9-4 サンバな温泉


 さて、ラストを飾る4曲目の候補を挙げております。

 2曲目が花笠音頭だから、たすき掛け、姉さん被りのまま踊れる曲って考えて「草津節」*21が良いのではという意見が出ました。


「草津よいとこ 一度はおいで アードッコイショ!」のフレーズでおなじみだし、男子たちの本気の黒モードに対抗して、可愛らしく華やかに〆るのもいいでしょ。


「草津節」は草津温泉の湯揉ゆもみの唄なのです。

 湯揉みとは、草津の湯が高温なので、冷ますために厚い板で湯をかき混ぜることをいいます。その時に歌われる作業唄なのですね。

 草津では湯揉みショーがあったり、体験もできるそうですよ。

 近頃では筋肉隆々の男性たち、その名も「ゆもみくん」が登場することもあるとか。わぁ、行ってみたーい!(はっ、失礼いたしました。つい興奮して取り乱しました。)


「チョイナーチョーイナー」とか、囃子言葉もユーモラスで楽しいのです。

 でもでも、とっても色っぽい踊りなんですよね。髪がほつれて、後れ毛が垂れて、湯気の中から美女現れる的な。

 こーゆー時、アゲハ蝶姉さんなら、どう踊るかなってやっぱり考えてしまいます。ちょっと小首かしげただけで、かわいい色気が出る、あの方の舞が散らつきます。


 あーでもない、こーでもない、とつぶやいていたら、どだいムリじゃないか?と夏音の目が言っております。

 こういう時はやはりトリコさんに相談です。

「どうやったら色気って出るのかしら」

「じゃあ逆に、紗雪はどんな仕草が色っぽいと思う?」

「うーん。ちらっと裾を上げるとこもいいけど、湯揉みの振りのところの腕の柔らかさとかかなぁ」

「俺は手を打って太腿叩くとこが断然好きだなー。艶っぽい姐さんみたいで」

 出たな、男の意見め。

「首の角度かな。トリコさんの首ってほんと女っぽいですよねー」

「まあ、それは急には無理ね。首振り三年ころ八年、って言うからね」

「あれ、それって尺八のことじゃなかったでした?」

「あ、バレたか」

 つっこむ夏音にぺろっと舌を出すトリコさんは幾つになっても可愛いところがある人だなぁと、見惚れてしまいました。これだよ、こういう色気がすきなの。

「首振り三年は日本舞踊でも言うのよ。まあ、そのうち。後は力の抜き具合かしらね。これも一朝一夕にはいかないわね」

 そう聞いて畳の上でぐでーっと寝てみましたが、夏音がちゃうちゃうと手を振っているので、これは違うようです。



「草津節」は和太鼓部が中心になって、アレンジを担当してくれることになりました。

 なんと大胆にも「サンバ」で来ましたよ。前半は民謡のまま、後半めっちゃ盛り上がるらしいです。わぁ、サンバ風にアードッコイショとかどう言うんでしょう!

 あ、そういえば盆踊りの曲に「どだればち」と「サンバ」を融合させた「ドダレバチサンバ」なるものがあって、すごい人気なんですよね。確かにご機嫌にノレル!


「サンバの部分は紗雪が振りをつけてみない?」とトリコさんに言ってもらったので、私もがんばって考えますね。

 めっちゃ血が騒ぐなぁー。ステップとか入れちゃいますか。ピーピピ!と笛も入れたいなぁ。マラスカ持って踊るのもいいなぁ。

(ここで夏音のチャチャが入りました。「お前アラスカとごっちゃになってるぞ。マラカスだー」って。)

 和太鼓部は、小さい太鼓を体に下げて叩く部隊がいるらしいので、みんなにも舞いながら叩いてもらうとかどうかしら。わくわくします。


 文化祭2日目は、舞台ではなく、体育館の中央を使って円形で、吹奏楽部の周りを囲むようなフォーメーションに変えて披露することになりました。

 その流れで後夜祭に突入して、なんと生徒全員を巻き込んで盆踊り大会にするという壮大な計画も! こりゃリハーサル大変です。



「草津節」は歌詞も色っぽいのです。お湯の中に花が咲く、と表現されています。


「お医者様でも草津の湯でも惚れた病は治りゃせぬ」

「惚れた病も治せば治る 好いたお方と添や治る」

 誰かを一度すきになったら、簡単には引き返せませんものね。(実感!)

 すきな人と添い遂げれば治るって、片思いの場合はどうするの?


 そして、「積もる思いと草津の雪は、溶ける後から花が咲く」って、なんだか儚いです。ふわり、ちらりと湯に舞って、気づけば溶けてしまうのでしょうか。

 などと、ちょっと柄にもなくセンチメンタルに浸ってみました。



 試行錯誤しているうちに月日は流れ、文化祭は無事に終わり、私たちの舞台は大好評でした。

 そう言えばですね、2日目の発表には自由が丘陽光高校の麗しの雪豹さんが来てくれたんです。後夜祭まで居てくれるかなぁと期待していたのですが、いつのまにか姿が見えなくなってしまったんです。あーあ、お話ししたかったなぁ。


 一緒に観客席に居た熊五郎先輩がやって来て

「おい、お前らはいい加減、俺を介さずに直接話せよ」と苦笑交じりで夏音に言いました。

 雪豹さんは素晴らしい演目だったと告げて帰ったそうです。

「夏音は雪豹に夢中なのに素知らぬ振りをするし、雪豹は俺に近づいて間接的にお前をほめるし。まったくめんどくせーよ」


 そうですね。私が嫉妬しちゃうくらいに、夏音は雪豹さんに惹かれてるんですよね。反対に雪豹さんもそうなんですね。互いにあこがれるライバル同士。くぅー、カッコイイー。

「別に、俺は」

 紅くなってる癖にそうやって素直じゃないとこも、夏音らしいけどね!




<民謡ひとこと講座>

*21「草津節」群馬県草津温泉の民謡

   湯揉み(高温の湯を板でかき回す)の作業唄。お座敷でも舞われるようです。




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