第六章 天族の長期研修(後編)

第33話 古竜からの試練

光の大庭園ライト・ガーデンの特別管理顧問官たる古竜クラルテより大樹の丘の見学許可を得るために下された試練。

「光葉樹の森林」の若木を育てている「小庭リトル・ガーデン」内の3区画の森林整備を行うということ。

整備道具の使用は自由。各々の力を使うのも自由。私に関しては100%の力で整備しなければいけないということ。


ルーモ主任もアス姐もいる前で100%の力で整備するのは、正直、罰ゲームだよ。

確かに新人時代にここに来て、1割程度の力しか働いてなかったことに気付かれて、ルーモ主任に呼び出しを喰らって、1区画を一人で整備するように命じられたんだっけ…。

あの時は、聞き間違えたのよね。

目の前に拡がる景色を管理官から図面を渡されて、一週間で仕上げるようにルーモ主任に言われたんだけど、目の前の景色と図面を比較して考え始めていたから聞き間違えたのよね。5日間で仕上げるようにって…。


なので、私はアス姐とルーモ主任の整備技術のいい所だけを模倣して、他にも大樹の丘に来てから出会った整備士さん達のいい所を全て模倣して、それを私らしい整備に変化させて、整備したのよね。

あの時は、開始から3日でほぼ終わらせて、4日目で手直しをして、5日目で最終的な仕上げをして報告したのよね。


あの時のルーモ主任の顔を忘れられないわね。

冷静なルーモ主任がとても驚いた表情をしていたし、誰も指示した整備区画には近寄らないように手筈していたから、私一人でやったことを本当に驚かれていたし、模倣した整備技術に関しても驚かれてたのよね。それに一週間と命じたのに二日も早く終わらせたから、余計に驚かれていたのよね。

整備した区画の採点の点数は言われなかったけど、「合格だ。」の一言。

あとは、いつもどれ位で整備しているのかを聞かれて、忙しい時に3割程度って答えて、それ以来、整備作業をする際は、ルーモ主任の副担当らしき立場に置かれちゃったのよね。だから、視察や査察の時は、整備士の代表として、視察や査察の補佐に廻されていたのよね。


さて、整備道具は、さっき確認したけど、全部あるのよね。

とりあえず、整備用の小さめの斧を二本借りて、大まかに育ち過ぎた部分を一気に切り崩してしまいましょうかしらね。


「古式斧術 巨回閃・双」


2つの斧に私の気を纏わせて、自然の気を吸収し巨大な刃となり、回転しつつ、一瞬の閃光の如く、対象物を切り刻む技で、本来は投げっ放しの技なんだけど、手元に戻るように気でコントロールしています。

これで、大胆に繊細な作業をこなしていく。

まぁ、簡単に言うとルーモ主任の得意の整備技術を模倣し、私流にアレンジしているのです。


これで大体、均等になったけど、やっぱりもう少し繊細かつ優美にそして、気持ちのいい見た目にしないとダメだよね。

斧をしまって、短剣に2本に切り替えて、細かな優美さを森全体に取り込むべく、不要な枝や葉を切り落としていく。

 

「古式体術 閃 + 古式双剣術 落葉」


体術の閃は、その名の通り、閃光の様に動くこと。そして双剣術の落葉は、落ちる葉の如く対象を自然に斬り落とすという剣術でこの2つを併せて、森全体の優美さを取り戻していく。本来なら短剣では無く、小太刀でやるとより優雅に見えるようなんだけど、整備術は魅せるものではないから、問題は無いんだけどね。あとは時間短縮で閃を使ってるだけだから、常人には優雅にも見えないし、ただ一閃が枝や落ち葉を落としているようにしか見えないのだから。


「ほう。これがアニスの100%の実力ってやつかい。想像以上に凄いな。」


「そうね、私が想像していたよりも、さらにその上を行く凄さだわ。何より私達の技術が模倣と言うよりも、完全に盗まれて自分のものにしている感じだわ。それにしても、見ていて優雅で美しい。そして、何よりも気持ちよさそうだわ。」


「アニスは何故、精霊眼を使わんのじゃ? あれでは本気では無かろう。」


「クラ爺、アニスに100%で整備しろって言ったからよ。精霊眼を使ったら、アニスにとっては100%以上の力になってしまうから。まぁ、今更、全ての力を使ってと言っても、もう殆んど整備は終わってるわね。言い方の問題よ。」


