第12話 ひどくて結構

 俺らは壊れる。ものは故障する。壊れたら直す、悪いところをよくする、そうしてまた使われる。あんまり壊れると治らない。壊れたまま、そういうわけにもいかない。壊れた俺らは邪魔だ。


 俺とレディは町を走っていた。俺は足が早いけど、レディにはかなわない。なんてったって車だから。青くて、ライトがまん丸でかわいい。俺はレディを運転する。俺の生まれたところから少し離れたガソリンスタンドの車。俺と家出をしてくれた。今そこからすぐの町にいる。俺は車を家の裏に停めた。



「気を付けてね」



 なにも言わずに窓に飛び乗ってそーっとあける。家の住人はいるが、今はご飯を食べているようだ。俺は誰もいくなった子供部屋に入る。



「なんだこれ!?」


「うそ、転がってる」



 ものが動き出す、そして喋りだす。レディと二人きりだったからすっかり忘れていた。



「少し黙ってて、お願い」


「あなたがやってるの?」


「そうだよ、俺がやりたいわけじゃないけど勝手にね。電池を少し分けてくれないか?」



 ボールが足元に転がってきた。



「あんた、電池いるの?大変ね」


「何であたしは動けないのよ!ずるいわ、みんなばっかり!!」


 かわいいドレスの子が大きな声を出す。お人形さんはしゃべるだけで動けない。がたがたと、奥の部屋からも声がし始める。



「みんなちょっと静かに」


「嫌よ、楽しいもの!」



 急いで電池を探す、ゴミ箱の中や部屋のすみ。見つからない。こうなったら



「あんまりうるさいと電池抜いちゃうよ」


「ひどい」


「あんまりだよ、なんだお前」



 俺は、俺はだってこんなところで見つかって、あそこに戻るわけにはいかないんだよ。ひどくて結構だ。



「あたしの使っていいよ、不思議なロボットさん」



 声のする方にいたのはおもちゃのピアノ。いやキーボードだ。



「どうして?」


「残り少なくてもいい?」


「全然いいよ!」


「この中で一番使われてるから、なくても新しいのいれてくれるわ」


「そうなんだ、いいね」



 俺はキーボードから電池を抜き取る。それでも彼女は俺にこういった。


「ふふふ、実は私コードがついてるの」


「え!?」



 よく見るとキーボードから伸びたコードが壁に刺さっていた。ひとりでに音が出る。



「君すごいね」


「まあ動けない、けどね」


 キャスターもついているが、線が延びるところまでしか進めない。さらに不満をいう。


「さっきからやってるけどメロディにならないのよ!」


「それはごめん、俺の力不足だよ」



 俺の奇跡は少しだけ、だからたいしたことができない。キーボードど話して、油断していたようで



「だあれ?」


 すぐ上にミカより小さい女の子の顔があった。


「うわあ」


 思いきり腰を抜かす。キーボードや他のものたちはご主人さまの登場に喜ぶ。



「ねえ、私を弾いてよ」


「あ、ずるーい!」


「なにこれー?みんなおしゃべりしてる!」



 俺は逃げた、人間は怖い。どんな可愛い子も怖い。



「パパママ!みんなおしゃべりしてるのー!」



 その声を聞きながら、俺は窓から飛び出した。楽しそうな女の子の声でミカを思い出した。

 初めて会ったときあいさつしたら、喋って動く俺を怖がって、そして壊した。怖かった。研究者の子どものひとりで、好奇心が強い。そのうち慣れてくると俺とよく遊んだ。でも乱暴だった。ミカといると俺はただのおしゃべりロボットだと改めて感じた。何度も壊され作られ壊され作られた。俺はたぶんついに壊れたんだ。でかいゴミだ、どこかに俺が安らげるごみ捨て場はないだろうか。どうにかあそこに戻らず、少しでも自由に暮らせないだろうか。

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