&5 不思議には解説を

「おい、今この子」

「喋ったね。それも、僕たちにわかる言葉で」


 少女は依然いぜんと顔色を悪くさせながらも、どうにか体全体に力を入れて座る体制になる。


「やっぱり、このくらいのを使うと動くのもつらいわ。これはもう、何もできないかも」


 息はまた荒くなり、どうにか倒れないように腕に力が入る。彼女の薄青色の髪にも汗が伝い、無理に運動をし過ぎた人のようになる。季節も夏なことから、熱中症ねっちゅうしょうと言われればそれも近いが。


「あ、あのー。大丈夫ですか? 顔色も悪いし、体が重たそうに見えるンですが」


「大丈夫じゃありません。この世界に来て、まったく天然魔統まとうを感じることができないし、おまけに言葉が通じない。ちょっと無理をしてでも話せるのと話せないのとでは大違いだから、話せるように力を使ったんです。結果は、これですが」


 苦笑いを浮かべる少女。目的は達成したとしても、その他を犠牲ぎせいにしていることから、今すぐにでも限界というところか。

 しかし、たくみにはわからないことがあった。


「今さっきの光が原因で今喋れるのか? あれって何なんだ。最近新しく発売された翻訳ほんやくデバイスとかなのか?」

「でばいす?」

「あー、それを用いることでやりたいことができるっていうもののことだ」

「いえ。そのようなもの、私は何も通すことなく力を使いましたよ?」

「じゃあ、どうやって言葉が通じるようになったんだ?」

「だから、力を使ったからで―――」


 相手の言うことが理解できず、両者とも座礁ざしょうしてしまう。ややこしくなってきた。

 ハルートは会話に参加せず聞いているだけだったが、このままでは彼女を休ませることができない。彼も参加することにした。


「ちょっと2人とも待とうか。状況を整理しよう。僕たちは君と話そうとしていたが、さっきまでは言葉が通じず困っていた。でも、君が何かしらのというものを使ったことで話せている。それについて教えてほしいんだ」

「本当は使いたくなかったんです。どうにかあなた方から対応してもらえる、理解してもらえるって思ったのですがしてくれない」

「「すみませんでした!!」」


 ハルートと巧は勢いよく謝る。


「なので私が力を使ったのです。こうやって話す前にやっていたのが力のことです。あれは道具を使うことなく行うことができ、今回は話せるようになる『スピーカー』を使用しました」

「ん? ということは、が使えるのか?」

「まほう? あの力のことをこちらではまほうというのですか? あなた方も使えるのですが?」

「いえ。僕たちはおろか、人間全員が使えないですよ、たぶん」

「そうですか。こちらの方々はお持ちではありませんでしたか。それでは、驚かれるのも無理はありませんね」


 2人はちょっとだが理解し始めた。目の前の少女が取った行動で突然話せるようになったのは、彼女が言う力を使ったからであり、それはこちらの世界には存在しないもの。しかし、彼女はそれを使うことができる。


(何者なンダ、この子は。見る限り、普通の女の子にしか見えないけど)


 ハルートはもう少し彼女を理解するために話を続けようとする。


「さっき、君はって言ったけど、どこから来たンダい? この近くの人じゃないのは確かだけど」

「まぁ、世界的には近くには住んでいませんね……」

「違う世界から来たっていうこと?」

「そうですね……私が住んでいる世界はここと違って……あなた方が言うようなが、ある世界ところです……」


 少女の言葉が歯切れ悪くなっていく。そして、彼女の体はまた倒れそうになる。それを前に座っていたハルートがもう一度支える。そろそろ本当に限界なのだろう。


「すみません。先ほど使った力のせいで、使い切ってしまったそうで」

「君は今からどうしたいンダ? してほしいことがあったら、言ってくれればそうするよ」

「おうよ。あんたの力になるぜ!女の子が困っているときに放っておくことなんてできないしよ」

「ふふ……ありがとうございます。では、ちょっとお願い、しましょうか」


 彼女は肩から掛けていたバッグに手を伸ばし、自分が扱いやすい場所まで引っ張る。そして中に手を突っ込み、次には一枚の折れ目のない地図を出した。


「ここに描いてあるところに連れて行ってほしいんです。そこまでいけば、私の知人が居ますので」


 地図には彼らがいる周辺の地図が描かれており、登山道をちょっと下った先の森の中に丸が書かれていた。

 その地図を受け取った巧は、紙でもない、ましてやタブレットなどでもない地図を角度を変えて見始める。


「おいおい、これもあんたの力でつくったものかよ」

「はい、この世界に来た時に作りました。それを作るだけでも大変でしたが……」

「タク、質問は後ダ。今は彼女の言うとおりに動こう。僕がこの子を運ぶから、タクは案内を頼む」

「わかった。いこう!」


 少女の声は少し少しと弱っていき、目の開き方も小さくなっていく。彼女が気を失うまでに、どうにかその場所までいかなければならない状況である。

 ハルートは自分の荷物を巧に預けると、少女をおんぶして移動できるようにする。そして全員が準備できると、巧の案内で登山道を戻るように降り始めたのだった。


 彼らが出発してから2分後、寝床ねどこの準備やら救急車の連絡などを終えた売り場の女性が彼らにそれを伝えようと戻ってくる。しかし、その場には誰もいなくなっていた。

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