1-6 町の中もアサツキだらけ

 アサツキトッピングの豆腐ソフトを食べながら図書館に向かって歩いていく。道中、いろいろ観察してみると浅葱町は確かに普通の町並みだ。

 道路はアスファルトできれいに舗装され、電柱も電線もあり、建物もワタシ達の世界と同じ“21世紀ニッポン”の町並みである。車はちゃんとタイヤが付いていて地面に付いて走っているし、空を飛んでいるのは鳥と飛行機だけだ。

 しかし、やはり異世界。道路脇の花壇にはアサツキが植えてあるし、ケイさんの案内でたどり着いた「浅葱町立第一図書館」にも沢山植えてありアサツキの花が咲いていた。

「街の名産とはいえ、花壇にまで植えるかあ?」

 ワタシは思わずツッコんでしまった。

「だから、言っただろ?こんなんは序の口で、まだまだアサツキに遭遇するぜ。」

「えー、まだアサツキに出くわすの。」

 ワタシがぶつくさ言っている間にケイさんはすたすたとカウンターへ向かっている。ワタシも慌てて追いかけた。

 カウンターのお姉さんとケイさんは馴染みらしく挨拶をかわしている。

「よっ、シキブさん。」

「よお、フリーター。女連れか。」

 …なんか随分なやり取りだ。それだけ顔馴染みになっているのだろう。

「そうそう長岡さん。こないだリクエストのあった『日本で最古のロックフェス~音速の夏・慶應元年~』はもうすぐ入荷するから。たまには借りずに買ったら?」

 …長岡さん?そっか、この世界ではケイさんは本名で通し、周りは「某将軍ドラマにおける貧乏旗本の三男坊」並みの扱いなんだな。しかし、すごいタイトルの本だわ。どういう本を読んでるんだ。

「で、その女性はもしかして彼女?」

 シキブさんと呼ばれたお姉さんは名札を見ると「紫」とある。ワタシはいらんコトをツッコまれる前に手早く挨拶をした。

「いや、その、初めまして田中達子と申します。あの…それ、苗字ですか?それでシキブと読むのでしょうか?」

「ああ、これ。個人情報保護法で苗字が伏せられるの。だから名前のみ。」

「ああ、だからムラサキだからシキブなのですね。」

「…本当は紫と書いて“ゆかり”と読むんだけど、どいつもこいつもシキブと呼びやがるんだわ。」

 図書館の司書なら公務員なんだろうけど、なんだかバイオレンスな香りがする人だなあ。

 まあ、いい、今はいろいろ知りたい。この世界のコトを知るならば新聞なり書籍を読んだ方が早い。ワタシはまず新聞を手に取り、ケイさんと共に閲覧席に着き、それを広げてみた。

 まずは一般紙。バックナンバーなら閲覧席に持ち込めるから、2、3日前のを数種類取り、席にて広げる。

「森本良太都知事、気象庁を視察」

 …そうだった。こちらの都知事はお笑いタレント気象予報士だった。こっちでも天気予報に重点を置いてるのか。次の記事に移るか。

「安西内閣…」

 こちらでは微妙に名前が違うんだな。顔写真は似てるけど、こういうところがケイさんの言う微妙な違いなのかもしれない。

「安西内閣、「選挙演説応援法」法案提出。支持率上昇の切り札か」

 聞いたことない法案だ。こちらは支持率が低迷しているのか。それにしても、「選挙演説応援法」って?

「この法案は選挙応援に身内の政治家だけではなく、芸能人などが堂々と呼べるようになり、選挙演説ライブも実現可能になり18~20歳前後の有権者を取り込む狙いがある…」

 …アホか。気を取り直して次はローカル新聞「浅葱新聞」を手に取る。

『町立浅葱農園にて浅葱第二小学校の子供達が農作業。子供達が笑顔でアサツキを植える』

『浅葱町の姉妹都市、萌葱市の公園にアサツキの球根300個を寄贈』

『野菜工場、次の段階へ。アサツキの通年栽培が課題』

『目指せ、浅葱町の次世代のブランド。アサツキの品種改良に取り組む人々を追う。連載第一回は…』

「ええい、アサツキしかないんかい、この町はぁ!」

 いちいちツッコミを入れるワタシのそばでケイさんはまたも笑いをこらえている。それ以上に周りも怪訝な顔でワタシを見ている。

「な、“微妙”に違うだろ?」

 ううう…び、微妙なのか?これ。ワタシは沸き上がる頭痛をこらえつつ、浅葱町の歴史みたいな本も読もうと本棚に目を向けた。

 比較的わかりやすそうということで児童書コーナーの「浅葱町の歴史」を手に取り、閲覧席にて広げ始めた。

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