「アニスは、これだけの整備技術を持ってしても、本気ではないということか?」


「いや、アニスは100%本気で整備してますよ。何しろ、わしらが見てる前で手抜きなど出来る訳がない。クラ爺が言った通りに100%の本気で整備をしておりますよ。」


「これに精霊の力を借りたら、どんな整備になってたのかしら? ある意味で凄い楽しみだわ。また、こういう機会があるといいですわね。ね、クラ爺。」


「えぇい。今回ばかしは、わしの言い方がいけなかったということじゃな。次回は本気の本気で整備をさせてみせるぞ。」


「まぁまぁ、クラ爺。それなら、いっそ、例の競技会に出せばいいじゃないですかい?」


「整備部門の序列を決める競技会じゃろ。あれには特例があってな、一般整備士の強制参加は認めないという規則があるんじゃよ。それにアニスは、ここでは一般整備士扱いじゃし、光の特別管理整備官という公には、あまりせん方がいい役職でもあるから、無理じゃな。」


「そりゃ、残念。今年からアス姐も加わるから、競技会のTOP5が入れ替わることになるのに残念ですな。」


「えぇ、あの競技会、私は強制参加なの?」


「あの競技会は、光の各庭園の主任以上の役職のものは全員強制参加じゃ。辞退は許されん。」


「まぁ、気が向いた時だったら本気になるけど、気が向かない時だったら本気は出さないわよ。」


「別にそれで構わんぞ。何もTOP5入りしても、名誉だけじゃからな。上位陣の副賞には興味無いじゃろうしな。」


「主任、副賞なんて、あの競技会にあるの?」


「あぁ、副賞か、一応、名誉の方が大きいみたいだが、その者自身やその家族が暮らすのに不便が無いように年間の特別手当が支給されるようになるんだが…。」


「ふーん、年間の特別手当か、ちなみにどれ位貰えるの?」


「それを決めるのは競技会を主宰する中央管理局が決めることじゃからな。わしは口出しはしておらんから知らんし、ルーモに聞いても無駄じゃぞ。全部。給与は奥さんに渡されておるからのう。」


なんか、競技会やら私の整備の話で盛り上がってるみたいだけど、私だけじゃなくて、あのお二方の方も見なくていいのかしらって、まだ何も動いてないというか、始めてないじゃない…。

あれ? もしかして、私の整備に見惚れてるのかしら?

なーんて、そんなこと考えてないで、私はさっさと終わらせてしまおうかと思ったけど、少し休憩してお二方の整備を見学させて貰いましょう。


「あぁ、なんという的確で迅速な整備。そして、整備技術そのものを見ていても美しい。」


「確かに特別管理整備官の整備技術を見ることなんて、滅多に見ることが出来ないから、少し見学させて頂いたが、やはり私は怖ろしい方に喧嘩を売ってしまったようなだな。もう二度とあのような不祥事を起こさないことをここに決意しよう。」


