第7話 オーガ

 その洞窟は天井が高く、どこから明かりを取っているのか分からないが、昼夜の区別なくぼんやり明るい。思ったよりも解放感があるその洞窟の奥には、岩に刻まれた階段があり、上へ上へと続いている。

 途中にある分かれ道には見向きもせずに、何度も折り返しながら、ひたすら上がっていくと、やがて明るいオレンジ色の空が見えた。

 ダダはダンジョンを出てすぐに、冒険者ギルドへと報告に戻る。


「マスター、ただいま戻りました」

「ああ、ダダか。どうだった?60階層の様子は」

「はい。ボスが消えたとの噂に、2週間前から人員を増やして本格的に60階層の調査をはじめたのですが……」


ダダは手元の報告書にもう一度目を通して、ギルドマスターへと渡す。


「A級冒険者3パーティーに依頼して、60階層全体の把握に努めました。普通に発生する魔物に関してですが、A級の冒険者数名が対応すれば倒せる程度の魔物しかいません。数はあまり多くありませんでした。懸案事項のボスのオーガですが、残念ながら今日、およそ2か月ぶりにその存在が確認されました。私の前にボス部屋へ入ったコボルトの二人組が、例の武器で襲われ骨折しました。幸い命に別条はありません。治癒魔法の邪魔はしませんし、逃げた者を追ってまで襲い掛かることはないようです。その後、60階層の宝をいくつか持って、いつものように奥へ消えました」

「そうか。もしいなくなっていたらラッキーかと思ったが」


 人払いされた所長室が、重苦しい空気に包まれた。項垂れるギルドマスターに、肩をすくめながらダダが続けて報告する。


「鑑定をかけてみましたが、またさらにレベルが上がっています。あの恐ろしい毒の霧への対策も、必死に研究が進められていますが、実用可能な装備はまだ開発されていません。オーガ自体に以前付いていたも消えていました。もう我々の手に負えるモンスターではありません。幸いエンカウントすることは稀ですので、見つけたら戦いは挑まず逃げ帰ることを推奨します」


「……そうか。わかった。あの階層はダンジョン中の宝が集まる場所なので、どうにか冒険者ギルドが掌握したいと思ったが……今まで通り、オーガのいない隙を狙うしかないか」


 報告書を隅々まで読んでみたが、他に目新しいこともなければ、オーガに勝てそうな秘策も浮かばなかった。

 羽を折りたたんで背もたれのない椅子に座る鳥族のダダと、体表が鱗に覆われたリザードマンのギルドマスターは、深くため息をついて首を振ると、それぞれの仕事へと戻って行った。


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