第3話 猛襲マリオノイド

 ――ニュートラルに頼ることなく、ヴィランに対抗しうる超人を創出し、人類の威厳を取り戻す。


 それこそが超人計画の本質にして、真理であった。だが、装甲強化服に頼るのみでは、どうしても限界がある。

 そんな理想と現実の間から生まれた、妥協の産物が――ニュータントの力を科学技術で再現するという、レイボーグ計画であった。


 しかし、人は欲深なもので。それだけでは足りない、と宣う科学者が現れたのである。

 ――その名は、蛮田紀世彦ばんだきよひこ。レイボーグ計画の主任である神頭武蔵の後輩であり、彼の死後に新たな計画を立ち上げた人物である。


 その彼が掲げた、新たなる計画。それは、神頭武蔵の研究をさらに先鋭化させた完全改造人間パーフェクトサイボーグというものだった。


 脳髄を除く全ての肉体を機械とすげ替え、限りなくロボットに近しいサイボーグを創り出す。

 ニュータントに匹敵する怪力を備え、例え破壊されようとパーツを取り替えれば、即座に戦線復帰も可能。しかも痛覚を遮断しているため、恐怖を感じることもない。

 決して死なず、恐れず。ただ敵を駆逐することにのみ念を置き、制圧前進を断行する鉄の兵士。それが、蛮田紀世彦がレイボーグ計画の後釜として提唱した、「MARIOマリオ-NOIDノイド計画」だった。


 ――だが。レイボーグ計画の時点ですでに超人計画の本質は、揺らぎ始めていた。それに加え、このマリオノイド計画を認めてしまえば――プロジェクトの主旨が、根底から覆されてしまう。

 ニュータントよりも恐ろしい、人の身を持たないサイボーグが跋扈する時代が来てしまう。


 それを危惧した政府は、マリオノイド計画を認可せず。蛮田紀世彦を部下共々、プロジェクトから追放した。

 神頭武蔵が死亡し、レイボーグ計画が頓挫した今。超人計画はようやく、本来の意義を取り戻そうとしている。蛮田紀世彦という存在は、その邪魔にしかなり得ないと判断されたのだ。


 以来、蛮田紀世彦とその部下達は公式記録から抹消され、当人達も消息を絶った。そのため、記録上は研究中の事故で死亡したことになっている。


 ――それが。了が対策室に命じて調べさせた、敵方の真実であった。


 そう。マリオノイド計画はまだ、地下深くで生き延びていたのだ。

 そして今、超人計画の本質に真っ向から背くように――ヴィランとして、竜斗達の前に立ちはだかったのである。


 ◇


 ――マリオノイド研究所。

 神嶋市外の海中トンネルに隠された扉から続く、その広大な地下施設の中を……3人のヒーローが進んでいた。


「……そんな、ことが……」

「あぁ。……元を辿れば、超人計画みうちの不始末だからな。データの発掘は楽だったよ」

「しかし、あの少女を攫った理由は何なんだ? あの子はニュートラルに感染していたそうだが……」

「そこまではこちらでも分らなかった。彼女がどういう能力者なのかも不明のままだしな。……まぁ、ロクでもない計画に利用するつもりなのは間違いないだろう」

「何にせよ……早くあの子を、助け出さないと……!」


 ――その中で1人。竜斗は鉄拳を震わせ、何としてもあの少女……桃乃を救わねばと息巻いていた。


 自分と同じ不安に震えながらも、勇気を振り絞り、手を差し出してくれた彼女を。自分なんかの握手会に、わざわざ来てくれた彼女を。よりによって、目の前で拐われてしまった。

