13.奇祭(お題:どこかの女祭り! 必須要素:生理痛)

 かつて、瀬戸内地方の某所で行われていたその奇祭について、語る者は少ない。


 祭りは外部に開かれておらず、手順や謂れについても、村内の神職に口伝で残されるのみであった。その家系もまた二十年前に絶え、かつてを知る古老たちは、いずれも黙して多くを語ろうとしない。


 本稿は長年のフィールドワークに基づき、いまは失われた奇祭の実相に近づくことを目指した。

 上記のような性質により、資料は完璧とは言い難いが、当時の記憶を持つ人物が少なくなる中で、本稿が少しでも後世の研究の一助となることを願う。



『胸キュン! はにゃにゃん夏フェスタin××村 ~ご主人様と想い出欲しいのにゃん!~ の記録』



 ※※※



「恥じゃ」


 筆者の連日にわたる訪問の末、ようやく古老の口から漏れた言葉がそれであった。


「今思うたら、なんであがぁなモンをやりはじめよったのか、儂もよぅわからん」


 重々しい口調に、過去を懐かしむような気配はない。


 恥。


 久方ぶりに聞いたその単語が、胸に重たくわだかまる。


 ――我が国に根付いた近現代のジェンダー文化からすれば、おおよそ受け入れ難い性質のものではある。それゆえに当時の若者を中心に支持を失い、文化の遺失につながった。


「元々は儂らの祖父世代が始めたっちゅう話じゃの」


 祭りの起源は、かつてこの村が限界集落と呼ばれ、消失の危機に陥ったころと符合する。『地方再生』と呼ばれる地方移住政策により入植してきた、いわゆる『第一次世代』が祭りの担い手となった。いまから100年近く前のことである。


「もともと、そういうのが当時の流行であったらしいわ。ほんで、祖父らが入植者を増やすために、神社を作ってそういうことをしようと思ったんじゃと」


 彼らが行ったのは、宗教の創設である。

 今は跡地となった「はにゃにゃん猫神神社」は、仏教・キリスト教・イスラム教の様々な場所を習合させた、いわゆるカルト宗教に属するものであった。


 祭りは、土地神とされた女性神「あすた~にゃ・S・にゃくしまりあん」が年に一度起こすといわれる激しい生理痛を収めるために行われたのだとされる。


 激しい踊りや村人による土地神への祝詞、様々な絵巻の奉納――これらは『同人』と呼ばれ、神と人が信仰を通じて合一することを示していたとされる。


 古老はそれ以上語ろうとしなかった。


 私は席を立ち、彼に挨拶をする。


 祭りは消えても、信仰は随所に残っていた。例えばそれは、挨拶などに。


 古老は重々しく言う。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る