精霊を召喚しようと思ったら、幼女の精霊が現れました。

アロマサキ

第一章

第1話


 空は快晴で、日差しは強く何もしていないのに汗が流れる今日。

 そんな猛暑の中、学校の裏庭で真っ白な半袖のYシャツの背中が少し汗でくっついている僕の前には顔を赤くした女子生徒が立っている。


 皆が昼食を食べているであろうお昼時に呼ばれたのだが、十分くらい何も話さないでモジモジしている女子生徒。




「あの・・・・・・用件は??」


「えっ、そうだよね、ちょっと待ってね」




 僕の言葉を聞いた女子生徒は慌てた素振りを見せ、胸に手を当て長い深呼吸をしてから僕をじっと見つめる。




「私は……」




 この流れは告白、誰でもそう思うだろう。

 誰もいない学校の裏庭、目の前には顔を赤くしている女子生徒、そして「私は」で止める言葉、期待しない方が馬鹿だというものだ。━━だが。




「私、優斗君の事が好きなの!!」




 僕の名前は如月(きさらぎ) 柚木(ゆずき)、名前が全然違う。


 柚木という名前だが正真正銘の男性で、髪は少し茶色の長髪を後ろに黒ゴムで束ね、はっきりとした目元に身長も百八十と低くは無い。


 僕は何度か女子生徒に呼び出される事もあったしこういうシチュエーションも初めてでは無い、だがいつも告白ではなく恋愛相談ばかりだ。

 誰とでも仲良くなれる性格だが仲良くなっても恋仲になることはなく、いつも友達以上恋人未満で終わってしまう。


 ━━誰かと付き合った事の無い僕が相談に乗っても。


 僕自身最初はそう思ってたのだが、回数をこなす事に恋愛指導が上達していき、いまでは恋愛マスターと呼ばれるまでに成長した、恋愛経験が無いまま。




「ありがとう柚木君!!」




 女子生徒は少し話をしたら解決した、女子生徒は満面の笑みを浮かべながら走り去っていった。

 休み時間はもうすぐ終わりに近づいている、僕も足早に教室まで戻った。




「おうっ!! 仕事は終わったのか!?」


「何が仕事だよ……って、僕のお弁当少し食べただろ!!」



 教室まで戻ると馬鹿にした様な表情で出迎える男子生徒。

 彼は逢坂(おうさか) 恵斗(けいと)、柚木の幼馴染みだ。

 茶色の短髪で厚い胸板、中学の時からラグビーをやっていたこともあり強靭な肉体と呼べるだろう。

 性格は優しく兄貴的存在なのだが、威嚇的な風貌が災いして、男性からも女性からも一歩置かれる存在となっている。




「いや全然帰って来ないから食べないのかと思ってよ、だったら勿体無いから食べてやろうと思って」


「ちゃんと帰って来るっていったのに・・・・・・。それに午後からは精霊(スピリット)召喚士(サモナー)になるための精霊召喚儀式があるのに。何も食べないなんて失敗したらどうするんだよ!!」


「別に気負う必要無いだろ? 失敗した例は無いんだしよ?」


「まあそうだけど、でも初めてだからさ・・・・・・」




 この世界には一人の少女がもたらした力、精霊スピリットという神に近い生き物が存在する。


 始まりは百年前、突如上空に出現した巨大な扉、推測では魔界へと続く門と呼ばれ、全ての人類は目を疑い驚愕する。


 人類とは異なる姿をした怪物、侵略者(アンドロット)が門をこじ開け、次々とこの人間の住む世界に現れ襲いかかってきた。

 別に人間達を襲い食べようとするでもなくただ襲うだけ、その姿に先人達は早急に対抗策を練らなければいけなかった。

 一番最初に取った対抗策は兵器を使い反撃、ただ何の痛手を負わす事もできず、人類は敗戦続きだった。


 だが、突如現れた少女は見たこともない精霊術を使い、侵略者から人類を窮地から救ってくれた、そしてその不思議な力は各地に伝えられ、百年後の今もなお人類と侵略者の争いは続いている。


 そしてこの学校は精霊召喚士を排出する学校で多くの生徒が在籍する。

 この学校では基礎的な事を三年間、精霊術を使った実技を三年間、計六年間をこの学園の寮で暮らし学んでいく。


 そして、今日は初めての精霊召喚の日だ。


 