 そこから来る自責の念が、彼を焦らせていたのだ。


 そんな彼の胸中を慮り、進太郎は了と無言で頷き合うと……そっと肩に手を乗せる。


「し、進太郎さん」

「慌てることはないぜ、竜斗。あんたには俺達がついてる。すぐにあの子も助け出せるさ」

「……はいっ」


 そして、悪魔の仮面に力強い微笑みを隠し、彼を励ました。その激励を受けた後輩の表情に、進太郎は満足気に頷くと――了の手元に視線を向ける。


 ジャスティスの白い手には、竜斗が持っているものよりも一回りほど大きい、トランクが握られていた。ここに来る途中、彼が乗っていたバイクに積まれていたものだ。


「……ところでさっきから気になってたんだけど、なんなんだそれ? やけにデカい荷物だな」

「対策室で開発中だった、新装備のプロトタイプだ。今回は事が事だからな。必要になるやも知れん、ということで試作品を持ち込ませてもらった」

「実戦を兼ねたテストってところか」

「そんなところだ。……まぁ、杞憂に終わる可能性の方が高そうだがな」


 対策室の新装備。その力が眠っているというトランクに視線を注ぎ、竜斗は思わず息を飲む。そんな彼を一瞥しつつ、進太郎の問いに了が得意気に答えた――その時だった。


「……ほう、大した自信だな」


 ――突如、この薄暗く広大なプラントが、眩く光る電灯にライトアップされた。先ほど桃乃を攫った怜悧な男の声が、この一帯に響き渡る。


 その声を辿り、竜斗達が目を向けた先には――白衣を纏う3人の男達が待ち受けていた。

 中央に立つ壮年の男。右手に立つ、先ほどの怜悧な男。左手に立つ、熊のような巨漢。彼らは全員、200cm以上の体躯を誇っている。


 さらに彼らの後ろには、赤いカプセルの中に閉じ込められた天宮桃乃の姿が伺えた。まだ意識が戻っていないらしく、ぐったりした様子だ。


「やはり貴様が黒幕だったか、蛮田紀世彦」

「フン……対策室の犬が。大人しく街でヒーローごっこに興じておればよかったものを」


 了に侮蔑の眼差しを向ける壮年の男が、鋭い目付きで竜斗を見遣る。竜斗も、剣呑な面持ちで彼と相対した。


「……会いたかったぞ、レイボーグ。『科学の悪鬼』、神頭武蔵の忘れ形見よ。本来なら一度撒いた上で、改めて挑戦状を叩きつけてやる予定だったのだが……まぁ、よい。少し予定が前倒しになっただけのことだ」

「……『科学の悪鬼』……か。それも、事実かも知れない。けど、自分を棚に上げて父さんを悪く言うのはやめてください」

「悪く言ってはおらんよ。畏敬を込めた異名が付くほどの成果を出したのだから、むしろ褒め言葉だ。……私はただ、そんな奴を超える成果を出そうとしたまで」

「……」

「……奴は優秀だった。この私が認めるほどにな。尊敬もしていたよ。だからこそ、奴を超えねば私の力は証明されなかった」

「それで……その力のために、マリオノイドなんてものを造ったのですか。人の尊厳のために、超人計画があったのではなかったのですか!? 彼女を攫ったのは何のために!?」

「人の尊厳。その礎に繋がる人柱こそが、マリオノイドの意義だ。人柱が人でなくばならない理由などない。ニュータントである小娘も、その一つとなる」

「……そんなことはさせない!」


 話し合いで解決できるような相手ではない。この一帯は瞬く間に殺気で満たされ、蛮田達3人はその白衣を脱ぎ捨てた。


 ――その下には、筋骨逞しい漆黒のマッスルスーツが隠されている。そこから血管のようなエネルギーラインを通じて、男達の瞳に人ならざる輝きを灯していた。スマートなボディラインを描くレイボーグの装甲服とは異なり、彼らのスーツは人工筋肉ではち切れんばかりに膨張している。

 すでに彼らは己の身を捨て、完全改造人間パーフェクトサイボーグ「マリオノイド」へと成り果てていたのだ。


「……来るぞ!」


 紅く発光する妖しい眼光を持った彼らは、一斉に竜斗達に飛びかかってくる。その殺気を鎧越しに感じ取り、トランクを投げ捨てた了が、声を上げた瞬間――戦いの火蓋が、切って落とされた。


