違和感2



じい「蘭ー?夕飯、出来たぞ。起きてるか?」


霧雨「うぅ、うぃ」


時計を見る。どうやら分針がちょうど一周しているようだ。


「思ったより長く寝ちゃったな」


こりゃ夜寝るのに苦労するぞ。そう気分を落としながら館の厨房に向かう。


今の時刻は5時とちょっと過ぎ。

この館に住む者の1日3食を食べ始める時間は普通の家庭より早いのではないか、と思う。

なんでかって言うと、お客さんに出す前の料理を先に私たちが食べるからである。

まあ毒味、というやつか。

私たちが先に食べて味やその他諸々をチェックしてから提供すると行った具合だ。


ばあ「今日は山菜が中心やねー。」

じい「もう春だしな。」


厨房のテーブルには淡い色合いの小鉢と魚の煮付けがのったお皿が並んでいる。


毒味とはいえ食べるのはじいとばあが腕に縒をかけたこの旅館の”お食事”である。


小さい時からよく楽しみにしていたものだ。


正直春のメニューは質素で物足りない感じがしてあまり好きではないことは秘密だ。


「「「いただきます」」」


まぁ、じいとばあの料理は美味しいからいいのだけれど。


じい「部屋の片付けはもう済んだんか。」


霧雨「いやー。まだベットを組み立てただけ」


ばあ「女の子ひとりじゃ辛いやろ」

  「夜にひと段落したらあんた机組み立てに行きはったらどや」


じい「もうちょっと客が少なければちゃちゃっと手伝いにいけたんやけどなぁ。すまんな」


霧雨「ううん。全然。ありがと」



どこ、かじいとばあと他人行儀になってしまってちょっとだけ居心地が悪い。


いや、じいとばあは何も悪くない。

ただ私がわからなくなっただけだ。

長い間一緒だったじいとばあですらどう接していいかわからなくなってしまった。


思春期だから、と言う理由で簡単に済ませられる話ならいいのだけれど。

人生はそんなに楽ではないってこった。


なんて人生の大先輩の前で考えてしまう浅はかな自分が恥ずかしくなって私はさらに小さくなってしまう。


霧雨「ごちそうさま」


じい「もうええんか?」


霧雨「うーん、なんか疲れちゃって」


ばあ「そうかい。6時半から食事の時間が始まるから、ゆっくりお風呂入るとええで。」


霧雨「うん、りょうかーい!」


ちょっとだけ元気な風を装う。こんなことをして素直にならないから人並みより無駄に疲れる生活をしているんだろう。


時刻は6時少し前。


まだ少し時間があるなぁ。

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