最悪

「ふう…ようやく自分の分が作れる」


 そう言うと一葉は幾つかのスキルを組み合わせて、ℹ︎O内で一葉が最悪の道に踏み出した、原初のスキルを生み出すことにした。


「…よし、完成した。多分これで大丈夫なはずなんだけど…」


 一葉がどうやって試そうかと考えていると。


「皆さん!集合してください!」


 そんな風にレイクが一葉達に集合をかけた。

 一葉達がレイクの前に座ると、レイクは咳払いをする。


「それでは、勇者様方、そろそろ遅い時間となってきましたので本日は帰還し、明日下の階層に向かいたいと思います」


 そう言われた生徒達は、ホッとしたような表情を浮かべて近くの友人達と疲れを労いあっていた。

 彼等も迷宮というファンタジー要素で興奮していたが、疲れるものは疲れるのである。

 一葉もストレッチを行って身体をほぐしておくことにした。

 こうして一行は地上目指して歩いていくのであった。


  ☆


 一葉達は暫く歩いた時、妙な感覚に襲われていた。

 その正体は_


「魔物が出ないね」

「そういえば確かに、何かあったのでしょうか?」


 レイクが不思議そうに首を捻りながら曲がり角を曲がった時、それは現れた。

 迷宮の石造りの壁を真っ赤に染めるオブジェ。それは、謎の肉片や、その血液。

 通路にはまるで食い散らしたかのようにゴブリンやコボルトの欠損死体が散らばっており、こちらも血液が飛び散っていて凄惨な現場となっていた。

 通常、魔物は倒されれば全て魔石へと変化するが、例外が存在する。

 その中の1つに『魔物に喰われた場合』というものがある。

 魔物に喰われた魔物は何故か魔石へと変化しない。

 しかし、魔石は体内に存在しているので解体すれば取り出せるため、冒険者達にとっては美味しい収穫となるのだ。

 だが、良いことばかりではない。

 魔物を喰らった魔物はさらなる成長を遂げる。

 場合によってはガーディアンさえ凌ぐような化物が生まれるのだ。

 未だ攻略が続けられている最大の迷宮【災禍の天華】で、過去生まれた化物である、ドラゴンの変異種。名前を『ティアン=グルク』のドラゴンが迷宮から這い出た結果、近隣にあったその当時、世界最大国家だった、【カラリア帝国】が一夜にして滅びたという。

 最終的には、最強のSランク冒険者、覇王『ディ=モラン』が三日三晩戦い続け、相討ちとなり、ようやく討伐できたのである。

 その様な化物がこの【クノウノ地下迷宮】で生まれている可能性があるのだ。

 一同に緊張が走る。

 その時だった。通路の先からズル…ズル…と何かを引き摺る音が聞こえてくると、濃厚な血の匂いが漂いだした。

 そして、そいつは姿を現した。

 返り血で赤黒く染まった肌、生徒達の数倍はあるであろう体躯、知性を感じられない瞳に、鋭く尖った牙、そして、その手に持っているのは本来同族であるはずのゴブリン。

 種族、ゴブリンキング。

 【クノウノ地下迷宮】最深部に出現する様な、正真正銘の化物である。

 ゴブリンキングは、一葉達を見ると頭を掻く。


『ヌァ…?ニ…ゲン…?』

「総員撤退!急いで逃げるのです!皆さんではかないません!」


 レイクの掛け声と共に生徒達が駆け出すと、ゴブリンキングは手に持っていたゴブリンを放り投げる。

 放り投げられたゴブリンが、1人の女子生徒にぶつかると女子生徒は転んでしまう。


「チカ!」

「コウキ!」


 1人の男子生徒が振り返り、女子生徒の元に駆け寄ろうとして_停止する。

 その男子生徒の視線の先にはいつの間にか女子生徒の近くに辿り着いていたゴブリンキングの姿があった。


「ねえ!コウキ!どうしたの?助けてよ!」

「ははっ、もう…無理だと思うぜ?」


 男子生徒が指を指すと女子生徒は振り向き、絶叫を上げながらゴブリンキングに掴み上げられる。

 そして、ゴブリンキングは女子生徒を口にくわえるとゆっくりと噛み始める。


「痛い!臭い!痛いよ!コウキ!助けて!死にたくない!しにたくないよ!ママ…パパ!助け_」


 骨と脳が砕かれる湿った音が鳴り響き、血と脳漿が飛び散る。

 女子生徒だったものはだらりと糸が切れた人形の様になってしまった。

 ゴブリンキングは愉悦の表情を浮かべて、次の獲物である目の前で狂った様に_いや、狂って笑い続けている男子生徒を握り潰すと、まるでアニメの様に口から、内臓が飛び出し、肛門から腸と汚物が飛び散り、真っ赤に腫れ上がった頭部が破裂すると、その中身で迷宮の壁を赤く染め上げた。

 クラスメイトが死んだが生徒達は足を止めることは無かった。

 足を止めれば次は自分がああなるのだと、本能で理解していたからだ。

 しかし、一葉は生徒達の考えの上をいっていた。

 このまま逃げても、逃げきれない。

 そもそも奴がやってきた方向が出口なのだ。

 それなら…戦うしかない。

 そう考えた一葉は足を止め、床で靴底を滑らせながら停止する。

 そんな一葉の様子にクラスメイトは驚きと同時に安堵を覚えた。

 『あいつがやられている間に逃げられる』と。

 ゴブリンキングは、一葉の姿を見て疑問を覚えていたが、進化しようが所詮はゴブリン。

 その疑問も一瞬で消え去り、ゴブリンキングは哀れな一葉ウサギを殺そうと腕を振るう。

 しかし_


「【諸刃の砦の影】」


 血霞を残して一葉の姿が消える。

 辺りをキョロキョロとゴブリンキングが見渡すがその姿は見つからない。


「ここだよバーカ」


 ゴブリンキングの頭上から声が聞こえる。

 そこには、ゴブリンキングの頭の上に立っている一葉の姿があった。

 ゴブリンキングは一葉を握り潰そうと、その巨大な手を向かわせるが時既に遅し。


「遅えよ【世界の外へいらっしゃい】」


 一葉がゴブリンキングの頭の上に手を置いてスキルを発動するとゴブリンキングの姿がかき消えたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る