 マリオノイド1式である蛮田紀世彦は、竜斗に。

 マリオノイド2式である怜悧な男――辻間一誠つじまいっせいは、了に。

 マリオノイド3式である巨漢――黒沼鉄磨くろぬまてつまは、進太郎に。


「ハッハハハハ! さぁ、始めようかッ!」

「見せてやる……人と機械の、マイブレンドッ!」


 それぞれが一気に激突し、苛烈な肉弾戦が始まるのだった。


 ◇


「ハッ、タッ! ダァァッ!」

「ふん、ぬぅッ! どぁあッ!」


 レイボーグとマリオノイド。同じ改造人間同士の拳闘は、一進一退の攻防となっていた。唸る鉄拳同士が、互いの装甲を削り合い、文字通り火花を散らし合う。


 ――だが。徐々に竜斗の装甲が、競り負けているようだった。蛮田紀世彦の鉄拳は、竜斗の盾すらも削ぎ落としてくる。


「ぐっ……!? な、なんて硬さだッ……!」

「ハァッ、ハハハ! 我々マリオノイドは、脳髄を除く全てが鋼鉄で固められている! 40%も生身を残している貴様レイボーグなどとは、硬度が違うのだ硬度がァァッ!」

「あぐッ! がぁぁあッ!」


 装甲の強靭さという地力で劣るレイボーグのボディでは、どうしても真っ向勝負で押し切られてしまうのだ。みるみるうちに盾ごと装甲を削り取られ、防戦一方になり始めていた竜斗は、苦悶の声を上げる。


(ぐッ……に、肉弾戦だと競り負ける! こうなったら――!)


 安易にアームブースターに頼るわけにも行かないが、このままでは追い詰められる一方。そう判断した竜斗は僅かに距離を取ると、一気に紀世彦の頭上を飛び越え、背後に回る。

 そこから腰を低くして、全力のタックルを仕掛ける――のだが。


(……!? う、動かない! なんだ、この力ッ……!)


 棒立ちの紀世彦に、肩を掴まれただけで。そこから全く技を掛けられず、竜斗は身動きが取れなくなってしまった。

 本来なら、ここからカナディアンバックブリーカーを仕掛けるはずだったのだが――紀世彦は腕一本だけで、技そのものを封じてしまったのである。


「う、ぐッ……!」

「――ハッハハハハ! 25万馬力が精々の貴様レイボーグが、60万馬力の我々マリオノイドに力勝負を挑めるとでも思ったかァ!」

「ぐッ……あぁあぁッ!」


 そのまま頭を鷲掴みにされた竜斗は、人形のように腕一本で振り回され――勢いよく投げ飛ばされてしまった。壁に叩き付けられた衝撃で吐血し、竜斗は呻き声を上げる。


「竜斗ッ! ――ぐッ!?」

「ぬっははは! てめぇの相手はこの俺だぜ、チビ助! どうせレイボーグ如きじゃあ、我らのロードには勝てやしねぇんだ。てめぇもとっとと諦めちまいな!」

「ちィッ……邪魔だこのウスラトンカチッ!」


 それを目撃した進太郎は助太刀に入ろうとするが、黒沼鉄磨の体格を活かしたラリアットに阻まれてしまう。

 反撃にワンツーパンチを叩き込むが……鉄磨の胸は大きく反響するばかりで、まるで効果がない。


「ぬはは、所詮チビ助のパワーではここらが限界よ。どれ、一思いにその首を捻って――」

「――だったらこれでどうだ!」


 それを嗤いながら、鉄磨は進太郎の首に手を伸ばす。その掴みをかわしながら、今度は至近距離で闇の光線を叩き込んだ。今度はクロスチョップの要領で放つ、全力攻撃だ。


「効かねぇなぁ!」

「なにッ!? ――がぁッはッ!」


 だが、鉄磨の装甲はそれすら凌いでしまう。山さえ吹き飛ばす全力の光線を大胸筋で弾かれ、驚愕した進太郎は――顔面にストレートパンチを浴びてしまい、ひっくり返って後頭部を強打してしまった。


 ――その頃。辻間一誠と戦っていた了も、防戦一方となっていた。得意の剣も全て、マリオノイドの装甲で防がれてしまっているのだ。


「……ちっ」

「ククク、どうだ神装刑事ジャスティス。貴様らが機械人形と蔑む、私達の力は」


 装甲自体はもちろん、比較的防御が薄い関節部にも、まるで刃が通らない。だが、向こう側はその圧倒的な硬度から放つ拳で、こちらの装甲を容易く抉り取ってくる。

 このままでは鎧もろとも、肉を削ぎ落とされるのも時間の問題だ。


「貴様のベルトも、超人計画に携わっていた霧島大全きりしまたいぜんの産物と聞く。ちょうどいい、そのベルトを破壊して奴の研究も否定してやるとしよう。我がロードのマリオノイド計画こそが――超人計画が導き出した、最適解であると証明するためにもな!」

