1-4 山羊とひつじ


 放課後になって、さあ、部活の時間です! 


 最終的に、今年は五人の新入部員が入ってくれたのです。

 私たち二年が五人、先輩たち三年が五人、全員で十五人の小さいながらも賑やかな部活になりました。(なぜいつも五人なのかしら。どっかに五人の壁があるのかな)


「はい。みなさん、こんにちは。ようこそ、新入生諸君」

 お、部長のあいさつですよ。山羊部長は、今日もエアあごひげをピンとはじいてます。

「ハッピー民踊部部長の山羊やぎひろしです。よろしくお願いします。ちなみにやぎ座です」

 ふーん。知らなかったです。

「私は主に折衝せっしょう役です」

「え、そうなんだ。部長って人殺し……」

「それは殺生だろ。漢字が違う!」

 夏音が茶々を入れてきます。そんな殺生な。


「こら、そこの二年。静かに聴きたまえ」

 ごめんなさーい。

「つまり、師匠とのパイプ役だな。ここでは週二回、踊りの先生が来て下さるが、その他の日は顧問と先輩を中心に自主練している。また他校や地域との交流も盛んで、私はその調整役というわけだ」


「こちらは私の補佐役、書記の羊田ひつじだ洋子ようこだ」

 メェエエエ。くるくる巻き毛のひつじ先輩が、ぺこりと頭を下げます。

「私は部長の秘書兼書記の羊田です。最初はキャンパスノートに記録していたのですが、部長が紙を食べてしまう習性のため、最近ではこちらのタブレットに打っています。ちなみにおひつじ座です」

 カタカタカタ。ああ、ご先祖が手紙を食べちゃった事件ですよね。


「本当は書いてもらったノートを食べると、よく覚えられるのだが」

 ええっ、食べたら脳内に蓄積されるなら、私も教科書たべまするっ!

 いつも学年トップの山羊部長に、ナンバー2の才媛、羊書記。

 二人は山羊と羊だけに、メェコンビなのです! 息がピッタリで、いつも行動を共にしているの。


「それから」

 部長はコホンと咳ばらいをしてから、私たちの方を見た。

「今年君たちの一つ上に当たる二年生の先輩グループの代表は、右紺夏音がつとめるので、年が近い分、気軽に何でも相談するように。恋の相談なんかもなっ」

 きゃぁ、という後輩女子たちのしあわせそうな声が聴こえたけど、何にでもかこつけて来ちゃだめだからねっ。



「さて、民謡とは何ぞや。我はこう答える」

 山羊部長の講義がはじまりました。ホワイトボードに色々書きつけています。彼の知識は並々ならぬものがあるのです。

「走る生き地獄」って感じ? 

「それを言うなら『歩く生き字引』だろ。まったく紗雪は」

 こそこそっと夏音が耳元でささやきます。もうくすぐったいよー。


「民謡とは、主に口承によって受け継がれた歌の総称である。ウィキペディアより」

「こうしょう、という字はこう書く」

 部長がボードに「口承」と書く。

「つまりは口伝えだ。歌い継ぎ、人の口から口へと伝承されたものだな」

 え、口から口……。

「そこっ。ちょっとエッチなことを考えただろう!」

 きゃあー。部長、指ささないで下さい。勝手にほっぺが熱くなっちゃうじゃないですか。

「紗雪、顔真っ赤。変態」

 うぬぬ。こんな時にも夏音め、涼しい顔して。


 山羊部長の講義は続きます。


 民謡とは、日本各地で歌われる昔の唄のことを言う。

 種類は二万曲以上存在する。もっとも、琉球民謡やアイヌ音楽を含めばもっと多い。

 大漁や豊作を鼓舞する労働歌、先祖を祭る盆踊り、祝いの席で舞う日本民舞。

 形式も多種多様で、各地域によって様々な歌が残っている。

 追分おいわけ馬子まご歌、舟歌、木遣きやり歌、甚句じんく、おなじみの音頭おんどなどだ。


 で、振りを習う前に、その曲のいわれを知っておくことは、心構えとして大切なことだ。

 とは言ったものの、固く考えずに、ここハッピー民踊部では、踊りにスポットを当てて、掘り起こしたり、後の代に伝えようってわけだ。

 だから民謡ではなく、漢字は「民踊みんよう」。舞踊ぶようの「よう」ね。


 ちなみに、ハッピーは祭りで着る法被はっぴにかけてるからね。レッツ・エンジョイ!


 手始めに「八木節」だい! ヤギだけに。🐐



 さて踊った後は、各自の自己紹介タイムとなりましたが、まあ、部員それぞれのことは、そのうちにおいおい判ってくるということで。え。 


 ざっくり紹介しておきますと、三年が山羊、羊、くま、アゲハ蝶、おおかみ。

 二年はラッコ、ねこ、カンガルー、きつね、たぬき。

 一年は小鹿、フェネック、うさぎ、ペンギン、モモンガ。


 え、動物ばっかり? いえいえ、気のせいですよ。

 名前があれなだけで、みんな人間の高校生ですからねっ。


 あ、それから今日はいませんが、顧問はフラミンゴです。




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