2-3 ハッピーに踊ろう
土曜の午後のお稽古が終わると、大抵はそのまま例会に流れていきます。
お稽古は畳の部屋で
雨が降った時以外は、毎週のように開催される踊りの会。つまり「毎週がミニ盆踊り大会!」なのです。
夕方の光はまんまるで、新緑にあふれた風景をまぶしく包んでくれるみたいです。
輪になって民謡の曲をたくさんかけ流して、少し暗くなるまでの間、踊り続けるの。
民踊を習ってる人だけじゃなく一般の方も参加歓迎! 見よう見まねで輪に入りましょう。涼みながら楽し気に見物するギャラリーもたくさんいて、手拍子や掛け声が起こったりします。
私たちも午後のお稽古の後また踊るだなんて、ああ、どんだけ踊るのすきなんだろうって、呆れちゃいますね。
例会では踊りの型とかあまり考えずに、何よりハッピーに踊っちゃおう!って思っています。こどもの頃、太鼓の音がしてきたらわくわくした、あの気持ちのままに。はしゃいじゃう自分を思いっきり肯定することにするよ!
選曲と振付は、中央の師匠たちリーダーにお任せ。
はじめてでも、輪の中心で踊ってくれる方たちの真似をすれば、自然に振りは覚えられます。ここにはいつも、トリコさんの艶やかな姿があるの。トリコさんファンも一目見ようとたくさん集まって来ます。
この土曜の会にはね、太鼓や鳴り物の人も時々遊びにやって来るのです。祭りには欠かせないものね。コンコンチキチキ、コンチキチキ。
生歌で踊ることもあるんですよ。民踊は、民謡という歌があってこそ成り立つ舞ですから、歌手の方たちのよく通るこぶしの効いた声にほれぼれとしてしまいます。
さて、ハッピータイム。その名も「はっぴぃロック」(*3)です!
これは民謡というよりは軽いダンスって感じで、軽快にツーステップ踏んだりして参加しやすいから、みんなを輪に誘う曲になっています。
*
あと、もう一つ土曜日に楽しみにしていることがあるのです。
それは、帰り道に寄る、昔ながらの洋食屋「オリガミ」のエビフライ定食。
え、たぬきなのにエビたべるの?って。
やぁだ、私がたぬきなのは、ここだけの秘密だよっ。
私も夏音もね、もう人間やってる方が断然長いんですから。
夏音がだいすきなのは、ハヤシライス。焦げ茶色のトロリとしたのに、オムレツのせてもらってるの。
ハッシュドビーフとも呼ばれるらしいけど、ここではレトロな呼び名の「ハヤシライス」ってメニューにも書いてあります。
「林さんって人が作ったのかなぁ」
「紗雪、知らねーの? お
「え、ほんとう? そうなんだぁ、すごーい」
「もう、お前は簡単に人が言ったことを信じるな」(きつねだけど)
何十年もここの常連のトリコさんは、「トリコスペシャル」なるメニューにないプレートがさっと出てくるのです。すきなものをちょこっとずつ。
「もう若くないから、量よりも贅沢に色々ほしいのよ。あんたたちは食べ盛りなんだから、ごはん大盛りになさい」
そんな大人みたいな発言してるけど、トリコスペシャルって、つまりはおこさまランチなのではっ?
ミニオムライスに、コロッケ・エビフライ。あ、ナポリタンもついてる。旗立てたら立派におこちゃま用ですよね!
あとこれが絶対出てくるんだ。オニオングラタンスープ。
玉ねぎを飴色になるまで炒めたスープにチーズトーストが浮かんでるの。最初聞いた時、どこどこグラタンは?って思った一品だ。
これをトリコさんは一口ずつ大事そうに、鳥みたいにちょこちょこスプーンでつついて食べるんだよね。くすくす。
なのに、回転率が高いのか、トリコさんは食べ終わるのが早いです!
「ほら、紗雪。さっと食べてもう帰るよ」
のんびりぱくついてると、いつのまにか平らげているんだもの。
「さすがトリコさんだよな、『客と白鷺は立ったが見事」って感じか」
「夏音、何それ」
「客は長居をしないで、早く帰るほうがよいというたとえだよ。白鷺の美しい立ち姿に掛けたんだって」
ふぅーん。変に雑学に詳しい奴め。
そして、帰ってからさっぱりお風呂を頂いた後、縁側に座って飲むカルピスが、一日の疲れを取ってくれるのです。
水玉のコップに氷を入れて、青のグラスが夏音の。黄色が私の。
カランカランって鳴る音がすき。
「ねー! もっとたくさん入れてよー、夏音のケチー」
「入れすぎるとケンケン咳止まらくなるくせに、うるせーな、こいつは」
なんて言い合いながらも、ちょっとたしてくれるのが嬉しいな。
あ、トリコさんは、もう日本酒で晩酌はじめてるね。
白く濁って、見た目はカルピスと同じような濁り酒。
ではでは、今宵もカンパーイ! 慎ましやかに咲くスズランちゃんにもね!
<民謡ひとこと講座>
*3「はっぴぃロック」 中山千夏さん歌唱曲 平成30年度盆踊り曲
最近の盆踊りには、民謡の他、親しみやすく振りがつけられる曲もあります。
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