第16話
「主様……向こうに生徒がいるな、おそらく一人だ」
「そうか、じゃあそこまで行こうか」
エンリヒートは木の上に登り、じっと遠くを見てる。
僕には全く見えないが、エンリヒートは目がいいのだろう、遠くのエリアを見ている。
僕の言葉に二人は頷き、エンリヒートが先行して走り出した。その後ろを僕とアグニルがついていく。
足下には草木が生え走り難い、最近雨は降ってないのに走る度に僕の足に絡みつくような感触、ずっと走っていただけで体力を奪われてる気がする。
少し走った先に一人の男子学生の姿、既に精霊を召喚している、あの精霊は━━、雪だるまを大きくしたような精霊、氷の下級精霊の
「二人ともお願い!!」
「「了解!!」」
アグニルとエンリヒートは僕が言葉を発するよりも速く、アイスマンと精霊召喚士目掛けて攻撃をしかける、
「直ぐに終わらせる……来い、雷の剣よ!!」
「さぁさぁ暴れようか。来い、火焔の剣よ!!」
アグニルの手には雷の剣が、エンリヒートの手には炎の剣が出現する。
二人の声にビクッと体を震わせ、アイスマンと精霊召喚士がこちらに振り向く、
その時━━。
『主様、前にジャンプ!!』
「えっ!?」
不意に、脳裏には朝の女性の声が。その言葉に驚き、僕の体は自然に前に飛んでいた。
すると、後ろには何も物体は無かった筈なのだが、僕の影が僕の動きとは関係無しに動き、僕の立っていた場所の地面からは剣が突き出てた。
その黒い影と剣は形を形成し、人の姿へと変わっていった、黒い人形で目元が赤く光る精霊。
「ほぉー、まさか避けられるとは思わなかったよ」
「「主様!!」」
影から現れた精霊、おそらく影の中級精霊の
おそらくアイスマンは囮、最初から隙だらけの精霊召喚士だけを狙う作戦だろう。
そして脳裏に響いた声が無かったら、完全に霊力切れで終わってただろう━━。
『危ないなぁー、私がいなかったら主様危なかったよ?』
「そうみたいだね……ありがとう、でも君は誰なんだ?」
『そんな事より、また来るよ!! 右にジャンプ!!』
脳裏に響く声が示した方向に飛ぶと、僕のいた場所には再び、地面から剣が突き出ていた。
僕の行動にシャドウと契約している精霊召喚士は驚きの表情を見せる。
それはそうだろう、避けている僕も驚いているのだから━━。
「エンリヒートは雪だるまを!! 私は主様の援護に行く!!」
「はいよ……それじゃあ遊ぼうか雪だるま!! 【焔竜の舞い】」
アグニルが僕の方へと走ってくる、エンリヒートはアイスマンに長身の炎を纏った剣を向け焔竜の舞いを使う、残像しか見えない速さで動く姿は圧巻で、あっという間にアイスマンの頭と胴体を真っ二つに切り離す。
僕は目を奪われてしまった━━。
『余所見しない主様……左にジャンプ』
「くそっ……これだから
「あんたの精霊の相手は私だよ!!」
謎の声に反応して避ける僕に苛立ちを見せる男子学生、そんな時━━、アグニルは僕の上を飛び越えシャドウ目掛けて雷の剣を突き刺す、
「……感触がない!! ━━どっちが謎だよ」
「はははっ!! 影の精霊に打撃は効かないんだよ、シャドウ、こいつらを叩きのめせ!!」
アグニルの雷の剣には感触が無いようだ、シャドウを睨み付けている。
男子生徒はシャドウに命令すると、シャドウの影は地面に広がり、地面からは剣が突き出てる。
アグニルは後方に飛んで避ける、その表情には笑みが見える。
「打撃は効かないか……でも、それは言わなかった方が良かったんじゃない?」
「……何?」
「私をそこらの精霊と同じだと思うなよ!!」
アグニルの笑みと言葉に不快な表情を見せる男子学生。
アグニルは手を合わせ呪文を唱える、その光景を僕は見た事があった、確かあれは━━。
「唸れ雷、全ての障害を凪ぎ払い、敵を伐て━━、