「……蛮田紀世彦如き、霧島博士の足元にも及ばん。貴様らがこれ以上、いらぬ恥を晒す前に……心優しい俺が黙らせてやる」

「貴様……ならば先に、その減らず口から黙らせてやろうッ!」


 ――だが、了の眼に宿る闘志は消えず。むしろ、より鋭く熱く燃え滾っていた。

 そんな激情とは裏腹に、蛮田紀世彦を罵る声色は冷たく。それに煽られた一誠は、声を荒げて飛び掛かってきた。


「がッ――!?」

「……言ったはずだ。黙らせてやるとな」


 刹那。剣を投げ捨てた了は、掴み掛かろうとした一誠の手をかわしながら、彼の顎にローリングソバットを叩き込む。

 ――機械の顎を通して。その最奥にある脳髄を揺さぶられた一誠は。経験したことのない衝撃に視界を歪ませ、膝から崩れ落ちていった。


「あ、が……!?」

「人と同じ体型と関節部を持っているならば、人体の急所も人間と変わらん。そして貴様らは自分達が言った通り、脳髄だけは人間のまま。……ならば俺が取る手段は、一つだ」


 痛みを感じないはずの体でありながら、意識が薄れていく。その恐怖に苛まれながら――辻間一誠は、気を失ってしまうのだった。


「……痛みがあるから人は強くなる。自我があるから、痛みを知る。それを捨てたから貴様らは、機械人形マリオネットにしかなれんのだ」


 そして、哀れみを帯びた視線を送った後。残る2人の行く末を、静かに見つめるのだった。

 ――あの2人ならば加勢するまでもない、と。


「なるほどな……そういうことかッ!」

「ぬッ!?」


 一方。進太郎も過酷な肉弾戦の中で、マリオノイドの欠点を看破していたらしい。両手で組み合い、力比べの体勢になったまま――彼は自分の掌から光線を流し込んでいた。

 そこから鉄磨の掌へ、そしてその中にあるエネルギーラインへと。


「ま、待て! てめぇまさか――!」

「さて問題。俺の光線を、この掌からあんたのエネルギーラインに流し込むとする。そのラインに流された光線は、果たしてどこに向かうでしょう?」


 意地悪たっぷりに、そう笑いながら。進太郎は鉄磨のエネルギーラインを通じて、自分の光線を相手の体内に注ぎ込んでいく。

 ――その行く先には、鉄磨の頭部。つまりは、脳髄がある。


「ひ、や、やめっ……!」

「……あばよ!」

「ぎゃあああぁああ!」


 その脳髄を光線で焼き切られれば、待っているのは死。マリオノイドには決して訪れないはずの、その結末に畏怖し――鉄磨が絶叫する瞬間。


「なんちゃって」


 進太郎は鉄磨の体内を進み、脳髄に達する寸前だった光線を――直前で止め、自分の掌まで引き戻した。そしてそのまま、ゆっくりと手を離す。

 だが、結局無傷であるはずの鉄磨は。轟音と共に、白目を剥いて昏倒してしまうのだった。どうやら恐怖のあまり、失神してしまったらしい。


「……死なない兵士が死ぬことに怯えて失神じゃあ、世話ないな」


 ――そんな彼を、皮肉たっぷりに見下ろして。進太郎は了と共に、竜斗の戦況を見遣る。

 すでに彼も、蛮田紀世彦との決着を迎えようとしていた。


「ハァッ!」

「ぬ、おぉ……!」


 満身創痍となり、盾を削ぎ落とされ、全身のあらゆる箇所を抉られながらも。竜斗は「伝家の宝刀」であるアームブースターの火力を武器に、紀世彦と渡り合っていた。

 ――接近戦では競り負けても、あらゆるものを貫通する熱線「英雄極光ビームスプレーガン」なら、マリオノイドの重装甲にも対抗できる。もはや、手段は選べない。


「おのれ……小手先の技術で、異能を再現しただけの模造品がアァァッ!」

「――はッ!」

「ぐっ!?」


 紀世彦は竜斗の連射を掻い潜りながら、なんとか接近しようとする。が、あと一歩というところで膝に熱線を受けてしまった。

