サリーナ・マハリン

なのるほどのものではありません

第1章:闘う民と笑わない貴族

1, 出会い

 剣を持つ。肩からかける帯刀ベルトに長い剣を刺し、道を行く。

 私は武民ぶみん。アルブの女。女の身でありながら、12歳で旅に出た。自分の腕を鍛えるために。赤毛を束ねて、大きめのシャツを来て、一人で旅をする。


「さて。どっちにいこうか」

 思いあぐねていた時だった。馬の啼く声がした。荒ぶる声がした。

「なんだ?」

 くるりと向きを変える。短い赤い髪の毛が揺れる。

 ――……声。馬の啼く声に、これは、人の争う声。

 瞬間、私は走りだしていた。声のする方へ。するすると。しなやかに、すばやくだ。

 まるで身体には重さが無いように、軽やかに。

 ――見つけた……!

 跳んだ。すらりと剣を抜き、打ち付ける。ガッ、と鈍い音がして男がうめく。

 今の受身も取れないのならば、こいつらは武民じゃない。

 だったら話は簡単だ。倒せる。


 実際、ものの3分だった。全ての片がついたのは。


「ひっどいな。馬、もうこれじゃ走れまい」

 馬が倒れているのを見つけて言った。

「大丈夫か? ……――」

 そして振り向いて人を見つけるが、なんという風に呼べばいいのか一瞬惑う。

「……ボク」

「お前にボク呼ばわりされたくはない」

 馬車から出てきたのは男の子だった。

「パパとママは?」

「父上も母上もいない」

「……あぁ。お気の毒に」

「そういう意味じゃない」

「そか。そいつは良かった。で、無事か?」

「……あぁ。傷一つない」

 うん。確かに。私は微笑んだ。

「良かった。じゃ」

 手を振って去ろうとした。

「待て」

「なに?」

「お前、俺の護衛をしろ」

「……はぁ?」

「今の野盗で護衛が死んでしまった」

 確かに。彼の足元に倒れている男は野盗ではない。息はきっともうない。

「……馬車はないぞ?」

「いい。歩ける」

「見返りは?」

「十分払う」

「何処まで?」

「サリーナ・マハリンまで」

 私は微笑んだ。彼は一度も微笑まない。

「いいぞ。すぐそこだ」

 歩きだす。

「そうだ、聞き忘れてた。あんた、名前は?」

 振り向いて問う。

「先に名乗れよ。そう習わなかったか?」

「いいだろ別に」

「……フェレス」

「私はスザンナ。よろしく、フェレス」

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