第2話:迫り来る変態美人ズ

「そんな顔をしないで、ぞくぞくするじゃないの」


 真顔で何を言い出すんだこの人は。

 こんなにも綺麗な顔立ちをしているのに、彼女は内面を素直に表へと出す性格のようだ。


「ごめんなさいね突然。この人こんなだけど、本当にぞくぞくしているのよ?」


 いや、そんな説明いりませんよ。

 精神的なMですとカミングアウトしているのは分かるんだが、出会って間もない俺にカミングアウトする目的が明確ではないので、もうしばらく黙っておこう。


「あぁ、いいわ」


 やっぱり黙ってるだけじゃダメみたいです。


「人の顔をオカズにしないでもらいたいんですが」


 ここまで言われれば、さすがに理性を取り戻すだろう。


「はぁはぁ……」


 頻繁に組む脚を入れ替えている変態美人さん。

 腕をきつく組んでいる為、服の上からも大きな胸の形が変わってしまっているのがよく分かる。

 何を言ってもお手伝いになってしまいそうだが、黙ったままでもネタにされてしまう。

 このままではダメだ、何となくそう思い、一か八か攻撃してみよう。

 引かれたらそれまでだ、謝ってこの店を出ていけばいい。


「誰の許可を得て感じてんだよ、誰が感じてもいいと言った?」


 びくんっ!と変態美人さんの顔が上がる。

 眉間に皺を寄せた顔で、辛そうに俺と目線を合わせる。


「感じていいですか?ご主人様」


 本当に本当の変態だったー!!


「それくらいにして下さいな、瑠璃るりちゃん。話が進みませんよ?」


 おっと、こちらの眼鏡美人さんは変態ではないようだ、助かった。


「それ以上続けられると、私も達してしまいます」


 こっちも変態だったーー!!!


「コホン、では話を戻します。ひーっひーっふー…、あなたはどこの店に雇われているの?ぜひ私の店に引き抜きたいのだけれど」


 店?何の話だ。

 ってかその前のラマーズ法は何だ。


「すみませんが、僕はプライベートでここのコーヒーとケーキを食べに来ただけです。ですので店だ何だと言われても……」


「そう、裏営業をしていたってことね?これは重大な契約違反になるわよ?いくらあなたがナンバーワンだったとしても、あなたはあなたを雇っている店に莫大な違約金を払わなければならない!でも私達が黙ってさえいれば、その必要もなくなるわ?この意味分かるわよね?」


 さっきの変態モードから打って代わり、ビジネスウーマン然とした表情で語る変態美人。

 ってか裏営業だとか違約金だとか、本当に訳分からんのだが。

 でも面白そうだから、もうちょっと勘違いを続けさせてやりたい。

 真っ向から否定せずに受け流すスタイル。


「ちょっと言ってる意味が分からないですね」


 眼鏡美人さんが眼鏡をクイっと上げて話し出す。


「とぼけても無駄ですよ?先ほどの女性との会話、私達は全て聞いていたのですから」


 だから何だよ、俺に非は一つもないよ。

 仮にここでの会話を友一にバラされたとしても、アイツはそれ以上に今修羅場だ。

 俺とあの可愛くない彼女との会話を知られようが、大した事ではない。


「そうですか、聞かれているなぁとは思ってましたよ」


 そう言うと、若干2人の表情が曇る。


「この子、どこまで自信があるのかしら」


「もしかして、この子自身がオーナーだとか?」


「いえ、協会の会合にこんな子が来ていたら、さすがに私だって覚えているわよ」


 ぱくぱく、もぐもぐ、ずずずっ、ふ~。


「普通にケーキを堪能してるわよ、この子。裏営業がバレたって言うのに、大した度胸よね」


「だから、僕は本当に営業だ何だって知らないんですよ。たまたま友達の彼女に出先で会ったから、おいしいケーキをご馳走してただけです」


 急用が出来たらしい友達の彼女は、このおいしいケーキを半分以上残して走り去って行った。

 後で友一に迷惑料上乗せで返金してもらうつもりだから、まぁいいとするが。


「それにしても、外のカフェでのオーディエンスありのプレイに、彼氏の友達シチュエーション、さらには告白をなかった事にするというお断りの上級テクニック…。そして最終的には真実の愛に向けて走り去るフィニッシュ。仮に素人だとしても、とんでもないプレイヤーですよ。末恐ろしいですわ」


 何だよオーディエンスありのプレイとか、上級テクニックとかフィニッシュとか。

 それらしい専門用語を並び立てて、俺に何をさせようと言うのか。

 新手の詐欺か?


「どこの店に雇われているのかはひとまず置いておきましょう。今回のプレイ時間は30分だったみたいだけど、店外プレイというだけでプレイ料金は跳ね上がってるわよね?それにフィニッシュ後のお会計も飛ばしてたみたいだし、彼女は常連の指名客と見たわ。あなたも相当のプレイヤーだけど、彼女もなかなかの上客のようね?上流階級のご令嬢かしら」


 う~ん、どうやら出張ホスト的な何かだと勘違いされているようだ。

 ってかあの可愛くない子がご令嬢だって?

 妄想もここまで来るとすごいね。


「30分とは言え綿密な事前打ち合わせの上でのプレイ、それも上級テクニックをこれでもかと盛り込んである。おそらく請求額は15万を越えるでしょうね」


 どう、当たってるでしょ?とでも言いたげな眼鏡美人の眼差しを受けて、つい鼻で笑ってしまう。


牡丹ぼたん、あなた鼻で笑われてるわよ。花だけに」


 ダメだ、しょうもない冗談がツボに入ってしまった。


「はっはっはっはっ!あんたらわざわざ俺を爆笑させる為にミニコントしに来たの!?もう大満足しましたありがとうございます!そろそろネタバラシしてもらえませんかねー!?」


 俺が爆笑しているのを呆然とした顔で見つめる2人。

 それでも俺は気にならなかった。


 こんなに笑ったのはいつ振りだろうか。

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