第39話「魔力境界線」

「やはりみっともないな……」

「そんなこと言ったって仕方ないじゃないですか、そのうち義足を作りましょ」


 俺とピアニッシモは、今いる島の状態を歩き回って探ることにした。もっとも歩き回ってという表現は正しくはない、俺の足はもうないのだから。

 仕方なく、翼の力で、いやそれも正しくないな俺が翼を使うのは高度を高速移動するときのみなので、現在は魔力でホバーリングして移動している。

 まあ何というかだいぶ格好悪い。

「しかしほんと、この島は魔力が弱まって仕方ないな。おかげで本当にゆっくりしか進めない」

 本来魔力を使った飛行であれば、スムーズな移動も可能なのだが、現在、人間の歩行速度よりはるかに遅いスピードでしか進めない。


「だから、アイシーンさんが抱きかかえながら移動しましょうかって言ってたじゃないですか。素直にそうしてもらえばよかったのに」

「そんな恥ずかしい真似できるか」

誰が見てるわけでもないが、俺のプライドが許すはずもなかった。


「恥ずかしいって言ったって、いまは夜だって相手任せじゃないですか。私たちの方から動いてあげないと何にもできないんですからね」

「なんだと!」

確かにその通りだがはっきり言われたら腹が立つ。

「あ、怒っちゃやだです。いいんですか。夜してあげませんよ」

何だと、ピアニッシモめ俺を脅す気か……。

と、そんなおちゃめな会話をしてると急に、俺の体がドスンと地面にたたきつけられた。


……いや、そんな派手な落ち方ではない。

ストンっと、俺の体は急に浮力を失って、地面に落ちたかんじだ。大した痛みもないが。


「な、なんだ?」

「ど、どうしたんですかゴーガ様」


とっさに敵を疑って、周囲を見回す。周囲は木々に囲まれていて、地面は雑草がうっそうと生えている。何かの生き物の気配はないのだが。

「ピアニッシモ気配を探れ、お前の方が耳がいい」

俺は小声でピアニッシモにそう指示を出す。

「は、はい……」


もちろん俺も警戒を怠らない。

そして地に身体が付いたままではみっともないので、再浮上しようとするが。


「おかしいな、まったく身体を浮かせられん」

ピクリとも身体が動かない。

というよりこれは、魔力そのものが全く働いていないのか。

試しに、炎の剣を手に出そうとするも、案の定何の変化も起きない。


「ピアニッシモ、ちょっと促進系の魔法をその辺の植物にかけてみろ」

「え、なんでですか?」

と言いながらも、ピアニッシモは周辺の雑草に手を当てて魔法の言葉を発す。


「……あれ、おかしいです。全然魔力が出せません」

 案の定ピアニッシモも魔力が使えないようだった。


「やはりか……どうもこの周辺に俺たちの魔力をおさえる何かがあるっぽいな」

「そ、そうなんですか?」

 素直に驚いた様子のピアニッシモ。

 この島に3年近くいながらこんなことも発見できなかったとは、やはり頼りない。


「周囲を探せ何かあるはずだ」


「な、何かってなんですかぁ?」

「分からんけど、何かだ。魔王である俺の魔力をおさえるようなものが普通に存在していいはずがねぇ」

 絶対に何かがある、しかもこれは見過ごせねぇ。

 とはいうものの、周囲には木々がおいしげるのみで、何かがありそうではない。だがそれでも何かを探さなければいけない。

「何を探せばいいんですかぁ」

 そういいながら、見えない何かを懸命に探しまわるピアニッシモ。足で草を払いながら文字通り草の根を分けて探している。何かを……。

「お前とアイシーンはこの島にいる間誰にも会ってないんだよな、建物とかそういうものも?」


「ええ、そういったものは全くなかったと思います。どこに行っても同じような、林の中で、エルフの方法感覚がなかったら結構迷ってしまいそうだから、まあ島全部を把握できたわけではないですけど」

「この辺には来てなかったのか」

今いる場所は拠点としている入江の洞窟から、歩いて、いや低速ホバーリングで1時間くらいのところだ。

「多分来てます。さっきの川で食料とか取りに来てた覚えがあるんで」


「しかし、魔力がこの辺で急激に失われることには気が付かなかったんだな?」


「えぇ、とくに魔法を必要とする場面もなかったですし」

情報を交換しながら、ピアニッシモは周辺をぐるぐると歩き回った。草をかき分け、木の葉の間を目を凝らしながら歩き回る。俺は動くことができないので、そのピアニッシモをただ見つめる。

 この行為になんの意味があるのかはわからないが


「あ、ゴーガ様、この辺だったら、少し魔法が使えるっぽいです」

そういって俺から20m位離れた地点で、ピアニッシモが声をかけた。


なるほど……、これは使える。


「ピアニッシモそのまま魔力を出しながら、使えなくなる地点まで歩いてくれ」


「え、はい。こうですか?」


そういってピアニッシモは来た道を戻った。もちろんすぐに魔法は使えなくなる。そりゃあそうだ、誰が来た道を戻れといったんだ。


「そうじゃない、魔法が使える地点と使えない地点の境界を調べてくれって言ってんだよ、円状に歩け―」


「わぁー、どういうことですか、分かんないよぉー」


なんでわからないんだよ。魔法の使える場所と使えない場所の境界を探れば、おそらく円周上になるだろう。もしそうなら、円の中心に何かがあると思うんだが。


「いいから、魔法を使えるところと使えないところが入れ替わるあたりをしらべろ」

「魔王様、もうじぶんでやってくださいよぉ!」

「自分で歩けないからお前に頼んでんだろう!」

とお互いに大声で言葉を応酬させたその時、


「うるさいわねぇ、もう!」


全く予想にもしてなかった人物が俺たちの前に現れるのだった。


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