7人でいちばんの……

 全身焼けただれ、ところどころ消し炭のように見えた死体が、しゃべった。

 「うれしいですわ、お義母さま」。

 微笑みながら死体は、ドレスの袖でハンス王子のの顔をぬぐった。自らを抱き寄せキスをした、美しい男性の顔を。

 とたんに魔術のマスクが剥がれ、もとの王妃の顔があらわになる。


『!!!!』

 

 一同を驚愕が襲った。

「皆様!」

 死体だったはずの姫は、軍人、聖職者、役人、この国の中枢である50人に向かって、魔術のマスクを取り上げた。

「これをご覧下さい! 王妃は、この国で禁忌とされている魔術使いです!」

 さらに玉座へ。

 そこの偽王妃のマスクも、同じように剥がす。

「それだけではありません! この侍女を替え玉に仕立てておいて、自分は王子に化け、この国を乗っ取ろうとしました。父が病気で倒れたのも、この者の仕業に間違いないでしょう!」

 とつぜんの事に、一同は事態を飲み込めない。

 ざわざわと騒ぐだけだった。

「姫! 白雪姫!」

 将軍だけが、進み出る。

「間違いなく姫なのですね。いままで、いったい、どうされていたのですか」

「この者に、命を狙われたのです」

 鋭い視線を呆然としている王妃に投げかけてから、姫は縛られている7人の小人たちに駆け寄った。

「そして、彼らに助けられた」

 1人、1人、縄をといていく。


「……生きていたのか」

 そこでやっと、王妃は口を開いた。

 美しい顔を、

 醜く歪ませて、

 憎悪にこもった目で姫を見る。

「何故だ? その火傷で、どうして生きていられる」

「あらあら。こちらは貴方の本分でしょう? お義母様」

 笑う白雪姫。

 小人から渡されたスカーフで、焼けただれた手足をぬぐう。すると火傷の跡は消え去り、元通りの白い肌があらわれた。

「魔術か!」

「魔術を使えば、別人のような姿になることも出来る。狩人の男を、老婆の姿に変えたのは貴方でしたのに」

「どうして貴様が魔術を……まさか!」

 王妃はハッとして、小人を見た。

 7人のうち、1人が胸を張る。

「その通り! 俺は小人族の王、クロサワ・カンベエ。7人の中でいちばんの魔術の使い手だ!」


   ※   ※

 

 その日の朝。

 王妃の魔術により、崩壊寸前の燃えさかる礼拝堂。

 その地下室に閉じ込められた、白雪姫と7人の小人たち。

 白雪姫は決意した。

「残された時は刹那、迷いは敵です!」

 自分を犠牲にしてでも、小人たちの命を救うつもりだったのだ。

 しかしカンベエは言った。

「待て!」

 白雪は無視した。真空の竜巻を起こす技を繰り出そうとする。

「『暴空龍旋翔』!!」

「はいほぉ!」

 しかしそれは、カンベエの体当たりによって止められた。

「ぐっ……」

 うずくまるカンベエ。

「カンベエ師匠! まさか、足が折れて……!」

自棄やけになるなよ、白雪。王になるのだろう。自分を棄てるのはいつでもできる」

「師匠……!」

「いいか白雪。俺は魔術使いだ」

「えっ!」

「そして、この地下室のさらに下には、魔術の品々を収めた秘密倉庫があるのだ」

「なんですって!」

「入り口はここだ、ほら」

「まあ……!」


「時間が無い。この建物は、3分後には崩れるだろう。

 手短に言うぞ。

 これから『暴空龍旋翔』で、この建物ごと俺たちを吹き飛ばせ。そうすれば火は消える。そしてお前は、落ちてくる残骸で生き埋めにならないよう、即座に秘密倉庫に隠れるんだ。だいじょうぶ。この古い礼拝堂とは違い、倉庫は新しく造ったもの。かなり頑丈なんだ。

 そのあと俺たちが、お前を探すフリをして時間を稼ぐ。

 崩壊した瓦礫の撤去なんて危険な作業は、人間たちはやりたがらないだろうから、兵士たちは静観するはずだからな」

「なるほど」

「その間に、お前は、いちばん奥の棚の下の段に置いてある、『火』と書かれた壷をさがせ。中にある紫色の薬を全身に塗るんだ。そうすれば、重症の火傷を負ったような外見になる」

「! 死人を装うのですね!」

「そのとおり。そうすれば、王妃の油断を誘えるぞ」

「さすが師匠!”」

「さあ急げ、もう時間が無い!」

「はい! では皆さん、覚悟して下さい! 『暴・空・龍旋翔』!!」


   ※   ※


「……高度な知識が必要な魔術を、まさか低脳で底辺で低級の、小人が使いこなせるなんて……!」

 王妃は悔しさのあまり、ギリギリと歯を噛みしめた。歯がぜんぶ砕けてしまいそうなほど強烈な音をたてている。

「蔑みで目の曇った人間に、真実は見えません」

 白雪は断言した。

「私のドレスがほとんど燃えていないことに、気づかなかったのは貴方でしょう?

 圧死したはずなのに、火傷ばかりだったのを不自然に思わなかったでしょう?

 兵士たちを魔術で傀儡にしたために、私が棺の中で動いてしまっても分からなかったでしょう?

 貴方のすべてを奪うのは、貴方自身の愚かさですのよ」

 いまや白雪から、完全に火傷の跡は消えていた。

 雪のように白い肌。

 黒檀のように黒い髪。

 血のように赤いドレス。

 グリム王国の、正当なる王位継承者。白雪姫だ!


「うるせェー!!!!!」

 王妃は叫んだ。

「もうヤメだ! うざってェ! ドレスも王冠もいるかボケ! 王妃なんてクソくらえだぁっ!」

 目を血走らせ、口から泡を飛ばし、金髪をかきむしる。

 あまりの様子に白雪でさえも戸惑った。

 ブチ切れた王妃は、歯ぎしりの隙間から言葉を漏らした。

「殺してやる」

 それに呼応して、武器をとる300人の兵士。

「いかん! 王妃を逮捕しろ……ぐっ!」

 前に出た将軍の肩に、

 兵士の投げた槍が刺さる。

「お前ら全員ぶっ殺してやるぞぉぉぉぉぉぉ!!」

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