アグニルの詠唱が終わると、天からは無数の雷がシャドウの黒い影に降り注ぐ、シャドウは呻き声を上げ、跡形も無く消えていった。
圧倒的力量差、アイスマンの精霊召喚士もシャドウの精霊召喚士も膝を付きただ呆然としていた。
少し可哀想な気持ちになる、僕は何もしてないのにあっという間に二つのバッチを獲得してしまった━━。
「こんな……こんな精霊、反則だろ!!」
「しかも二体の精霊を召喚できるなんて聞いた事無いぞ!!」
「私達は双子の精霊……何もおかしい話では無いと思いますが?」
正座のような格好になっている二人は、僕達の顔を見ながら怒りと嫉妬を混ぜた表情をしている、そんな二人にアグニルとエンリヒートは呆れた表情を見せながらテンプレの言葉を発してる。
━━確かに僕が同じ立場なら彼らのような表情をするだろう、二人は反則級に強い。
僕は二人に同情の気持ちを込めながら胸に付いてるバッチを貰った、あまり納得していない表情だったが。
「主様、そういえばなんであの影から現れた剣を避けれたんだ?」
「えっ……あれか、なんか━━」
『まだ言わないでほしいです』
二人に説明しようとしたとき、不意に脳裏に声が聞こえた。
どういうこと? 僕は心の中で語りかける。
『まだ秘密にしてほしいって感じです、どっちにしろ主様はまだ私を召喚できないですから』
「…………この話はまた今度にしようか」
「ええー、隠し事かよ!! なあなあ教えてくれよ」
『駄目ですよ、まだ秘密です』
僕は両手を掴まれ「ぶーぶー」と言葉を漏らし頬を膨らます二人と、脳裏に響く女性の言葉に挟まれ苦闘していた。
『主様……誰か近付いてきます。……三人ですね、離れる事をお勧めします』
「わかった。……二人とも、人が来るみたいだからこの場所を離れようか」
「えっ、私の
アグニルは不安な顔をしているが、僕は謎の声に従う事にした。
確かにアグニルの空間把握術は凄い、だがこの声は正確だ、間違ってるとは思わなかった。
僕は走り出した、謎の声の言う方向へ、
『次は右の道!! その次は左!!』
「主様、何処に向かうんだよ!?」
「わかんない、わかんないけどこっちらしい」
「らしいって、アグニル主様が……主様が壊れた!!」
「私にもわからないよ、主様、主様戻ってきてください!!」
後ろを走るアグニルとエンリヒートに色々と誤解されてるようだ、だが否定できる言葉はない、謎の声には口止めされてるのだから。
謎の声に導かれながら走っていると、
『左の方角に主様の友達がいますね……大分苦戦してますが』
「友達?」
『はい、━━黒髪の長い女性ですね』
その言葉を聞いて直感した、雅だ。
黒髪の女性の友達は一人しかいない━━、苦戦してるのか。
「案内してくれるかい?」
『了解です、主様。次の道を左です』
「わかった!!」
「えっ、主様なにか言いましたか!?」
「いや、二人には言ってないから大丈夫だよ!!」
「やっぱり……やっぱり主様は変になったみたいだぞ、アグニル!!」
どうも心の中で念じようとしたら言葉に出してしまう、再びアグニルとエンリヒートからは非難の声が聞こえる。
五分くらい走って行くと、左側に二人の生徒が戦ってるのが見えた。
雅と小人達、それに━━。
「……シルフィー?」
エンリヒートの口から声が漏れる、エルフの精霊と女子生徒の姿、あれは昨日会ったエルフの精霊シルフィーとその主である精霊召喚士のシノだ。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ見ただけでもわかった━━、シルフィーとシノの実力が高いのが。
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