第2話 謎のペンダント

「誰だお前は? なぜここにいる!?」

「見たところ農民の子どものようだが……怪しいぞ!」

「こいつ……魔族が人間に化けているかも知れんぞ!?」


 突然のことに、僕は声も出せずに口を『あわわ……』と動かすことしかできない。

 武器を持たない無防備な僕を囲む屈強そうな3人の男たち。

 彼らは頑丈そうな鎧を付けて僕に迫って来た。

 逃げ場のない僕はただただ震えるばかりだ。


「みんな落ち着け! どう見てもまだ子供ではないか!」


 一足遅れてやってきた男が声をかけてきた。

 3人の男はその男の方を向く。

 立派な金ぴかに輝く甲冑を身につけ、背丈ほどの長さの長剣を携えている。どうやらこの男の人がリーダーのようだ。年は20代半ばぐらいの、金髪の好青年という感じの人だ。


 リーダーさんが僕のそばに寄るのに合わせて3人の男達は身を引いた。

 彼は、僕を足下から頭のてっぺんまでジロジロと見てから、ニッコリと微笑んだ。

 そして、腰に装着していた背丈ほどの長剣が僕の顔に当たらないように手で押さえながら前屈みになって、僕に話しかけてくる。


「君はどこから来たのかな?」

「えっと……あの……カルール村です……」

「カルール村? おい、知っている奴はいるか?」


 リーダーさんは仲間の3人に尋ねた。

 すると、メガネをかけた中年男が、大きなリュックサックから地図を取り出して調べ始める。巨漢と小太りの背の低い男が両側から地図をのぞき込む。


「ああ、確かにありますぜ……ここから早馬でも1週間はかかる所でさぁ。見たところそのガキは馬など持ってはいないですぜ。怪しいガキですぜ!」


 メガネをかけた中年男がリーダーさんに言った。

 他の2人もギロリと僕を睨む。

 怖い!


「まあ待てよ。なぁキミ、名前は何て言うの?」


 リーダーさんは仲間の男の追及を躱すように、僕に話しかけてきた。


「僕は……ユーキ……ユーキ・オニヅカです」

「めずらしい名前だね。ん? オニヅカ……? どこかで聞いたような……いや勘違いかな。いや、ごめんごめん、自己紹介が遅れたね。私はミュータス。この4人のリーダーをやっている。よろしくな、ユーキ」


 僕はミュータスさんと握手を交わした。

 彼の手は温かく、この人は良い人なんだと直感した。


「ところでユーキ、キミは何故こんな場所にいたんだい? ここは生身の人間がひょこっと来られるような所ではないはずだが?」

「それが、僕にも何が何だか分からないんです。僕は妹と一緒に街で買い物をしていて……それで……うっ!」


 またもや激しい頭痛。

 頭を抱えて堪える僕の背中に手を当てて、ミュータスさんが気遣ってくれている。


「さてはキミ、『召喚されし者』ではないか?」

「召喚されし者……ですか?」

「うん、そうだよ。実は私もその1人なんだ。この国は人類と魔族の戦争中でね。異国から私たちのように戦士が続々と召喚されているんだよ」

「あ、それは僕も知っていますよ? 『異世界』から勇者が召喚されているという話は父から聞いていました……」

「父君から? そうか、ユーキはこの国の人なんだものな。うーん、これは謎が深まるねぇ、状況的には私がこの世界に召喚されたときとそっくりなんだが……国内で生活していた者が戦士として召喚される……そんなことがあるのだろうか?」

「僕が……戦士として……?」


 ミュータスさんの言葉を聞いて、僕の頭は更に混乱した。

 王族直属の魔導師部隊にいる2人の兄ならともかく、魔力をもたない平凡な人間の僕が戦士として召喚されるなんてあり得ないことだ。

 しかし、ミュータスさんは、やや興奮気味に話を進める。


「うん、そうだよ。そうでなければここにキミがいる理由が見つからないよ。それにしてもキミは何も武器を持っていないようだね。大抵の『召喚されし者』は強力な武器を持たされて来るはずなんだが……おや、その首から下げているペンダントはなんだい?」

「あ……これですか?」


 ミュータスさんに言われて、ようやく自分の首からペンダントがぶら下げていたことに気付く。

 親指の先ほどの大きさの立方体の……石のような手触りの物体。

 黒光りしていて、なにかの宝石のようにも見える。

 その四角い石は真ん中に穴が開けられていて、革紐が通っている。

 革紐は街の出店でも扱っているような何の変哲もない紐だ。


「おかしいな……僕はこのペンダントを初めてみましたよ。誰かの落とし物でしょうか?」

「キミが首から下げているというのに? 誰かの落とし物というのかい?」

 ミュータスさんは呆れたように言った。

「だって……僕の物ではありませんから!」

 僕は唇をとがらせて答えた。人にバカにされるのは嫌いだ。

「そうか! キミの物ではないんだね?」

「はい!」

「じゃあ、それがキミに与えられた武器または道具かもしれないね?」

「えっ……!?」


 僕は黒光りするペンダントをつまんで見つめてみる。

 こんな小さな塊がどんな働きをするというんだろうか……


「はぁー? それがこいつの武器なのか? その鼻くそみたいな塊がぁー?」

「わっはっはっはっ、そんな武器じゃあネズミも殺せないなぁ」


 巨漢と小太りした男に笑われた。


「おい、失礼なことを言うんじゃないよ! すまないね、口の悪い連中だが、根は良い奴らなんだ。許してやってくれ」


 ミュータスさんは部下の非礼を詫びて頭を下げてくれた。

 本当にミュータスさんはいい人だ。


「ところでユーキ、キミは何かスキルを持っているのかい?」

「えっ? スキル……ですか?」

「うん、そうだよ。ほら、私のスキルはこの聖剣ミュータスを使えること。これは私にしか扱えない特別な剣なんだよ!」


 そう言って、ミュータスさんは自分と同じ名を持つ聖剣を抜いて見せてくれた。銀色に輝くその剣は、眩しいほどの光を放っている。


「うーん、よく分かりません。僕にもそのようなスキルがあるんでしょうか?」

「よし、じゃあ試してみようか?」

「ミュータス、時間が勿体ないだろ! そんなガキ放っておいて、早く魔王城へ突入しようぜ!」


 巨漢が乱暴な言い方でミュータスさんに文句を言った。


「そうですよ、リーダー。魔族の奴らが態勢を整える前に一気に仕留めましょう!」

「そのガキは置いていきましょうぜ! 足手まといになりますぜ!」


 他の2人もなんだかひどいことを言っている。

 本当にこの人たちは『いい奴ら』なんだろうか?


「まあ、待ちたまえキミたち! こんな所に子供を1人にしておけないよ。それにユーキは私と同じ『召喚されし者』だ。足手まといどころか、きっと私たちの戦力になってくれるはずだ!」


 本当にミュータスさんは良い人だな。なぜこんな乱暴な3人とチームを組んでいるかが不思議でならないよ。

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