「もう少しだけ見ていたいけど、私達もそろそろ、整備作業を始めないと。」


「そうだな。アニス様には見劣りするかもしれないが、我々も全力でこの森の整備を開始するとしよう。」


そういうと天族のお二方が整備を開始されました。

ガブリール様は天術をメインに、ルフォン様は天力フォースと天剣術で整備を開始された様子。

私の方は、もう殆んど終わったので、お二方の整備作業を見学をさせてもらうことに。


「どうやら、あ奴らも整備を始めたようじゃな。まぁ、アニスの整備を見たくなるのも、当然じゃろうからのう。」


「うーん、まだ始めたばかりだから、準備運動ってところみたいね。あぁ、早く本番が見てみたいわ。」


「アスの姐さんの言う通り、まだ本気じゃなさそうだな。あのお二方がどう整備するのか、見学させて貰いましょう。」


どうやらうちのお三方も私が手を少し休めたのを見計らったのか、それともお二方が整備を始めたのか、あちらを見ている。

これなら、私も完全に手を休めて、見学してもよさそうね。

まぁ、これ見よがしに終わらせてしまうのも手だけど、それをするとクラ爺は怒りそうだし、私も見学しようっと。


「ガブリール、気づいたか?」


「えぇ、皆様、私達を見ていますね。」


「ならば、そろそろ本気で取り掛かるとするか。」


「勿論でしてよ。」


お二方の背に真白き純然たる羽根が拡がっていく。

あれが、七大天族の羽根。光輝で真白き力。

ガブリール様の羽根は全てを照らし包み込むような力に感じるけど、ルフォン様の羽根は全てを照らし差し込むような力ね。


「ほほう。本気を出したか。うんうん、久しぶりに見れるのう。天族の整備を。」


「あっしも久しぶりに七大天族の整備を見れるので、こうなんかワクワクしてきましたぜ。」


「うーん、あれだけの力を解放しての整備なんて、すごく気持ちよさそうね。あぁ、なんだか溜まらなくなってきたわ。」


本気の整備作業にかかりだしたお二方を見て、うちの整備官と整備主任も整備士魂に火が付きそうな予感がする。

きっと、この予感は的中するわ。

そして、クラ爺もそれを予測してあるでしょうし、あと2区画分の森はありそうね…。


それにしても、見事な剣技と天術で整備を行っているわ。

ルフォン様は、羽根で森全体を照らしつつ、不要な個所を差し込むかの如く、天剣術と天力フォースで整備をしている。

対してガブリール様は、羽根で森全体を包み込むようにして、不要と思われる個所を適宜、天術で整備しているのね。


うーん、光晶樹の森が天術や天剣術の光の輝きを受けて整備されていく。

光と光の織り成すハーモニーが素敵な輝きを照らし出して、光晶樹の森が整備されていくのがわかる。

なんだろう。いつも見ている整備とは、丸で違う世界の整備の仕方で、とっても素敵だわ。


でも、このお二方が一緒に整備したら、より完璧な整備をされそうな感じだわ。

ガブリール様をメインにして、ルフォン様がアシストする形の方が良さげね。

あれだけの広域天術を見事に使いこなしているガブリール様でも、その難しい箇所をルフォン様の天剣術や天力フォースでアシストして貰えば、素敵な森が完成する気がするわ。


『でも、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央庭園を共同で整備する時は逆らしいよ。』


あれ? 「光の書」さん、いつの間に私の所に来てたの?


