第3話 魔物との初戦闘


「ゲギャッ」


 俺が飛び退いた木の枝がしなり、その音でゴブリンが声を上げて周りを見るが、ゴブリンが俺を見つけるより早く、最後尾を歩いていたゴブリンの後頭部に乗るような形で足で踏みつける。

 俺の体重をモロに受け、前に倒れるゴブリンの頭を勢いそのままに地面に押し付ける。


 思い切り頭を踏むとグチャッという音と気持ち悪い感触を残して頭が潰れた。

 頭を踏み潰したせいで着地の際にバランスを崩すが無理に踏ん張ろうとはせず、そのまま前に倒れこみながら回転してすぐに立ち上がり、声を上げて慌てるゴブリンに向かって突っ込む。

 隊列の真ん中を歩いていた二匹のゴブリンは、担いだ冒険者が邪魔なのか此方に背中を向けたままだ。


「らあっ」


 ようやくこちらに気付き、振り向こうとするゴブリンの細い首に右手で思い切り手刀を打ち込む。


 ぐにボキッ


 柔らかく不快な感触、そしてすぐに首の骨が折れた手応えを右手に感じるが動きを止めずそのままもう一匹のゴブリンに向かう。


 一緒に冒険者を担いでいた後ろのゴブリンが倒れ、冒険者の体重が一気にのし掛かったのか身動きが取れなくなっているもう一匹のゴブリンの細い首に、先程と同じように右手で手刀を叩き込み首の骨を折る。


「グゲェッ」


 ゴブリンが冒険者を担いだまま倒れ込むのを横目で確認した後、隊列の先頭を歩いていた二匹に目を向ける。


「ゲギャギャッ」


 先頭にいた二匹は既にこちらに向き直り、腰に差していた太い棒のような武器を手に持ち喚いている。


 仲間をやられて興奮してるようだが突然の襲撃で一気に三匹も倒されこちらを警戒しているようだ。


「あと二匹」


 不意討ちで三匹は倒せたが、残りの二匹とは正面から対峙してしまっているので、ここは焦っては駄目だと飛び出しそうになる気持ちを抑える。

 向こうも仲間の半分以上を倒されどうしていいか迷っている様子だが残念ながら逃げるつもりは無いようだ。


 少し場が膠着し、ふと担がれていた冒険者は大丈夫かと目を向ける、担がれていた冒険者は首を折られたゴブリンを下敷きにしながら倒れていた。

 そしてその側に、冒険者がゴブリンと倒れ込んだ時にでも転がったのか抜き身の剣が草むらの中に落ちているのを見つける。


 武器を構えた相手に素手で立ち向かうよりはと思い、前の二匹が喚いているのを油断なく目で牽制しながら、刺激しないようにゆっくりと摺り足で剣に近づき、十分な距離まで摺り寄ると一気に草むらに飛び込みながら剣を拾う。


 無事に剣を拾い片膝立ちでゴブリンを見ると、武器を拾われ焦ったのか二匹とも慌てた様子で突っ込んで来る。


「ゲギャギャッ」


 棒を振り上げながら、意を決したように飛び込んで来た二匹のゴブリン。

 それを片膝立ちのままで無理に迎え撃つのはさけ、右に転がり避ける。

 そしてすぐに立ち上がり、棒を振り下ろした体勢で横並びになっている二匹の、手前のゴブリンに向け右足を踏み込み、右手に持った剣を勢い良く首に突き入れる。

 剣は不快な感触を残しながらゴブリンの細い首の反対側まで突き出る。

 そのまま動きを止めることなく剣を抜き、首から血飛沫をあげ倒れるゴブリンの背中側から回り込むように、右足を軸にして独楽のように半回転し、更に左足を軸にしながら半回転してもう一匹のゴブリンの方に出る。

 俺が回り込む間になんとか後ろに向き直っていた最後のゴブリンに、両手持ちに直した剣を振り上げ、ゴブリンの左肩から右脇に向けて降り下ろす。


「グゲェェ」


 血飛沫をあげ最後のゴブリンが倒れるのを確認すると、急に体の力が抜け草むらに大の字に倒れ込む。


「はぁっ、はぁっ、とっ、とりあえず何とかなったな」


 俺は荒く息をしながら、木々の隙間から見える星を無心で眺める。

 星を眺め少し休んで息が整って来たところで、先程の戦闘でゴブリンの頭を踏み潰した感触、首の骨を手で折った感触、首に剣を突き入れた感触、体を斬る感触を思い出す。

 すると、今まで忘れていた、父親の胸に包丁が突き刺さる感触まで甦る。


「うげぇぇぇ、げぇっ、げほっげほっ」


 手の中に蘇る肉を斬った、命を奪った不快な感触にたまらず胃の中の物を全て戻してしまい、再び大の字に寝転がる。


「はぁっ、はぁっ、ふぅ~」


 もう一度木々の隙間から見える沢山の星と二つの月を見ながら気持ちを落ち着ける。

 ゆっくりと呼吸を繰返し、頭を振りながら父親やゴブリンを殺した感触を、生き物を殺したという考えを頭から追い出す。

 そして息が静まる頃に、ようやく助けた人の事を思い出しゆっくりと立ち上がる。


 そのまま倒れてる人の側まで行く、穏やかな呼吸だがまだ目を覚まさないようだ。


「とりあえずここはゴブリンの血の臭いが凄いし湖まで戻るか」


 最後のゴブリンを斬った時に曲がってしまった剣を投げ捨て、空いた手で倒れた人を抱える。

 女の人って軽いし柔らかいな、俺の体と全然違う。

 まだゴブリンとの戦闘で昂った気持ちが静まっていないのだろうか、胸がドキドキする。

 俺は女の子をお姫様抱っこしながらそのまま湖へと歩きだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る