第六節 痛みと


 僕は 選んだ


 ここであなたの為に散ること


 あなたが愛する瞬間の為に命を捧げることを


 あなたは蝶の姿の僕を“カラ”と呼んだ


 人の姿の僕に似ているからと


 そう言って




 きっと 人の姿であなたの前に現れる方が


 あなたは喜ぶのだろう


 だけど僕はそうすることができない



 僕の心には漠然と感じる恐怖があり


 そして決して理解する事の出来ない淋しさがあった


 言葉で言い表せない欲心があり


 胸の底から感じる冷たさが



 ただ、苦しかった





 時の流れと共に感じる体の中の老い


 目に見える美しさだけは消えず


 そして冷たさにまみれた心だけは永遠に続くかの様な錯覚を起こす




 ナナは僕の名を呼ぶ回数が日に日に多くなり


 僕をじっと眺める時間が日に日に長くなった


 今日も彼女は僕の名前を呼ぶ




「から…」




 それは蝶の僕なのか


 それとも人の僕なのか


 分からないまま彼女を見上げる




 最後にあなたに伝えたいことがある


 朽ち果てる前に


 蝶の僕には決して伝えることの出来ないたった一言を




 本当の最期に……



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