第24話


「手伝い……? 私はこいつを本選で戦えるだけの実力には上げるつもりだぞ? だからそんなよくわからん能力を付けられても」


「それとは別です━━私達の本当の目的の、です」




 仲神の言葉を聞いて、すぐにカノンは否定した。


 ━━本当の目的。

 それはあの事なのか、確かにアグニル達から聞いた話だと相当な実力者だ、今の僕達では間違いなく殺される、それは事実だ━━だからといって全く関係の無い仲神に手伝いを求めるのか? そして仲神は手伝ってくれるのか?

 なんの利益の無いアグニル達の目的に。


 考えていた僕を置いて、話はどんどん先に進んでいた。

 そんな中、ずっと無言だったアグニルが口を開く。




「カノン……この人にも手伝ってもらうの?」


「はい、この人は信頼できる人です。この人なら━━」


「ちょっと待て! 私は何も聞いてないぞ!? お前らは何をしようとしてるんだ!?」




 仲神の視線の矛先はカノンからアグニルへと移った。

 アグニルは一瞬僕の方を見た、何かを確認したのか、それとも何か伺っているのか、それは僕にはわからない。

 だけどカノンの言葉を聞いて、何かを確信して話を進めようとしているのはすぐにわかる、アグニルは仲神の目元を見つめ、




「私から……説明します」




 アグニルはゆっくりと、そして包み隠さず説明していった。


 アグニルのかつての仲間であり、アグニルを助けて命を失ったティデリアの事。そしてティデリアの命を奪い、門を自由自在に出現させる事ができると予想される精霊召喚士、コスタルカの存在。


 アグニルの話が終わるまで終始無言だった仲神は、話が終わると同時に、




「……そんな、そんな信憑性の無い話を私に信じろと? そんな事があったら誰かしら」


「誰も知らないんですよ━━証明できる人間はあいつの手で喋らないようにしてるんですから」


「そんな相手……私が加わってどうにかなる話じゃないだろ!? それに門を出現させられる召喚士の存在が知れ渡れば全世界が大騒ぎになる。こういうのは力のある奴らに任せろ! お前達が出る幕じゃない!」




 仲神は立ち上がり、拳を握りしめながら熱弁する。

 その表情と言葉からは単にめんどくさいから言ってるのではなく、僕達を心配して言ってくれてるのは理解できた。


 僕はその言葉を聞いて、二人から初めて聞かされた日を思い出した。

 あの時は協力すると言った、アグニルとエンリヒートの力があれば可能なのではないかと━━だが、僕達は同じ学生であるシノとシルフィーのペアにすら歯が立たなかった。現実問題……仲神の言ったように国に対処を求めた方がいいのかもしれない。




「……私達が止めないと。知らない人の力を借りてあいつを殺しても意味がない、そんな事をしてもティデリアは喜ばない!」


「そんな事をしてそいつが喜ぶと思ってるのか!? 今のままだと絶対に殺されるぞ! そんな馬鹿な行動をお前の元精霊は喜ぶのか!? 折角助けた主が無様に命を捨てようとしているのを本気で喜ぶと思ってるのか!?」


「それは……でも私達は!」


「ちょ、ちょっと落ち着いてください! アグニルも落ち着いて!」




 二人は机を力一杯叩き、声を張り上げている。


 アグニルと仲神、どちらの言い分も正しい。 だがらこそ譲れないものがあるのだろう、だが熱くなりすぎだ。


 二人共を制止してなんとか落ち着いてくれた、そんな中、カノンは僕をじっと見つめ、




「主様……もし。もしも精霊舞術祭スピリフェスタで私をお使いになるのなら━━その時は普通の学生には戻れないかもしれません……まあ、既に遅いかもしれませんが」


「それは……なんで?」


「今現在、主様の状況がどうなっているのか━━それはあなたが一番理解してるのではないですか?」




 カノンの甲高い声ははっきりしていて、僕の頭の中を駆け巡る。


 ━━何の事? 普通の学生に戻れない?


