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 翌朝、捜査会議が終わった後で幹部席の電話が鳴っていた。真壁が受話器を取る。相手は京都からかけてきた桜井だった。その声は得意げに弾んでいた。

「香里を見つけた。当人に会ったぞ」

「首尾は?」

 桜井の声は沈んだ。

「まあ聴取はできたが、鬱陶しい話だ。ファックス、送っといたからな」

 諸井邦雄は、新山香里と5年前まで関係があった。諸井が一方的に入れ揚げてときどき金を貢いでいたという。諸井は男前でも気風がいいというわけでもなく、偏執的なところがあって、香里は好いていなかったが、面倒を避けて適当に付き合っていた。5年前、香里に別の男が出来て一緒に東京に出た時、諸井との関係は自然消滅した。その男と別れた後も数人の男と付き合った。しばらく経ってクラブなどで稼いだ金がたまったので、旅行を計画した。

 そして、いいかげんに飽きていた仕事先には内緒で、1月18日から2週間のハワイ旅行に行った。ハワイから日本に戻ってくると、京都の実家から老母の具合が悪いという連絡があった。それで京都に帰ったついでに、そのまま実家に居ついているということだ。

 香里は1月17日の夜に、諸井から電話があったことを認めた。諸井がどうしても会いたいというので、午前1時半ごろに手が空くから東京芸術劇場の横で会おうと言ったが、そこに行かなかった。事件のことは知らなかったと供述した。

 開渡係長が京都から送られてきたファックスを淡々と読み上げる間、真剣に耳を傾けていたのは清宮だけだった。やがて溜め息をついてこう呟いた。

「女もいろいろだな」

「そうよ、お前も結婚を決める前にとっくり考えろよな」

 馬場がニヤニヤしながらそう言うと、杉村が鼻先で付け足した。

「でなきゃ、田淵の二の舞だ」

 この日の十係は組対の様子見という感じだった。昨夜、《ニューワールド企画》で逮捕された連中は警視庁で組対が取調中。沢村の聴取は所轄。池袋の捜査本部は総出で地取りに当たった。

 真壁は津田を連れて署を出たが、しばらく池袋西口公園にいた。所在ない様子の津田を後目に、真壁はタバコを1本吸う。空っぽの頭にタバコの毒を吹き込みながら、その間にやっと行き先を決めた。

「今日は国会図書館に行く」

「どうしてですか?」

 事件当日、諸井が普段なら読まないはずの週刊誌をカバンに持っていた理由が出会い系サイトの広告の以外にもあったのではないか。下馬でヤクザに殺された三谷は部屋に週刊誌が山積みになっており、習慣的に読んでいたようである。週刊誌から事件につながる線が無いか潰しておきたい。真壁がそういう説明をすると、やはり分かったような分かっていないような鈍い表情をした津田は首を縦に振った。

 諸井と三谷が読んでいた週刊誌は「週刊新陽」。国会図書館でそれと他社を合わせて4種類の週刊誌をそれぞれ3か月分申し込み、2人で閲覧室に運んで読み始めた。ひたすら眠気をこらえて雑多な週刊誌をめくり、真壁はある記事に眼が止まった。

 2か月前の「週刊新陽」にこんな記事があった。

 見出しに『欠陥マンション・手抜き工事か?』とあり、『今回、発覚したのは大手ゼネコン会社である城之内建設(株)が、横浜区青葉台で施工した15階建てマンション。合計90本の杭が硬い岩盤まで到達しておらず、建物の強度が不足している疑いが浮上した』という内容だった。

 津田に他の週刊誌も確認させたが、似たような内容の記事は載っていなかった。「週刊新陽」の単独スクープということか。事件との繋がりを考えれば、諸井が東京で向かった出張先の一つが城之内建設だったということだけだった。真壁は一応、記事の署名にある記者の名前をメモに記した。

 調べものを終えて津田を署に帰した後、真壁は旗の台の東都大学に向かった。岡島から昨夜に逮捕した沢村が着けていた指輪の鑑定結果を聞き出すためだった。

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