『アニスの力を感知したから、選定者の元へ瞬間移動テレポートしてきたのさ。』


『私も居ますよ。』


月の書」ちゃんも来てたのね。


『それにしても絶景だね。七大天族のお二方が整備する様は。』


『でも、向こうの中央庭園を共同で整備する際は、ルフォン様がメインで、ガブリール様がアシストしてるのよ。』


へぇ~。私の捉え方とは違うのね。でも、きっと逆の方がもっといい整備になるわ。


『確かにそうだね。ルフォン様がメインだと、ガブリール様のアシストでも難しい整備箇所が生まれそうだね。』


『やっぱり、そうよね。お姉ちゃんも同じことを言ってたし、「これに気付くのは、いつのことになるのでしょうね♪」…ってカボチャさんも楽しそうに嘆いてたわね。』


まぁ、お二方が別々に作業をしているのをお互いに見る機会でもあるから、これで気付くんじゃないかしらね。

向こうのお二方は、そろそろ終わりそうね。


となると、もう一区画、森が必要になりそうね。

クラ爺はそこまで見越しているわね…。

きっと、フォンセ様から頼みでもあるのだろうから、見越していそうね。


さて、私も仕上げにかかろうかしら。

折角だし、一気に終わらせちゃいたいから、あと二割増しにして貰おうかしら。


「ねぇ、クラ爺。ちょっといい?」


「なんじゃ、アニス。もう終わったのか?」


「うん、もう少しなんだけど、あと二割程、力を増して使ってもいいかしら?」


「別に構わんぞ。お主の好きなようにせい。まったく…。」


よし、お許しは頂いたから、一気に終わらせるわよ。

好きなようにしろって言われたから、一気に行くわよ。


『見られてないことをいいことに本気を出すんだね。まぁ、実際、アニスの本気を見てみたいのは僕も同じだからね。』


光の書」さんに見られてる分には、構わないわよ。どうせ全てを見通してるんだから。


『まぁ、そうなんだけどね。あと、その手首に飾られた力はどうするの?』


うーん、今回は使わないわ。私の精霊眼と少しの精霊力で仕上げをするだけよ。


両眼を閉じて、ゆっくりと精霊眼を開き、そして願う。


「森に住まいし精霊よ、樹々に司りし精霊達よ。我、汝らに願う。我が想像せし望みを叶えたまえ。」


私の整備が不出来であった箇所を全て、森に住まいし精霊と樹々に司りし精霊達へと全て伝え、想像した通りの森をあるべき姿に変える。

一瞬、森が輝き、全ての整備作業が完了する。


私も精霊眼を閉じて、普通に戻る。


「よし、終了っと。」


私の言葉と一瞬の光で、クラ爺たちが私の方を見る。

そこには、整備が完了した森と私の姿がありました。


「何が「よし、終了っと」じゃ。わしが見てない一瞬の間に終わらせるとは、何たることじゃ。」


「だって、お二方の整備作業に見惚れてたし、私はちゃんと二割増しでいいか確認も取って、作業を終らせただけよ。」


「二割増しってことは、120%の力であの森をここまで変貌させてしまったのか…。」


「まぁ、120%まで、使ったんだから、いいでしょ。どうせ罰も褒美でないんだから。それよりも、うちのお二方が用があるみたいですよ。」


私の整備した森を見て、我慢の限界に来ていたルーモ主任とアス整備官がクラ爺に直訴し始める。


「うーん、もうダメ。こんなの見せられたら、もう我慢できない。クラ爺、私も整備したいから一区画、森を出してちょーだい。」


「アスの姐さん、ズルいですぜ。クラ爺、俺にも一区画、整備させてくだせえ。」


仕上げをしていた天族のお二方の手が止まる。

見事に仕上げられた光晶樹の森の姿に感動されている。


「これがアニス様の力、いや、ミカやガブリール、かつては、ルーシェ様が仰っていた人のみに与えられた秘められし可能性の一端ということか…。」


「そうね、ルフォン。これが人のみに与えられし、短命なれど無限の可能性を秘めし種族の力の一端なのかもしれないわね。」


「それにしても、私達の整備では遠く及ばない。この光晶樹の森の美しさは…。」


「私だけでは、無理。でも、これに近づけるためには、私達が力を併せれば、きっと近づけるはずよ。」


「そうだな。いえ、そうね。私の力をガブリール、貴女に預けます。」


「ルフォン? いいの。私がメインで。」


「ガブリールの整備を見ていて気付いたのです。私はガブリールのアシストに向いていることを。いつもは逆の立場で解らなかったが、今回の整備で各々の力の特徴や整備の向き不向きな面が解ったのです、だから、私にガブリールのアシストをさせて欲しい。」


「ありがとう。ルフォン。ならば、この二区画を一緒に力を併せて、終わらせましょう。例え、見学できずとも私達は大樹の丘で整備士見習いができるのですから。」


「今の私達には、見学よりも相応しい立場だと思うよ。だから、一緒に力を併せて終わらせましょう。」


そう話し合いが終わるとお二方は力を併せて、二区画の整備作業を始める。

クラ爺は特別、止めることをせずに「うん、うん」と頷きながら満足そうな微笑みをしている。


ガブリール様の天術で二区画が包まれ、そこから差し込むルフォン様の天力フォースと天剣術が織りなす見事なコンビネーションとハーモニー。

調和のとれた光が森を活性化させ、新たに生まれ変わった二区画の光晶樹の森がそこには誕生していた。


「クラルテ様。申し訳ありません。最後は二人で力を併せ、二区画の森の整備を行ってしまいました。私は整備士見習いで構いません。どうかガブリールには見学者として、大樹の丘に招き入れて頂けるようお願い申し上げます。」


