」

「あの攻撃は、お前がやったのか?」

「そうだ。」

「そうか、礼を言うべきなのだろうが先に聞きたい。この村に何か用か?」

「この先の街に行く途中だ。この村は通りすがりに襲われていたから来た。」

「そうか。助けてくれたことは感謝する。でもな……襲撃があったばかりで、お前みたいなのを近寄らせたら他のみんなが警戒するんだ。」

「わかった。」


 攻撃されても困るし、迂回して街を目指そう。

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