ANTI


 誰にも負けられない物を僕は持っていた。


 でもそんな物はとっくのとうに干からびてしまって、今となっては誰にでも負けられるものしか持っていない。


 悔しくて、辛くて、もう自分には自信となる物が一つもないと知った時、ものすごく怖くなった。


 自分を作っていた物がなくなって、自分という名前を表現する物がなくなって。


 今は『西木 草成』という名前で駄文と駄作を重ねているけれども。


 時折、本名すら忘れて、この名前ですら無くなったら一体自分には何が残るというのだろう。


 何も残らないのは悲しいか、


 何も見えなくなったら悲しいか。


 何も聞こえなくなったら悲しいか。


 何も感じなくなったら悲しいか。


 だけれども、せめて繋ぎとめられなくてはならない、この命だけは。


 あぁ、そうか。


 一つ、誰にも負けない物を持っていた。


 何があっても、自分は自分自身に抗い続ける。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る