第5話:ヒナタの能力

三時間ほど前、2人は軽い自己紹介を済ませ、ギルド「翼竜の鱗ワイバーンスケイル」に冒険者の登録を行いに向かった。

登録は案外簡単で、名前を名簿に記入して首からギルドの印の入った首飾り(ドックタグみたいなものか?)を下げるだけの様だ。

そこで”古代遺跡の調査”という割と難易度の低い仕事にありついたという訳だ。

少し予感はしていたが、やはり徒歩で移動するようだ。もう少し遠かったり難易度の高い仕事だったら馬車などが貸し出されるらしいが、如何せん遺跡調査ではランタンの貸し出しが関の山だとエスカも苦笑いをしながら答えていた。

そんな訳で、太陽が夕日に差し掛かり空が朱く染まるのはアナザーこっちでも同じなんだなぁと物思いに耽りながら、ヒナタは胸のあたりまである背の高い草をかき分けエスカと共に遺跡へと足を運んでいた。


「ねぇヒナタ~。まだ僕が男だったこと気にしてるの~?」

「気にしてねぇよ。いや、ほんとに。」


実のところまだ少しだけ。ほんの少しだけ引きずっている。不覚。可愛い男にときめいていたとは…。


「え~、ホントかよ~。ならいいんだけどさ!あっそうだ、そういえばさヒナタ」


くすくすと笑いながらエスカは続けた。


「さっき自分の事祝福持ちって言ってたけど、どんな能力なの?」

「あー、それか…。実はよく分かんないんだよな。こっち来たばっかりだからどんな種類の祝福があるか知らないし…。」

「こっちの世界来たばっかりってことか!そりゃわかんないよねぇ~。…ん?じゃあそもそもどんな状況で祝福を持ってるって判断したんだい?教会行ったとか?」

「いや、教会は行ってない。転移したとき丁度人狼に襲われて、背中を攻撃されて吹っ飛んで…死んだ!と思ったら突然人狼の後ろ側に立ってたんだ。もしかしたらこれが祝福じゃないかってな。」

「へぇ~…。……背中?傷なんかどこにもないじゃん。」


エスカに言われて初めて気づいた。そうだ。傷がついているはずだ。すぐに確認をしたが傷がないどころか服すら避けていないし血痕はどこにもついていない。


まるで攻撃されていなかったかのように ―――


「僕に言われるまで気づかなかったのかよ!」

「考えすらしなかった…。」


なぜ思い至らなかったのだろう。だが、これで自分の能力を知るという目標に一歩近づいた訳だ。


「君って意外と抜けてるよね。まぁいいや。そんなことよりもここは僕に任せてくれ給えよ!僕の祝福、垣間見る者プレディクションを使えば能力名も効果もバッチリさ!」


ふふん、とこれでもかと言わんばかりに誇らしげにエスカは手をかざし、集中し始めた。

淡い光がエスカの両の手から発せられ、その光はヒナタの全身を覆いやがて空へ消えた。自分の能力があっさりとわかってしまう事に多少の名残惜しさを感じていたものの、胸中は高揚感で満ちている。


「…ッ」

「どうかしたか?もしかして、そんなに強くて珍しい能力だったか?!」

「あ、あ~、強いのかなぁ。よくわかんないや…。でも、絶対珍しいよ~これ!聞いたことないもん。」

「本当か!!教えてくれ!!」


「まぁまぁ、そんなに焦らず!言うって言うって。ね、落ち着いて」

高揚感を抑えきれずがっつくヒナタをエスカは宥めつつ、コホン、とわざとらしく咳ばらいをし能力の説明を始めた。


時の捜索者タイムシーカー、触れた物の時間を"10秒だけ"巻き戻す。…ですね。」


え、弱くね?と少しガッカリしたがすぐに思い直した。

人狼から受けた傷が無くなっていたこと、手に持っているランタンがどこかへ行ってしまってないところを鑑みると、恐らく意識しないと発動しないのだろう。そして効果は自分にも適用されるから、


即死でない限り死ぬことはない。


いや、それも正しくはない。10秒間致命的な攻撃を食らい続ければ死ぬだろうが、実力の開きがそこまでない戦いなら無敵と言っていいかもしれない。

派手さは無いが、間違いない。とんでもなく強い。この能力。

説明の少なさからまだ能力の考察の余地はある。連続使用は可能なのか。例えば魔法に触れて時を戻したとき、傷は残るのか…。


「アハハ、すごい騒いだと思ったら今度は黙りこくっちゃった。忙しいねヒナタ。」

「ま、考えんのはあとにしよーよ。着いたよ、遺跡!」


興奮冷めやらぬまま、ヒナタは古代遺跡へとたどり着く。

手元のランタン以外の光源がなく、不気味さを体に語り掛けてくる遺跡の佇まいを前に少し尻込みするも、これからの冒険を思いヒナタの心は踊っていた。


「よし、行くぞエスカ!」

「はいよ~」


2人が足を踏み入れるころには、既に高く2つの月は上り、淡く空を照らしていた。

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