第2話

「森野さんとこのね、健君、覚えてる? 」

母親が椀によそった味噌汁を置いていく。

僕は人数分の箸を取りに、台所へ立つ。

「さあ」

「覚えてるでしょ。いっこ上の。その健ちゃんがね、コックさんになったんだって」

「へえ」

「ほら、前、大手の自動車会社に勤めてるって言ったでしょ。そこを辞めてフランスへ修行に行って、今は大阪でコックさんやってるんだって。すごいよねえ」

「ふーん」

僕は取った箸をまとめて、ばららっとテーブルの真ん中に置いた。

「すごいよねえ」

「コックが向いてたんだろ、その健ちゃん?は」

言いながら椅子に乱暴に座った。

母親が黙る。

「僕はコックなんてできない」

「わかってるわよ。・・・ねえ、誰かいい人いないの」

「いないって」

「もう、あと三年で三十でしょ。三年なんてあっという間だよ。早く独立してもらわなきゃ困るんだから」

母親が置いた味噌汁を、無言でにらみつけた。

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