&7 可愛さとセットで

 少女を案内された部屋まで連れていくと、そこには大きめにベッドがある寝室しんしつだった。そんなに派手なものではなく、大きさが取り柄のような感じだった。

 彼女をハルートと初老の男で寝かせると、男はハルートとたくみに待つようにというようなジェスチャーをして部屋を後にしていった。たぶん、彼女の様子を見ることができるものを呼びに言ったものだと考えられる。

 そうして残された2人は、いつ少女が目覚めるのかと見守ることにした。顔色は変わることなく血の気が引いており、息も小さい。運び込んだのが男ばかりということで、着替えさせるわけにもいかなく、つなぎのままでベッドに寝かせている状態だ。


「顔色、治りそうにないな。大丈夫か?」

「どうなンダろう。力の使い過ぎ、たぶン、僕たちが思う魔力が尽きちゃったことでこうなっていると話から考えられるし。さっきの人が急いで出ていったから、医者のような人を呼びに行ったンじゃないかな」

「待ち遠しいよな、この時間」


 彼女が今寝ているベッドは部屋の中でも2つの窓のうち、大きい方に置かれていた。壁は白色に統一され、シャンデリアのような明かりが天井に1つ灯り、椅子と机のセットがもう一つの窓側に置かれている。窓の外は夜で、部屋の温度からして冬ではなさそうだった。

 巧がその椅子に限界を迎えていた足を休めるように座る。持っていた3人分の荷物(少女の分も含めて)はドアの近くに投げ捨てるといかなくても、雑に置いていた。頭を後ろに反らせ、力が完全に抜けていた。そんな様子をこっそりハルートが覘くと、そんな恰好であっても見える少女を心配してか、視線を向けていた。


(タクも世話好きダよね。自分のことを二の次とまではいかなくても、心配してるンなんて)


 そんな巧が状態を変えることなく、ハルートに話し掛ける。


「なぁ、ハル」

「どうした? 足が痛いとかはもう解っているよ。お疲れ様ダ―――」

「あの子って、可愛いよな。スタイルもいいし」


 ハルートは一息入れると、巧の胸に渾身こんしんのチョップを献上する。完全に力を抜いていた巧はそれをされたことで縮こまるような姿勢を採るが、その反動で次には椅子ごと後ろに倒れていった。


「ば、馬鹿! 何をするんだよ!?」

「バカはどっちダ。あの子は今も苦しンでいるのに、なに言ってる」

「いや、確かにそうだけどよ。単純に待っている間の話のネタとしてだな」

「はぁ……。まったくタクは」


 ハルートは巧が立ち上がれるように手を貸す。そうしてもう一度椅子にかせると、話を進ませる。


「まぁ確かに、可愛いかって言われたら、可愛いね」

「そうだよな。格好がつなぎっていう点を除いたら、美少女の部類だ。もし時間がいいなら、御茶に誘っていたところだ」

「タクにそンな覚悟、あったっけ?」

「おいおい、心外だな。俺はやろうと思ったらやる男だぜ!」


 彼はそう言うと、右手でグッジョブの合図を出す。見せられたハルートは、ハイハイと軽く流す。いつもながらのことだからだ。それについては巧の方でも納得のいく結果で、笑顔をつくる。


「まぁ、そんな可愛い彼女だが、ハルは思わなかったか?」

「ン? 何か気づいたことがあったの?」

「気づいたというか、予想なんだが。あの子ってもしかしたらお金持ちの娘さんとかかなってな」


 2人は寝ている彼女の方に視線を向ける。


「出会ったときは、少しの荷物とつなぎっていう格好だったけどよ。ここの家に着くと、執事しつじみたいな人がいたり、質素しっそでもあんなに大きな寝床があったり。それに、俺たちが通ってきた光のあれが繋がっていた部屋なんてよ、大きな機械が部屋の何割か占めていた。個人の持ち物なら、だいぶお金が掛かっているだろうよ」

「よくある異世界物ダったら、石とレンガの造りから中世風っていう感じかな。時代はよくわからないけど」

「そう来るとどうだ。彼女はお金持ちの子供で、趣味が機械いじりが好きっていう感じだ。可愛くて頭のいい。完璧だな」


 ヤベェと小さく巧はらす。そうして大体話し終わったのか、また椅子に深く沈んでいくのだった。

 そんな彼にしょうがない奴だとハルートはため息をつく。しかし、先程まで彼が言っていたことには間違いはない。お金持ちで機械好き。これまで多くのアニメや小説を観たり読んだりしてきた者からしては、工業を中心とした国の貴族当たりだろうと考えられる。あることをきっかけに世界を超える技術を完成させて、記念すべき第一冒険者としてベッド横たわる彼女が行ったのであろう。では、そこまでできる少女とは、こちらの世界でどんな地位なのか。少しは予想ができてくる。


 「でもまぁ、今はいいか。体調が回復すれば話もできるダろうし。僕もちょっと休もうかな」


 ハルートは巧が座った席の向かいにある椅子に座り、彼同様、疲れた体を休ませることにした。反対側の席からは既に寝息のようなものが聞こえ始めており、先にダウンしていた。

 そうして数分の間、寝息以外は音が立つことなく静かな時間が続いた。

 ハルートにも眠気ねむけが訪れ始めた時だった。床下の方からいくつかの足音が聞こえ始めてくる。それに気づいた彼はすぐに立ち上がって巧を起こす。

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