第4話 種蒔き

 家の中には色々なものがあった。

 観葉植物ばかりが目に付いてすぐには分からなかったが、この家には部屋が幾つかあり、ベッドやキッチン、風呂など生活に必要なものが一通り揃っていた。

 神様の家ってそういう生活臭溢れるものはないってイメージがあったけど、これなら人間の僕でも普通に生活できそうだ。

 僕が探している神果の種は、リビング(と呼んでいいかどうかは分からないけど最初にいた部屋をそう呼ぶことにした)にあった。

 生命の揺り籠の傍。そこに置かれていた宝箱風の大きな箱の中だ。

 この箱はアイテムボックスといって、開拓やエルの世話で必要になる道具などが一通り入っているのだとメネが教えてくれた。

 何でもアイテムボックスに入っている消耗品はなくならず、使っても常に新しい在庫で一杯になっているのだそうだ。

 種や肥料なんかは、使ってもなくならないということか。それなら在庫の心配をしないで思い切り使うことができるな。

 早速、僕はアイテムボックスから神果の種と肥料を取り出した。

 その足で、再度畑へ。

 神果の種は苺の種のような粒々とした小さな種だった。

 それを、僕はメネと手分けして畑に植えていった。

 大きく育てよ、と願いを込めながら、丁寧に一粒ずつ土に穴を空けてぱらぱらと。

 種蒔きが終わったら、水遣りだ。

 水はメネが魔法で雨を降らせてたっぷりと撒いてくれた。

 水を撒いたら、肥料をあげる番だ。

 見た目はただの土っぽいふかふかとした肥料を、種を蒔いた場所にまんべんなく撒いていく。

 全てが終わった頃には、御飯時なのだろう、僕の腹はぺこぺこになっていた。

 この世界、空が暗くならないんだな。時間が分からなくてちょっと不便だ。

 真っ赤な空を見上げながら、僕は額にうっすらと滲んでいた汗を手の甲で拭った。

「ふう」

「これで畑作りはおしまいだよ。後は実がなるのを待つだけ」

「え、畑の世話とかしないでいいの?」

「肥料を撒いたから、後は何もしなくても勝手に育つよ。神果は強い植物だから、お世話が楽なの」

「そうなんだ」

 どんな実がなるのか楽しみだ。

 畑を見ていると、メネが僕の目の前に飛んできて顔を覗き込んだ。

「マスター、お腹空いたでしょ。御飯にしよう」

「御飯って、君も人間みたいに食事するんだ?」

 尋ねると、メネは目を瞬かせた後に当たり前でしょと言った。

「人間と同じものは食べないけど、食事はするよ! 妖精だってお腹が空くんだから」

 そりゃそうだよね。妖精だって生きてるんだから。

 妖精って何を食べるんだろう。僕としては妖精って花の蜜なんかを主食にしてるイメージがあるけど。

「メネも張り切って魔法使ったからお腹ぺこぺこ。早く行こう」

「あ、待ってよ」

 家に向かって飛んでいくメネを追って、僕は家に戻った。

 この世界に来て初めての食事か……僕料理はあまりしたことがないけど、頑張って作ろう。

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