 その言葉に戸惑いながらも聞き返すが、カノンは僕から目を離し、仲神へと視線を移し問い掛ける。

 その言葉と視線に、仲神はビクッと体を揺らし、重たい口を開いた。




「……如月が、他の精霊召喚士とは違うと気付き始めている組織がいる、そしてその組織はお前を狙っている」


「狙ってる? 何でそんな事」


「お前が複数の精霊と契約できる唯一の存在だからだ。もしも精霊舞術祭で新しい精霊であるそいつが現れたら━━あいつらは確実にお前の身を狙うだろう」


「……だからあなたは主様に勝ち上がる為、と言って訓練をしてくれてるんですよね?」


「ああそうだ。あいつらは手段を選ばないからな、まあ正直なところ、何日間かで変わるものではないが……少しでも抵抗できればと思ってな」




 話を聞いてはいるが頭には全く入ってこない、非現実的すぎる。

 僕はただの学生、それなのに身柄を狙ってくる組織なんて、




「……その組織っていうのはなんて組織なんですか?」


「━━日本の中でも一番大きなテロ組織。【反日本政府】だ」




 その名前を僕は知っていた。

 反日本政府━━今の日本を我が物にしようとするテロ組織、その構成員全てが精霊召喚士で、何万人もの日本人と外国人が在籍すると言われている。

 日本のテロ組織では一番大きな組織として座学で習った。





「なんで……そんな組織が僕の事なんか」


「構成員がこの学園にいた。そういう事だな」


「そんな事ではなくて……なんで僕なんかを」


「はっきりとはわかりませんが、テロ組織には主様のように複数の精霊を契約、召喚できる珍しい精霊召喚士が欲しいのかと。それに何体も契約できるその体の中の霊力の構造を見たい、そう思っているのかもしれませんね━━一番の理由は召喚された精霊がお姉ちゃん達みたいに上級精霊以上の強さを持つ精霊、という事ではないでしょうか? 主様は一人で何人の精霊召喚士の代わりになりますから」




 カノンの言葉を聞いて全身に寒気が走る。


 ━━だけど、精霊舞術祭に出なければばれる事はないのではないか、そう思って視界に光が見えた。

 だが、その希望の光はアグニルの言葉によって一瞬にして消え去ってしまった。




「主様が精霊舞術祭に出なかったら━━必ず少人数になった場所で狙ってくるでしょう。主様は精霊舞術祭という大勢の精霊召喚士が集まる場所にいる事、それが一番だと思います」


「……戦っても地獄、逃げても地獄、そういう事になるのかな」


「なので、すぐにでも仲間を集めたいと思いました━━それで、返答を聞かせてもらえますか?」




 カノンは仲神をじっと見つめる。アグニルもエンリヒートも、そして僕も━━僕達の視線を受ける仲神の表情は相当悩んでいるのか、額からは汗が流れているのが見える。


 そして、仲神はおもむろに立ち上がり、




「少し考えさせてくれ……私にもそれくらいの権利はあるだろ?」


「はい、じっくり考えてください。いつまでも待ちますから」


「そうか━━如月、明日から手伝いはできない、すまんな」




 仲神はそうかと言った時、一瞬だが笑ったように見えた。


 ━━だが気のせいだったのか。すぐに真剣な眼差しに戻り、僕達に背を向けこの部屋を出ていった。




「いいのか考える時間を与えて? 無理矢理にでも仲間にした方が良かったんじゃないのか?」


「それはちょっと……まあ大丈夫だよエンリお姉ちゃん━━だってあの人には主様の仲間になる理由があるのだから」


「理由? 理由って何?」


「それは内緒です、人の大事な秘密を、本人のいない所で話すのは私の良心が痛みますから」





 カノンはそう言って、僕を見ながら微笑んだ。


 ━━人の秘密、仲神が何を秘密にしているのか、それは気になるのだが、僕自身も知らない所で話されるのも聞くのも好きではない。





「それで、主様はどうしますか? 今からでも私達との契約を解除すれば狙われなくなる可能はありますよ」


「……それは」




 カノンの言葉に、アグニルとエンリヒートもじっと僕を見つめてくる。


 ━━断る事はできるだろう、三人は優しい。

 だが三人に見つめられながら、「君たちとはお別れだ、さようなら」なんて言えるわけない、こんなの反則だろ。


 まあ答えは最初から決まっていたけどさ。




「カノンはずるいね━━僕は三人の力になるよ、こんな平凡な僕で良ければね」


「ふふっ、主様は平凡ではありませんよ。私達の主様なのですから」




 アグニルの言葉、それはお世辞かもしれないが嬉しかった。


 三人は一斉に僕の体に飛び込んできた、僕は両脇に小さな幼女を抱え、天井を見上げながら呟く、




「……これが、ハーレムっていうやつなのかな?」


「おっ! 主様喜んでいるのか? じゃあこの先の事も━━」


「私が主様の初めてになるんですね、うふふふ」


「ちょっとお姉ちゃん達!? ……私も主様と契約した精霊、主様が喜ぶなら私だって!」


「ちょっと三人共!? そういう意味じゃないんだて!」




 ━━端から見たら、皆から羨む程の美少女に囲まれたハーレムなのかもしれない、死と隣り合わせのだが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る