28, 終戦

 どうやって逃げたかわからない。いつの間にか暗い森の奥に辿りついた。もうすっかり夜だ。頭ががんがんしている。まだ爆音が頭の中では続いている。


「殺してやる……っ。」


 クシスは呟いた。私は振り向いた。彼は膝をついて土に触れ、拳を握り閉めていた。13歳の最大限の憎しみが彼を取り巻いている。震えてる。憎悪で、身体が震えてる。その目にはいつもの優雅な笑みとは違うものが見える。溜まった涙が見える。それは土にぼとぼと落ちている。口元も歪んでいる。嗚咽を噛み殺した表情だ。


「殺してやる……っイルルの連中……いつか絶対殺してやる!」


 低い声で、唸るように彼はそう吐きだした。

 私は手を伸ばした。そしてぎゅっと抱きしめた。まだ細い13歳の体を抱きしめた。小さな拒否が体に当たるが、無視をした。


「なんでだよ!」


 彼は叫んだ。かすれる声で。


「なんで泣かない!」


 どすっと、小さな拳が肩に当たる。それでもクシスを放さなかった。自分の腕の中にしまいこんで放さなかった。


「なんで笑ってるんだよ!」


 そう叫んだクシスは大声で泣き出した。その彼を、私はずっと抱きしめ続けた。



 一ヵ月後、アルブ戦争は終わった。それは形式的に。人々の憎しみはそのままで。

 悲しい話はそのままで。

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