VTTAR/ヴィタール

あんじ

プロローグ

 青い空、それとは対照的に地面は赤く染っていた。人の血だけではない。突如現れた異形の生物の血もそこら中にこべりていていた。

 漏れたオイルと、硝煙の香り、そして血の臭いが充満している。

人々の悲鳴は既になく、地面を揺らす異形の足音と、それに立ち向かう戦士達のジェット音が鳴り響く。


『前方に100km先に熱源反応。守護級タイプ・ガーディアン20、長槍級タイプ・ランス30、大砲級タイプ・ガンナー15の一個小隊を確認。鶴見を壊滅させた部隊だと思われます』

「了解。各機偃月の陣を展開、正面を俺が切り開く。周りにもまだヤツらが潜んでいる可能性がある。電撃作戦ブリッツだ」

『アーチャー2、了解』

『アーチャー3、了解です。仇討ちと行きましょうよ』

『アーチャー5、了解。腕が鳴るなぁ!目に物見せてやるぜ!』

『アーチャー6、OKです。お前ら、うるさいから静かにしてな』


 各々が自分なりの反応をする。

 下にカメラを向ければ、そこは既に砲撃に曝されて地面は抉れ、建物は崩れコンクリートの粉となり、もはや人の住んでいた面影はない。

 これも、かれこれ3ヶ月前に地球に落ちてきた異形と争った結果だった。

 東京都はほぼ壊滅。残った奥多摩地域も現状人が暮らせるほどの安全性は無く、人々は疎開を強いられていた。東京湾沿岸部はほとんどがヤツらに責められ壊滅。いま感知した敵も鶴見を襲い、巣作りをする為に活動を停止していたのが動きを見せた。その為、別件で調査任務についていた我々が急遽対応にあたる事となった。


『接敵まで残り50、もう少しで大砲級タイプ・ガンナーの射程距離に入ります』

「よし、各機戦闘態勢。守護級タイプ・ガーディアンに240mm肩部連装砲・徹甲弾をぶっぱなす。それが突撃の合図だ。お前らは先に大砲級タイプ・ガンナーを殲滅、その後距離を取って長槍級タイプ・ランサーを潰す。いいな?」

『『了解!』』


 鋼鉄の巨人は起伏の激しい丘や小山を低空で、更には音速で飛ぶという超高度な技術を簡単に披露する。だが、彼らは特殊部隊や長期間搭乗しているベテランでもない。たかだか3ヶ月程度訓練した初心者集団だ。

 しかし、これがこの国の最後の希望であり現状防衛線の最終ラインと言えるだろう。彼らが潰されればこの国は間もなく蹂躙され、異形の生物しか存在しない土地となる。


『高熱源体反応!大砲級タイプ・ガンナーからの攻撃、来ます!』

「全機適切な距離を取って回避行動。あと10進んだら合図を出す。そのまま鶴翼の陣へと展開して作戦を開始する」


 モニターに映し出されるのは

 6本足で立ち、蟹のはさみの部分にあたる二本の腕が重装甲となっている守護級タイプ・ガーディアン

 その後ろを8本の足で歩くまるでさそりを模した様な姿をした長槍級タイプ・ランサー

 そして最後方には、ばつ印の先に足が生え、その接点に高射砲の様な物を携えた大砲級タイプ・ガンナー

の3種類が視認できた。

 そして、今まさに大砲級タイプ・ガンナーがこちらに狙いを定めて爆発物を投射しようとしていた。


「どうやらアチラさんも気付いたようだ。ちょいと遠いがこちらから先に仕掛けさせてもらう」


 脚部スラスターを緊急逆噴射パワーバックし、対Gを受けながらもモニターを注視する。連装砲のサイトと連動しているレティクルが異形まとの中心へと絞られていき、機体がストップする直前に発射可能となった。

轟音と共に肩から徹甲弾は放たれ、戦車の一撃ではビクともしなかった守護級タイプ・ガーディアンの盾を貫く。

 そして、着弾を確認した各機が盾と剣を構えて、突撃を開始する。


『うぉぉぉぉぉ!!!』


 通信機越しに聞こえる叫び声ですら怒りを感じるほど、強い意志を感じる。この小隊は元々東京都内の駐屯地に所属していた者達だ。自分の故郷を壊されて感情が爆発しないわけが無いだろう。

 徹甲弾に貫かれたのを期に守護級タイプ・ガーディアンは隊長機を目標として突撃し始めた。単体では攻撃力を有さないが、後ろの長槍級タイプ・ランサーが長いリーチを使い攻撃してくるのが常套手段だ。