「ルフォン、何を言っているの。クラルテ様、私も整備士見習いで構いません。どうか、我らを大樹の丘に改めて招き入れて頂けるようお願い申し上げます。」


「ここまで、見事な森を作り上げるとは、大したものじゃ。ガブリールにルフォンよ。そなたらを大樹の丘へ客人として招き入れよう。ルーモ、アス、相違ないな。」


「えぇ、こんな素敵なハーモニーが見れるなんて。相違は無いわ。だから、もう我慢できないの。だから、クラ爺、一区画、森を出して整備をさせて。」


「俺もこんな見事な森を作れる方々を整備士見習いとして、迎え入れるなんて出来ませんぜ。客人としてお迎えすることに賛成ですよ。」


「よし、ならば試練達成じゃ。まぁ、なんじゃ、客人として迎えるついでじゃ、この者達の整備も見ていくといい。」


そういうと、二区画分の荒れた光晶樹の森が出てくる。


「アス整備官、ルーモ整備主任、各々、全力を持って、一区画ずつ整備を任せる。合同でも別々でもどちらでも構わんぞ。」


「久しぶりだから、ルーモ主任、賭けをしない? どっちがいい整備した森であるかを。」


「いいですぜ。その賭け乗った。久しぶりに本気を出しますんで、姐さんも本気でかかって来ないと知りませんぜ。」


「私も久しぶりに本気を出そうと思ってる所よ。あの栄光たるドワーフ族の英雄と勝負が出来るんですもの本気の本気で行くから、覚悟してね。」


アス姐の雰囲気がいつもと変わり、アス姐自身が漆黒に包まれると背に漆黒の妖艶なる翼が現れる。

ルーモ主任も本人用整備用鞄から、神々しい一本の斧を取り出す。


「さぁ、相棒よ。久しぶりに大胆にそして繊細に暴れ回るぞ!神光斧『THE・SUNジ・サン』」


「ジーサンを担ぎ出すなんて、主任も本気みたいね。私も本気で行くからね。待っててね。麗しき森よ。」


「姐さん、ジーサン呼ばわりするのは止めて貰いたいですぜい。でも、これを出したからには負ける訳にはいきませんぜ。」


「まぁ、審判は多いから、どっちが勝っても負けても文句は無しよ。」


「合点承知ですぜい。」


「では、よーいスタート!」


お二方とも、各々の光晶樹の荒れた森へと向かっていく。

神々しい光輝く斧は、一閃する度に燃え上がるかのような光を放つ。

妖艶なる黒き翼は、森を包み込み、艶やかに森を縛り、漆黒に拘束する。


各々、別次元の整備の仕方を見て、感嘆と吐息交じりにお二方が悶えてる。


「凄い整備。見ているだけで気持ちよくなるだなんて…。なんて、凄いのかしら…。」


「私もここまで凄いものは見たことが無いわ…。凄い見てるだけなのに、なんて気持ちがいいの…。」


お二方の整備が始まった瞬間、クラ爺がいつものように私に命を降す。


「アニス、お主はもうここはいいから、管理整備棟に行って、客人用宿泊室の準備に行ってくるように。」


「えー、また私は見れないんですか…。せっかく本気出してる二人の整備が見れると思ったのに。」


「アニスには、まだ。ちと早い。いいから、管理整備棟に行って、ついでにレイティアとシャインにお客人が来ることも伝えてくれ。」


「はーい。わかりました。でも、整備が終わった森はあとで見せてくださいね。絶対ですよ。」


「わーった、わーった。じゃあ、伝言も頼んだぞ!」


こうして、クラ爺による瞬間転移テレポートで、大樹の丘の管理整備棟前に転移させられる。

アス姐が本気を出す時は、いつもまだ早いって見せてくれないのよね…。

まぁ、私もいつか本気・・で何かをしなければいけない時が来た時は、誰かに見せれるのかしら?

そんなことを考えながら、管理整備棟の管理室長室へ。


レイティア様へ面会しに来たところ、丁度、シャイン様も居られたのでラッキーかも。


「あら、アニス。中央から戻っていたのね。お帰りなさい。それで中央は、どうだったの?」


「アニス。お帰りなさい。アニスがいない間も研修は、問題なく進んでいるわ。例の事件に関してはどうだったの?」


とりあえず、かいつまんで説明をし、私が闇の大庭園ナイト・ガーデンに行ったことなどは内緒にして、向こうから例の事件のお詫びで天族の使者が来ており、客人として迎え入れる為、管理整備棟の客人用宿泊室の準備をお願いされたことなどをお話しする。


「そうなの。急な天族の来客なのね。まぁ、いいわ。客人用宿泊室は空いているし、きちんと整理もしてあるから使って貰って問題ないわ。食事に関しては、ここの大食堂で召し上がって貰った方がお客様にはきっといいでしょう。」


