平凡君主と白き弓の死神

西向十一郎

序章 天界三国志・蜀編

第1話 プロローグ




 むかし、むかし、ひとりの少女の神様がおりました。

 何百年も、何百年も、もう何百年すぎていつだったかわからない昔から、

 自分の暮らす大地を祝福しておりました。

 少女の祝福する大地に人が増え、小さな村ができました。



 あれはいつの夢だったのでしょう。

 山でとれた鹿の肉を猟師が少女のほこらにお供えをしました。

 肉だけじゃ神様も喉がかわくじゃろうと村の女が酒も置いてくれました。



 酒の匂いにつられ、隣の村から酒好きの神様がやってきました。

 土産だと言って果物を持ってきました。

 果物の匂いにつられ、さらに隣の村からさびしがり屋の神様がやってきました。

 酒のあてにとさけのなを持ってきました。

 肴の匂いにつられ、さらに隣の村からくいしんぼうの神様がやってきました。

 その日は宴会になりました。

 宴会のにぎやかさにつられ、多くの神様があつまりました。

 踊りの神様が踊り、歌の神様が歌い、音曲の神様が演奏をしました。

 


 そうです。

 大地には神様が他にもたくさんいたのです。

 八百万の神々は少女と同じように、大地を祝福し、自分たちの眷属、

 人間や獣人や亜人たちとのんびりのどかに暮らしていました。

 


 勇敢な神様がいました。泣き虫の神様がいました。

 酔っぱらいの神様がいました。酒嫌いの神様もいました。

 意地悪な神様もいましたし、優しい神様もいました。

 


 とても穏やかな時間がすぎていきました。

 


 少女の暮らす村も人が増え、大きな村となりました。

 ヴァルハラから遥か遠く、魔素も少なく寒い土地でしたが、

 人々は泣きながら、笑いながら暮らしました。



 また何百年かが過ぎました。

 そのうちに、民が戦をはじめました。

 理由はなんだったのでしょうか?

 きっとくだらないことです。



 村が1つ滅び、また1つ滅び。村は街になりました。

 街が1つ滅び、また1つ滅び。街は小さな国になりました。

 国が1つ滅び、また1つ滅び。小さな国は大きな国になりました。



 そうして何百年もの間に眷属を失った神が増えていきました。



 いつしか祝福する地を失った神々が記憶を失いました。

 いつしか祝福する民を失った神々が正気を失いました。

 


『まつろわぬ神』となり、地を呪い瘴気を吐いて暴れ始めました。



 人では『まつろわぬ神』には敵いません。

 だから人はもっと強くなろうと、

 もっと強い国をつくろうと戦をくりかえしました。



 『まつろわぬ神』が地に増え、大地は瘴気に覆われました。

 『まつろわぬ神』が地に溢れ、大地に人は住めなくなりました。



 民をもつ神々は、民に浮島を与え、

 いつしか人は空で暮らすようになりました。

 それでも人は戦をやめませんでした。

 さらなる力を求め、戦を繰り返したのです。

 地は更に呪われ、瘴気に満ちていきました。



 あるとき世界の中心のヴァルハラで、1人の神が目を覚ましました。

 あるとき世界の中心のヴァルハラで、また1人の神が目を覚ましました。

 また1人、また1人と永い年月をかけて、100人の神々が目を覚ましました。



 神々は自分の名を思い出せませんでした。


 

 かつて何百年も大地を祝福し、民と暮らしていたような気がします。

 かつて何百年も大地を呪い、暴れていたような気がします。



 神々は、どうして自分たちが死んだのか覚えていませんでした。

 他の『まつろわぬ神』に殺されたのかも知れませんし、

 人に殺されてしまったのかも知れません。



 いま一度、意識を取り戻した神々はヴァルハラの炎の中で、

 溶け合い、混ざり合い、語り合い、いつしか封神を決意しました。

 地を呪う『まつろわぬ神』になっているかつての友たちを、

 封じてヴァルハラに誘おうと。

 


 神々は異世界から魂を召喚し、自分達の眷属けんぞくにすることに決めました。


 




 ヴァルハラの炎の中で目覚めたとき、

「闇の中で光を見たような気がした」

 と、その少女は言った。

 闇の中の光サーニア

 そう名乗った神の眷属に、

 俺はなった。

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