 竜斗の目前で、紀世彦が前屈みの体勢になる。


「……今だッ!」

「ぐおッ!?」


 その機に乗じて、竜斗は前方に回転しながら逆さまに組み付き、勢いに任せて空中で回転する。

 高速の回転に巻き込まれた紀世彦の身体は宙を舞い――そのまま一回転した瞬間。脳髄がある頭部を、地面に叩きつけられてしまった。


「お、がッ……!」


 声にならない叫びを上げ、悶絶する紀世彦。そんな彼を一瞥し、竜斗は地を転がりながら距離を置いて、アームブースターを構え直した。

 ――逆さまに抱えた相手を巻き込み、空中で一回転して脳天を地面に突き刺す「カナディアンデストロイヤー」。その一撃は脳髄が弱点であるマリオノイドには、効果覿面であった。


 弱点を看破された上、手痛い一撃を浴びてしまった紀世彦。そんな彼に狙いを定め、竜斗は降伏を呼び掛ける。


「……さぁ、勝負は終わりました。諦めて投降してください!」

「抜かせ……! レイボーグに敗れたとあっては、それこそ人間を捨てた代償に見合わんではないか! 私は私自身のためにも、戦わねばならんのだ!」

「どうしてそこまで……! お願いです、もうやめて彼女を離してください!」


 紀世彦の全身は彼の熱線に撃ち抜かれ、至る所に風穴が開いていた。1発当てるごとに、竜斗は投降を呼びかけているようだが――紀世彦は聞く耳を持たない。


「どうして、だと。分からんか、貴様には分からんか! 人の身でなくなった自分の意義を求める――それは、己のアイデンティティのために『ヒーロー』になった貴様にも分かることではないのか!?」

「……ッ! でも……僕は、ただそれだけのためにこの道を選んだわけじゃない! 笑顔にしたい人がいる、笑っていて欲しい人がいる! そんな人達と、いつか平和に暮らしたいから、僕は!」

「ほざけ! 人ならざる機械は、決して人のようには生きられん。無理にその振りをしようとも、必ずどこかで綻びが生じる。ならば私は己が何者であるかを認め、その身に見合う生き様を選ぶ。これが、その答えだ!」


 ――やがて、彼は。傍にあったコンピュータのレバーを倒すと……大穴のように開かれたハッチから、下層へと飛び降りていった。


「なっ……!?」

「あいつ……何をする気だ!?」


 すると。けたたましい轟音と共に――ハッチの下から、「何か」がせり上がってきた。


 遥か地下深くの闇。大穴を描く、その深淵の果てから現れた、巨影。それを目の当たりにした竜斗達は、その圧倒的な威圧感を前にして、息を飲む。


 下層のエレベーターから、この階層まで運ばれてきたそれは――鋼鉄の要塞。その言葉しか当てはまらない、怪物であった。


 両脚で大地に立つ、恐竜の如き風貌。全身を固める白銀の装甲と、銃砲火器。真紅の凶眼と、歪につり上がった鉄の大顎。


 ――さしずめ、機械仕掛けの大怪獣といったところだろう。その体長は、20mを悠に超えていた。


 その怪物は、おもむろに桃乃を閉じ込めたカプセルを掴むと、それを自分の腹部に装着する。

 すると――怪物は紅い眼を妖しく光らせ、この研究所全てを震わせるほどの咆哮を放つ。そしてこの場にいる全員に、筆舌に尽くしがたい「戦慄」を齎した。


『――レイボォォォグ! 私を私たらしめる、「アイデンティティ」を見せてやろう! 強大なエネルギー体となるエナジー・ニュータントを眷属に従え、私の科学力を以て生み出した、この要塞を媒介とすることで完成する……「力」の結晶! 「フォートレス・ニュータント」の真価をなァアァア!』

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