異形は人間に憧れる

柘榴

第一章 アラオザル大森林にて

序文 人間の少女と異形の〝私〟(修正)


気づいたときには、〝私〟はじっと見つめていた視界に映していた


〝私〟をじっと見つめるその碧色を。


澄んだその光がすっと真っ直ぐに差し込んでくるのを感じて、思わず身動ぎした。きっとその僅かな動きがなければ、〝私〟は〝私〟自身に肉体があったことにさえ気づかなかっただろう。

そうだ。〝私〟はそこまで―――他者が見ればひどく滑稽なほどその瞳に―――その碧色に、魅了されていたのだ。


もっと近くで見てみたい。その色で、もっと〝私〟を映してほしい。そのときの〝私〟の思考は、きっとそんな欲求で埋め尽くされていたのだろう。

ともかく突き動かされるように、或いは何かに背中を押されるように手を伸ばした。否、伸ばそうとした。


まず、ずっと〝私〟を貫いていた碧色がびくっと揺れた。

怖がらせてしまっただろうか。そう悔いながら、なんとなく、伸ばした手を見ようとした。だがそこにあったのは、―――緑色のぬらりとした物体。


……んん?


違和感を感じた。その違和感が切っ掛けだった。〝私〟は視界に入っていた碧色以外を認識できた。

その碧色は瞳だった。

陶器のようにすべすべとしたつややかで白い肌。背中までまっすぐに伸びた、赤みがかった金色の髪。それらと共に女性雌性体の―――いや、小さな小さな少女若い個体の顔を彩る瞳だ。

明らかに子ども、というよりもとてもとても幼い彼女は相応に小さく細い足で地面に立ち、〝私〟をじっと見つめていたのだ。

その細い体を強張らせながらまるで怖がっているかのように


その強張りの理由は―――のちに振り返って見ても奇跡的だと思えるが―――何故だか理解できた。


少女の肢体に、10を軽く超える〝緑色のぬらりとした物体〟が纏わりついていたからだ。

そう、〝私〟は手を伸ばそうとして―――十数本にも及ぶ〝触手〟を伸ばしていた。


その瞬間こそが、〝私〟が〝私〟を〝私〟として認識した初めての瞬間。


人間である彼女と、異形である私との、〝はじめまして〟だったんだ。




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