第39話


「またきたのあなたたち」


「またきました先生」


 あんこと久留美は授業の合間を見計らって研究室に足を傾けた。


「少し前に三年生の五人組がきたわ。お土産持ってね」


 菜穂は机の上にある風呂敷包みを指さして言った。


「どこで情報仕入れたのかしらね私がシンゲン餅が好きなこと」


 久留美はきっと美雨の作戦が失敗したのだと悟った。


「蔵田先生とはいえ物でつればワンちゃんある」とか言っていたから、


「まぁいいわあなたたちこれから練習それとも勉強?」


「今はオフ期間で練習がありません授業も今日は終わりました」


 そういうと菜穂は「そう」とつぶやいた。少し考えて微笑む。


「一人じゃとても食べきれないから一緒に食べない?」


「これどうやって食べるんですか? めちゃくちゃぽろぽろする」


 あんこがきな粉と黒蜜をかき混ぜるとお餅の上にあるきな粉が机にこぼれる。


「あんこ、ビニールの袋をこうやって容器の下に敷くと散らからないよ」


 久留美の助言を聞くあんこは手を叩いて納得する。


 その姿をニヤニヤしながら菜穂は眺めていて一度咳ばらいをしたあとビニールの上に容器を傾け裏を指でトントンと叩くと中身が飛びだしてその上に黒蜜をかけた。


「こうすると黒蜜ときな粉が上手く混ざり合ってしかもぽろぽろしないで綺麗に食べられる」


 備え付けのようじで一つお餅を刺すとそのまま口に運んだ。口からきな粉がこぼれないように手で口元を隠しながら幸せそうに食べている。


 二人はそれを見てすぐに真似をした。初めて食べたシンゲン餅は口の中できな粉と黒蜜が絶妙にお餅と絡み合いとてもおいしかった。


「ところで先生、監督を引き受けてくれる心の準備はできましたか」


 あんこの唐突すぎる言葉に私は咳き込む。危うくお餅を喉に詰まらせて窒息するかと思った。菜穂はもう慣れたと言わんばかりに動じていなかったけれど、


「安城さん。あなたもしかして天然? それともおバカさん?」


「両方です。すいません」


 久留美があんこの代わりに謝った。このごろあんこがやらかしてその尻をぬぐう構図が着々と出来上がっているのは癪に障るけれどあんこに悪気がないのだ。久留美はそれを察してしまうからしょうがない。


「まぁ。いいわ毎日、毎日あなたたち女子野球部が研究室に来て対応するのも疲れたし」


「じゃあ」


「ただし条件があります。次来るときまでにあなたたちがそこまでして全日に出場したいのか、なぜ貴重な学生生活を野球に費やしているのか。私が納得する理由を持ってきなさい。その答えを聞いて判断します」

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