歌う小説の唄

あなたのための精霊流し

夢の通いがあるならば

いくたび あなたと微笑んだでしょう

いつも早足の後ろ姿

秋桜コスモスに歩み止める


時の切れ端をつかまえて

固い筆跡が過去を連ねる

最後の日付はモルヒネに

震える字になったけれど


あなたが眠っても わたしが代わりに

あなたの生きる症状いま 書き留めた

「愛しいあなたは自由になった」と

ねえ そうだったんでしょう?


ちょっと特別な左手も

いつもの整髪料の匂いも

少年めいた甘いマスクも

すべてが大好き



くまさんのお話の始まりを

昔あなたは語ってくれた

最後まで聞けず夢の中

くまさんは迷子のまま


焼酎のお湯割りと塩辛と

きびなの刺身とテレビの声と

他愛ない意地の張り合いと

だんだん増えたしわぶきと


夜明けの散歩はまるでカントね

確かな 足取り 知識 哲学

豆粒みたいな赤鉛筆

知るを愛した


最期の時まであなたらしく

命の炎を燃やし続けた

笑顔は語る

「本当によか人生やった」と



***


from 夢見るエンジン

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883009147

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