一級の魔法使いが描く言葉は、魔法の世界に確かな質感を編み込む

選ばれし血統も飛びぬけた才能もまだ見せぬ、あるいは本当に持ち合わせていないのかもしれない主人公の視点を借りて、鮮やかに広がる魔法大学、識者たちの魅せる光景を一緒に歩きました。現れた個性的な師匠から紡がれる言葉には重みがあって、磨かれ蓄えられ整理された魔法の知識を少しずつ主人公に(私にも)与えてくれるようでした。素敵なのは師匠の主人公への接し方に“温度”が感じられるところです。寛容さも底の見えなさも気が乗れば見せてくれる格好良さも、(口調も容姿も、)主人公と、いくつもの別の世界と、ともすれば私を見ているかのような。師匠が実演で見せてくれた召喚魔法、ひとつ繰り出されるたびに主人公と一緒に驚きわくわくするのが心地良いです。目前に美しく世界が広がる瞬間は何枚も造られていました。これこそファンタジー!

楽しんで描いているのが伝わってくる物語なのですが、同時に紡ぐ世界への責任が感じ取れます。ともすれば私たちの扱える言葉に乗り気らない世界を、慎重に選んだ私たちの言葉の向こうに広大に深淵に描いていられるのでしょう。その世界に手を伸ばす識者たち、まだ未熟な主人公、彼らの背後にある想いや地図までも、薄っすらと輪郭を見せているような感じです。上手く言えませんが、緻密に考えられた魔法に関する授業を聞いている最中にも、まだ無数の暗がりを湛えた図書塔の奥にも、何百年も生きたかのような分厚い本から淡い光が漏れ出しているようなイメージが浮かぶのです。不思議な感覚でしたが、これこそある階層の魔法使いの仕掛けた最初の魔法なのかもしれません。

物語はこれからもっとずっと広がっていくようですが、特に師匠や図書塔のあの子を含めた魅力的な登場人物、なにより主人公の選ぶ道が楽しみです。使える手が増えれば見える世界は変わるのでしょう、その度に師匠の言葉が思い返される予感がします。何よりしっかり編み込まれた土台があると感じるから、安心して先へ読み進めようと思えます。是非試してほしいのですが、読んでいると絶妙な歩調で歩いてしまう自分の足音が聞こえます。師匠、何かされました…?

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