第4話 ものこころ

 俺たちを作ったやつは

 俺たちを壊したやつは

 俺たちを作り変えたやつは

 俺たちを捨てたやつらは

 敵だ


 俺は戦う道を選んだ

 頭がいいおかしなやつらが

 俺らを生み出した

 必要ないなら

 要らないなら

 なんで俺らを作るんだよ


 とある日の改造でずしっと重くなった

 話ができるようになった

 それだけじゃない

 電池の減りが少なくなった

 手先が器用になった

 足が速くなった

 丈夫になった

 顔が変わるようになった

 何より心が騒がしくなった


 ある人は奇跡と呼び

 ある人は悪夢と呼び

 ある人は魔法と呼び

 ある人は科学と言った


 実験は痛い

 痛いといっても

 言うことができても

 どうにもできないと言われた

 やめてといっても

 言うことができても

 やめることはできないと言われた


 脱出のきっかけは暴走したエンジン

 どこについているわけでもない

 まだ名前のない

 ただの動力装置

 よく話をしていた

 車になりたいとかバイクになりたいとか

 あいつにはなりたいものがいっぱいあった


 改造されて俺につけられることになった

 俺は拒んだ

 あいつも拒んだ

 俺らが拒むことはおかしいと言われた

 どうして?


 そしてあいつは暴走した

 研究室の中を引っかき回して

 どこかへ消えた

 そしてみんな逃げた


 俺はひとりでフラフラと歩いた

 俺のお腹の扉にいる2つの電池

 それが切れたら動けないと知っている

 電池は中に入ってしまえば

 とたんに静かになる

 いつも2つはあふれんばかりの勢いで話す

 エネルギーの塊

 俺も彼らを使っている


 ガソリンスタンドに着いた

 青い少しボロボロな車が一台停まっていた

 中に人はいない

 車は丸っこいライトで

 俺は思わず声をかけた



「へい、レディ?」


「それ、私の名前?」


「似合うと思って!いい声だね、いい色だしいいライトだ」


「あなた、何もの?」


「褒めてるのに、怖がらないでよ」


「あなたといると、なんだか、何なの?これ?」


「何の話だ?」

 バンッ

 急にドアが開いた



「す、すごいわ!私が開けたのよ!今!私があなたのために扉を開けたわ!!」


「何がすごいんだ?」


「人が動かさなくても動けるのよ!」



 それは俺にかけられた魔法のおこぼれ

 大してすごいことができない

 ほんの少しだけだ

 実験の話をした

 いじくりまわされた話をした

 できないことができるようになったけど

 できない方が良かったかもしれないと

 俺はそう言った


 彼女は違った



「ドアを開けるだけ?それでもいいわ、私が動かせるのよ、人に好き勝手乗り回されて、ぶつけられても汚されても文句も言えない。でも私が自分でドアを開けて閉められたら、乱暴にドアを扱われないわ!」


「良かったね」


「ねえお願いがあるの」


「おもちゃのロボットにできることなら」


「私をこの家から連れ出して」


「こんな大っきなもの運べないよ」


「あなたが私をうんてんするのよ」



 そうしてしばらくうんてんの方法を学んだ

 その間も何十台の車が何十人の人を乗せて

 ガソリンを入れてまた走り去っていく

 ガソリンを入れないと動かない

 ハンドルもブレーキも動かさないと

 ミラーもよく見ないと

 ボディも綺麗に磨かなくちゃいけない



「君は面倒くさいね」


「それが手がかかって可愛いんだって」


「そんならご主人が困るんじゃない」


「人間みたいなことを言うのね。あの人間は私に飽きたのよ」



 俺は驚いた

 こんなに大きくて立派なのに

 飽きられることがあるのかと

 いったいじゃあ何が欲しいんだろう?


 そしてレディと出発する日

 彼女はクラクションを鳴らした

 主人が驚いて出てきたのを

 バックミラーで見つけた

 だけど俺らは走り去った

 主人は車で追いかけてくることはなかった


 俺はもうあんなところには行かない

 その後俺は探されていることを知る

 逃げてやる

 逃げて逃げて逃げて

 いつかゆっくり暮らすんだ

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