第25話


 久留美たちは創世大と東京国際学院大の試合を偵察に来ていた。


 バックネット裏の観客席にはたくさんの人が観戦に来ていて中にはスピードガンを持ったスカウトの人もいて驚いた。


 電光掲示板には両大学のスターティングメンバーが一番から順番にアナウンスされていた。

 創世大の先発ピッチャーは神崎。東京国際学院大の先発ピッチャーは芝浦だ。


「創世大学シートノックあと二分です」


 アナウンスが流れて創世大のノックの流れが速くなる。精密機械のようなミスのない守備に圧倒されながら食い入るように見ていた。


「くるみちゃん。ブルペン見てあれが神崎かな?」


 あんこに言われブルペンを見るとモデルのような長い脚、上半身は無駄な脂肪がなくアンダーシャツの上からでもわかる張りのある筋肉、写真で見た通り顔立ちはとても綺麗に整っていてテレビで美人すぎる野球選手と称されたのも納得だった。八頭身くらいあるんじゃないか。


「二人とももうすぐ試合が始まるよ」


 真咲は二人にそういうとすぐに試合が始まった。創世大は後攻で神崎はさっそくマウンドに立った。


 神崎伊織。三年生、右投げ右打ちで背番号は11である。強豪高校出身ぞろいの創世大学のベンチ入りメンバーは二十五人、


 その多くは上級生で構成されている中彼女は一年生の頃から先発ローテーションを務めてきた。そして去年全日本大学選手権大会(全国大会)で創世大を日本一に導きその功績を高く評価され女子日本代表入りを果たした彼女は今や全日本のエース的存在になっている。


 中学時代は外野手だったため非凡なセンスはあったものの特別目立った選手ではなかった彼女は高校生のときピッチャーに転向して覚醒した。


 しかし肩の故障などに悩まされ全国大会には出場出来なかった。


 そして、創世大学入学後、監督の指導でピッチングフォームを少し変えさらにピッチャーとして磨きがかかった。


「プレーボール」


 その神崎が投球モーションに入る。上半身を左腕側に傾け、ほぼ真上から右腕を振り下ろす迫力のあるフォームだ。


 ストライク。


 アウトコースいっぱいに決まってバックネット裏のスカウトが唸りを上げる。


 野球の指導法は人それぞれで、選手の個性を重視するタイプもいれば、自分の得意のパターンにはめようとするタイプもいる。


 創世大学の監督は後者のタイプで、特にピッチングの面では上半身を投げる腕の反対側に傾けかせ、真上から腕を振り下ろすスタイルを得意としている。そのため創世大のピッチャーはオーバースローのお手本のようなピッチャーばかりだった。


 この指導法で何人もの選手を女子プロ野球に送り込んでいる。ただし久留美はピッチャーだから思う特定のフォームで投げるように強要されるのはいい気がしない。フォームは人それぞれ違うしそれが個性にもなる。鳴り物入りで入学した怪物ピッチャーも何人か潰れているらしい。


 ストライクアウト!!


 一番バッターを簡単に三振に取るとキャッチャーがサードにボールを送るショート、セカンド、ファーストにボールが回り最後に神崎にボールが返る。


「ストレート三つで簡単に抑えた。さすがだな」


 詩音がそういうと続く二番バッターはサードゴロに抑えた。左バッターをスライダーで詰まらせた。変化球もかなり切れている。


「余裕あるなぁまだ半分くらいの力しかだしてないだろうな」


 翔子はなにかをメモして横でビデオを撮っている希に指示をした。三番バッターをセカンドフライに仕留めて駆け足でベンチに戻る。


 創世大のチーム打率は三割八分とリーグトップだった。一番に昨年の首位打者四年の中島杏樹、クリーンアップにはキャプテンの指宿聡子、二期連続のリーグ打点王のタイトルを狙う二年の笠居奏。チャンスに滅法強い三年の鴻巣萌恵里いずれも昨年のベストナインだ。


 更に春のリーグ新人王有力候補、ただいま打率四割台、一年生にしてエース神崎をリードするキャッチャー香坂遥。


 破壊力抜群の打撃陣に剛腕ピッチャー神崎を有する創世大に隙はない。


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