「アニス、その天族の方々ってどんな方々なの?」


「えーっと、身分的には高貴な方々でして、あと、研修生とはなるべく会わせないようにと言われてきております。」


「まぁ、そうなの。でも、なるべくなのね。うーん、まぁ、詮索はしないわ。こういう時、詮索していいことがあった試しがないもの。」


「えー、レイティア様はいつもそう言って、詮索はしないんですね。でも、確かにそうよね。レイティア様が詮索しなくて、私が詮索して良かった試しがないから、私もいい加減、学んで詮索は止めておこうっと…。」


「あら、シャイン。珍しいわね。貴女が詮索するから私があとで痛い目を見るのがよくわかったみたいで。」


「私だって、学習はするんですよ。いつまでもバカ弟子なんて思われたくないですから。」


「私は弟子だなんて思ってないわよ。カワイイ教え子の一人よ。今は立派な補佐官ですけどね。」


「うぅ、何か嫌味を言われてるみたい…。」


あいかわらず、シャイン様はレイティア様に頭は上がらないみたいね。

それにしてもこのやり取りを聞くのが、すごい久しぶりな感じがするわ。


「ところで客室は一緒でいいのかしら?一応、別々にもできるけど、どうなのかしら?」


「自由に選べるようにしておいてください。私もあとで出迎えに行った際に確認するので。ご挨拶は明日、改めて致しますので、悪しからず。」


「いいわよ。だって、クラ爺に整備官と整備主任だけが呼ばれていく程の方々なんでしょ。明日にして貰った方が心の準備が出来るってものよ。」


「心の準備ですか、まぁ、ちょっとは必要かもしれませんね。」


「本日の研修は先程、終わって、研修生はお二方とも地下のご自宅に帰られたわよ。シャインが報告しに来て、その終わり頃にアニスが来たのだから…って、アニス、その身分証はどうなってるのかしら?」


え? 身分証…。あ、そういえば、隠すの忘れてた…。

えっと、一応、光の特別管理整備官になってるわね…。これはこれで、一安心っと。


「あの、えーっと、その役職が上がりまして…。特別管理整備補佐官から特別管理整備官に昇進しました…。」


「そういうことは、一番、最初に言ってね。気付かなかった私達の落ち度ではあるけど、一応、聞いておくけど、今まで通りの対応でいいのよね?」


「はい。それは無論の事ですよ。お二方は私にとっては、お姉さんみたいな存在なんですから。」


「まぁ、いいわ。何も変わらないのがアニスのいい所なんだから。それじゃ、明日まで心の準備はしておくけど、間に合うのかしら…?」


「きっと大丈夫です。変な目で見たら、私がその場で粛清しますから。」


「それじゃ、アニスのその言葉を信じて、明日まで変な詮索はせずに待っておくわ。」


「はい。ありがとうございます。」


レイティア様ににこやかに笑顔で返事を返すとレイティア様はいつものように微笑まれてました。

その後、客室を確認し、管理整備棟を後にし、大樹の元へ。

大樹の精霊に話しかけると、整備対決は終わってる模様で、私を小庭リトル・ガーデンへ転移させてくれました。


見事に整備された二つの光晶樹の森がありました。

甲乙つけがたい為、判定は引き分けとすることにしました。

しかし、これだけ見事な整備をされると、私の森が少し霞んで見えるかも…。もっと鍛錬を積まなければ。

天族のお二方とも、この2つの森を見て、技量不足を実感した様子でした。でも、凄いものが見れて満足そうでもありました。


その後、お二方を大樹の丘の管理整備棟へ案内し、棟内の客人用宿泊室へ。

同部屋で構わないとのことなので、同室とし、食事は大食堂で食べて頂くように案内図を手渡しました。

深夜まで、大食堂はやっており、夕飯を大食堂で取る方も多く居られるので、問題ありません。

なんでも、アス姐と夕飯を一緒に取る約束をしたらしく、大食堂に行くのが楽しみな様子でした。


私は、案内図を渡し終えてから、久しぶりに大樹の丘の地下にある職員宿舎の自室へ。

色々とあった三日間でしたが、とりあえず、明日に備えてベッドに横たわるとそのまま眠りへと誘われ、熟睡してしまったのでありました。

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