第7話 福山博人Side

 私、福山博人は日本生まれだが、日独のハーフだ。日本の東響大学医学部を卒業後、都内に在る父親の病院に5年間勤務していたが、ドイツに行くことになった。

 医者としてドイツで仕事をして7年。

 36歳独身だが、10月には37歳になる。


 ドイツから日本に戻ってきた、あの日。

 マンションまではタクシーで戻ってきたが、龍三のとこに行くのに自分の車を使った。感覚が、まだドイツ時間だ。

 それに眠気も…と、思ったら何かに当たった。


「ボンッ!!」


 ん、どこかに当てた?

 いや、道の真ん中を走ってるから大丈夫な筈だ。

 しかし、どこか広い車道はないのか?

 ほんと、日本の車道は狭いよな、と思ってたらコンビニを見つけた。

 しかも、あのコンビニには駐車場がある。

 ということは、広い車道がある!

 そう思った私は、そこに車を走らせた。

 すると、ルームミラーに写ってきた、1人の顔。

 …もしかして、あの人に当てた?

 睨んでる顔に、凄くそそられる。

 いや、それより龍三のとこが先だ。

 ごめんな。


 龍三のとこに無事に着いて安心していた。

 そしたら、威勢のいい若い男が「ベンツ野郎」と、私をなじってきた。

 それで、気がついた。

 ああ、この人に当てたんだなって。


 他人には頭を下げるな。悪いと思ったら、言葉で示せ。

 幼少の頃からずっと、ドイツに居た間も、私はそう教えられてきた。

 それでなくても、この私をなじってくる人はいなかった。

 なので、とても新鮮だった。


「福山友明」と名乗っていたな。

 彼は凶暴だったので、早々と逃げ帰る事になってしまった。

 彼から睨まれると、どうしようもなく嬉しかったな。

 あんな風に言われた事もなかったし。

 ましてや睨み付けられる事もなかったからな…。


 ある日、大学で同期に卒業した今田と久しぶりに会った。

 待ち合わせをして、彼の行きつけのとこに行ったが。 レストランでなくてカフェ?この私にカフェでの食事をさせるのか、奢ってくれるらしいので一番値の張る料理を食べて、早く帰ってやる。

 そう思っていたが、そこで彼に、福山友明に会うとは思ってもなかった。


 あっちも気がついたみたいだし。

 なるほど、ここでバイトしてるのか。

 あの今田が何故ここを気に入ってるのか、よく分かった。

 彼は、今田の好みなんだな、だからか。

 飯も美味かった。

 なにより、酒!

 彼の入れてくれたカクテルは美味かった。


 彼の足のこともあり裏口で待っていたが、遅くまでバイトしてるんだな。

 23時過ぎてから出てきた。

 自転車を出してくる彼の後ろに乗った私に、「重い」と言ってくるが、私はそんなに重くないぞ。そりゃ、体格は良い方だけど。


 私の自宅で話そうと思ったが、どうやら彼は嫌がってるみたいだ。

 そう思ったので、仕方ないので入口で話したが。

 足は大丈夫らしく、私も安心した。

 なんでだが気になるんだよな。


 ある日、鬱々とした感覚があり龍三のとこに行ってストレス発散しようと思い行くと、彼が稽古してるのが目に入ってきたので、相手になってもらおう。

 着替え終わり、軽くストレッチして柔軟もする。

 そうしてたら、彼も水分補給してるみたいだ。

 彼は合気道だけど、柔道もできるだろう。

 そう勝手に解釈すると、彼に向かっていった。


 一瞬だけ、彼と目線が合い…、投げた。


 すると、受身で流してくれる。

 嬉しいね、彼は柔道もできるんだ。

 鬱々を発散するため異種混合でも良いやと思ってたが、彼は中々に強い。

 強いと言うよりも避けてばかりで、攻めてこない。

 その彼が攻めてきた、その一瞬。

 私の方が決めた、その技とは…。


 寝技だ。


 彼の声が気持ちいいし、体温も心地よい。

 そう思うと、私のアレが勝手に彼を押し付けてた。

 どうしよう…。


 そうすると、彼と龍三が私を引き剥がしてくれる。

 いや、別に引き剥がさなくてもいいのだけど……。

 と思った瞬間、鋭いケリを下半身に感じた。


 彼の足が、私の急所を目掛けてきたのだ。当然ながら蹲ってしまったが、そのお陰で他の人には、私の身体の変化には気がつかないだろう。その点を考えると、彼の気遣いに感謝しなくてはいけない。だけど、他のやり方でしてほしかったな………。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る