 これをされる前に大砲級タイプ・ガンナーを殲滅し、背後と側面から盾のない長槍級タイプ・ランサーを囲い込むのが作戦だ。


「次弾装填完了。発射!」


 バックブラストの代わりにスラスターを使い、地上でも姿勢制御を行う。

 徹甲弾は守護級タイプ・ガーディアンの盾を貫き、後ろの盾すら貫通する。もちろん盾だけでなく、異形の胴体すら貫いていく。

 人でいう心臓にあたる器官を損傷させ、次々にヤツらの行動を停止させていく。

 だが、後続はこれを乗り越えて進軍を停めることは無い。これも彼らの特徴だ。人間のような仲間意識というものは存在していない。

 止まることの無いヤツらの射程までまだ距離はある。それに守護級タイプ・ガーディアンも十分に数は削れた。大砲級タイプ・ガンナーの数ももう少しで殲滅できる。

 だが、このまま連装砲を撃っていてもこの位置のままでは守護級タイプ・ガーディアンを殲滅する前に長槍級タイプ・ランサーの射程距離に入ってしまう。

 その為、後方に下がらなければならないのだが後方に突如として複数の熱源反応が現れた。


「熱源反応!?……疎開を拒んだ集落か!」


 上空を飛んでいる時は小さいため見逃されていたが、少しずつ下がっていた隊長機の後方には疎開を拒んだ人達の住む3~4軒ほどの集落があった。


『隊長、後退してください!このままでは長槍級タイプ・ランサーの射程に入ります。さすがにそこまでは殲滅が間に合いませんよ!』

「これ以上は下がれん!後ろに民間人がいる。疎開を拒んだ者たちの集落だ」


 政府の勧告を無視した者たちのだ。犠牲になった所で誰からも文句は出ないだろう。黙っておけばそのうち戸籍からも除かれる。

 だが、それでも彼は国民だ。我々には守る義務がある。ならば下がる訳にはいかない。


「連装砲は……残り2発。さすがに足りんな」


 どうするかと一瞬の思考、躊躇いが生まれた。

 ここは戦場で、そして逡巡は命取りとなる。通信機器から聞こえるアラーム。思考に割かれた意識が戻ってくると、遠方からの高熱源体反応が迫っていた。

 まだ仕留めきれていなかった大砲級タイプ・ガンナーからの狙撃を受け、メインカメラと左肩連装砲が大破。コックピットハッチもめくれ、パイロットが剥き出しになっていた。

 大砲級タイプ・ガンナーの爆発性の砲撃と、機体の破片が飛び散り集落は跡形も無くなっている。


「最早これまでか」


 コックピットハッチがめくれた事により破片が自分自身にも被弾し、かなりの重傷を負っているのが自己判断できた。この命も持って数刻なのは自明の理だ。

 地響きが鳴り、遠くでは銃声や砲撃音が鳴り響く。既に血が足りなくなりつつあり、意識が遠のく中、1つの希望の声が聞こえた。


親が死んだのか


自分が怪我をしたのか


異形に恐怖を抱いたのか、


はたまたそれら全てか


 分かりはしないが、子供の泣く声が聞こえた。センサーは故障し、ソナーしか反応しないコンソールにあるミニマップには機体のわずか後方に1つの存在を感知していた。


「……これも大人の役目か。ならば、次の世代に託そう」


 簡単に動作の確認をし、使い物にならない連装砲をパージする。残った武装は大型化されたライフル2丁と、腰部三連装ミサイル、そして背部に背負った壊れかけの爆発反応装甲を持った盾が主なものだ。残りは腕部に収納された申し訳程度のナイフがあるのみ。

 目視できる距離、ざっと10km先に既に守護級タイプ・ガーディアンが迫っているのが見えた。


「悪いな、みんな。俺は先に友の元へ行かせてもらう」


 多分、みんな何かを言っているのだろうが既に受信機が破損して何も聞こえやしない。

 関節部が変な音をたてているが、それも知ったことではない。どうせ持ち帰っても大破認定でスクラップだ。

 ここから動く事は許されない。盾の先を地面に埋め気持ち程度の障害物にする。その裏で2丁のライフルを構えて応戦、狙うはミサイルで守護級タイプ・ガーディアンの足元。

 ライフルは牽制程度でばら撒いていく。ミサイルは手動で狙いを定め、爆発で怯ませる事に成功する。


「これでも…食らっておけ」


 ライフルの弾丸に反応し、盾に付けられた爆発反応装甲が起動して守護級タイプ・ガーディアンの盾を破壊した。

 後ろから長槍級タイプ・ランサーも見えるが、そのさらに後ろから駆けつける味方の姿も見えた。見ればヤツらの数も数える程に減っていた。


"ここを抑えればこの子供を助けることができる。"


 そう確信し、最後の力を振り絞る。操縦桿を全力で前に倒し、長槍級タイプ・ランサーに突撃していく。虎の子のナイフを突き刺し、進行を食い止める。

 もちろん尻尾ランスが機体を叩き、貫通するのも時間の問題だ。しかし、この機体が止まる頃には仲間がコイツを倒してくれるだろう。


「聞こえてるか…分からないが、隊長機より各機へ。俺の後ろに、子供がいる。……頼めるか?」


 最後の通信を残す。


 希望を残すための、せめてもの願いを込めた。


 後は仲間アイツらが何とかしてくれるはずだ。


 全てを託す──

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