「ほらっ、そろそろ行こうぜ!!」


「結局全然食べれなかったよ」




 お弁当の中身を何一つ食べられないまま、恵斗と共に教室を後にして、精霊召喚士の儀式が行われるグラウンドに向かう。

 精霊召喚で呼び出す精霊の種類によって異なるが、人間の何倍もの大きさの精霊も存在する。

 そのため広大な敷地が必要で最適な場所がグラウンドしか存在しない。


 グラウンドには四年生に進学したばかりの同級生が百名ほど、その時を心待ちにしている。




「なんだかみんな浮かれてんなぁー!!」


「そりゃ三年間座学だけだったからね……僕も楽しみだよ」


「あれ、そんなに楽しみだったのか?」


「そうだよ……僕は」




 途中で言葉を止めた、僕には最強の精霊を召喚してモテたいという邪な野望を抱えている、そんな事は誰にも言えないが━━。


 僕の話を遮るように一人の女性が現れる、黒いスーツを雑に着こなした女性教師、年齢は二十二歳だというのに妙に色気のある空気感、女性がコツンコツンとハイヒールの音を鳴らし、気だるそうな表情を生徒達に向ける。

 

 


「それじゃあ・・・・・・これから精霊召喚儀式をはじめるが、えーっと、お前!! 精霊召喚に必要なことは!?」


「えっ、はい、精霊召喚に必要な事ははまず、精霊の石盤に自分のなりたい姿を創造する事で、その創造した精霊を使役することができます、ただ自分の才能の範囲内の精霊しか使役できない為、気を付けないといけない・・・・・・事くらいですかね」


「その通り、じゃあ始めるぞ!!」




 女性教師、仲上(なかがみ)彩夏(さいか)先生は、おそらくめんどくさいから生徒に説明させたのだろう。

 その事を生徒達も理解しているのだろう、何も聞かず精霊召喚へと移っていった。




「我の言葉に耳を傾け、我の矛となり、我の盾となれ、ここに現出せよ・・・・・・召喚(サモンネージ)!!」




 最初に指名された生徒はオドオドとしながら、自分の体よりも二倍はある精霊の石盤に右手を触れ、詠唱を始める。

 その瞬間、足下には緑色の六芒星の紋章が刻まれ、何も無い空間から精霊が姿を現す。




「……木の精霊か、次!!」




 木の精霊、木人(ウッドマン)、召喚した生徒はあまり嬉しそうな表情をしていない。

 それもそのはずだ、精霊によって強さが大きく異なり木人は下級精霊だ。


 そして一人、また一人と他の生徒達が精霊召喚を始めていき、次は恵斗の番になった。

 

 


「それじゃっ、行ってくる!!」


「ああ、変な精霊が出たら笑ってあげるよ」


「はいよ!!」




 恵斗は右手をひらひらと振りながら精霊の石盤へと向かい、左手はポケットに入れているので後ろ姿が完全にチンピラにしか見えない。

 恵斗は精霊の石盤に手を付き詠唱を始める。




「我の言葉に耳を傾け、我の矛となり我の盾となれ、ここに現出せよ、召喚(サモンネージ)!!」




 詠唱が終わると、他の生徒よりも大きな白色の六芒星が現れ、恵斗の精霊が姿を現す。




「ほおー、学生が上級精霊を呼び出したか」


「おおっ!!、なんか強そうなのでたな」




 恵斗の精霊を見た仲上は少し口を開け驚いている、召喚した恵斗自身も驚いている。

 驚くのも無理はない、恵斗の召喚した巨大な狼の姿をした精霊は、白銀の狼(フェンリル)、雪の様な真っ白な体毛に鋭い赤い角、そして尖った爪、白銀の狼は数少ない上級精霊の一体だ。




「悪いな、柚木の前に強い精霊呼び出しちゃって!!」


「悪いなんて思ってないくせに・・・・・・まぁ僕も上級精霊呼び出すから待っててよ!!」


「気張り過ぎると失敗すんぞ!!」




 そして僕の番になった。

 精霊を召喚する時には自分の才能ともうひとつ大事な事がある。それは自分の求めるものを強く創造する事。




「我の言葉に耳を傾け、我の矛となり我の盾となれ、ここに現出せよ、召喚(サモンネージ)!!!!」




 詠唱を終え何度も心の中で強く願った。














 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕は最強になって彼女が欲しい、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を、


 僕に力を。


 あれ、今変な言葉を━━。





 精霊召喚が終わると、周りの生徒達のざわつきが聞こえる、もしかして失敗したのか。

 だが右足に何か物体を感じる、その物体の方に視線を移すと。




「あなたが私の主様ですか?」


「はい?」




 僕の足を掴む子供はじっと見上げる。


 どうやら僕は幼女を召喚してしまったみたいだ。

 

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