第5話 お姫様と家に帰る。

 俺とティリアはファミレスから出て、家へ向かっていた。


 本当はもう少し詳しくいろいろ聞きたかったのだけど、ファミレスでずっと話を聞くと言うのも...どうかと思うので、もう少し落ち着いた場所で話を聞きたかった。

 それに俺一人で話を聞くよりも、母さんや妹など同性がいた方がティリアも話しやすいとも思った。


 通勤、通学の時間帯になり、道にはスーツを着たサラリーマンが駅へ向かっていたり、学校指定のジャージを着た学生が部活の朝練へ学校へ向かっている。

 すれ違うときにティリアの事を不思議そうに目で追っていたりする人もいれば、全く気にしない人もいる。

 ティリアはすれ違う人たちの目が気になったのか、俺の方を見て首を傾げ、なぜ? とでも言いたげだった。


 家に帰ったらとりあえず、服を買いに行かないといけないかな。

 ドレスじゃ動きにくいだろうし、それにこの格好じゃ目立ちすぎて街を歩くだけでも注目を集めてしまうだろう。

 現にティリアはドレスを着ていて動きにくいようなので、俺も歩くスピードを合わせてゆっくりと歩いている。


 大通りのこの道から信号を右に曲がり小道に入った先に俺の家がある。

 信号が青になるのを待っているときにティリアに聞いてみた。


「ティリアは異世界から日本に来るときに何か持ってきてないの? 異世界から来たと証明できるような物とか。」


 俺はティリアを家族に合わせる前に聞いておかなければならなかった。

 異世界から来たと言っても、家族は信じてくれるわけない。

 俺自身も確かめておきたかった。てか忘れてた。


「うーん、そうですね〜あっ! ありますよ。」


 ティリアは左腕の手首に巻いていた腕時計のようなものを俺に見せてくれた。

 よく見るとそれは腕時計ではなく、何かの丸く透明な水晶がついたブレスレットだった。


「これは何?」

「これは携帯型魔術マルチタブレット端末です。とても便利なんですよ。」


 そう言われても、ただのブレスレットにしかみえなかった。


「どうやって使うの?」

「こう使うんです。」


 そう言うとティリアは水晶部分を右手の人差し指で触れると、水晶が光を放ちティリアの前にパソコンの画面のような物が宙に現れて、様々な言語で書かれたページが現れた。


「私が涼祐と日本語で会話できるのも、この魔術タブレットのおかげなんですよ。」


 なるほどね、異世界から来たばかりなのに日本語を完璧にペラペラと喋ることができたのはこれのおかげか。 スマホの進化版のようなものかな。


「凄いねどんな仕組みなの? バッテリーとかあるの? 他にはどんなことができるの?」

「電力ではなくて、空気中の魔力を使って動いているんですよ。」

「他にも本当はいろいろできるんですけど日本で使える機能は言語翻訳機能と魔術ネットワーク検索ぐらいですね。」

「そうなんだ。じゃあティリアが住んでたラピス王国ではもっと便利な機能ができるってこと?」

「はい、ラピス王国では決められた地点にあるポイントへワープできたりも出来ます。」


 俺は宙に浮いた画面を触ってみようとしたが、指が画面をすり抜けてしまう。

「涼祐は触ることはできませんよ? ID登録がされているので、私にしか操作することはできないんです。」

「そっか、残念。」


 信号が青に変わり、再び家への歩みを進める。

 とりあえず見せてくれた魔術タブレットを家族にも見せれば、信じてくれるだろう。

 小道に入ったところで俺は自分の家を指差して「あの外壁が白で黒い屋根の家が俺の家。」とティリアに教えた。


「小さくて可愛らしいお家ですね。」


 俺の家は5LDKで自分で言うのもなんだけど小さくはないはずなんだけどな。

 ティリアはお姫様だからお城に住んでるんだもんな。それと比べれば俺の家は小さい家って思っても不思議じゃないのかな。


「ティリアのお城はどのくらい広いの?」

「とっても広いです。お城にどのくらいの部屋があるのか多すぎて、私も把握してません。」

「そうなんだ、一度見てみたいな。」

「でも私、家出してきたので...。」

「そうだったね。ごめん。」

「いえ、いいんです。」

「さあ、着いたよ。じゃあ入ろうか。」

「はい。」


 そして俺は玄関の扉を開けて家の中に入り、いつもより大きめの声で"ただいまー"と帰宅した事を家族に知らせるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る