第29話 罰と願いという名の特命

闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局でも、更なるもめ事を起こした後に特別管理顧問官様に会いに行くのは、怖いものがありますね。

案内役のカボチャさんは、何だかとっても楽しそうだわ…。

私は、またやっちゃったって感じで反省してるのに…。


「アニスさん♪ 反省するのも大事なことですけど、あれだけの敵意を向けられ、ほんの少しの力の解放をして、相手の方々に畏怖を与えただけですよ~♪ 暴力で屈服させた訳では無いのだから、そこまで気にすることは無いと思いますよ~♪」


「しかし、それでも、畏怖させる為だけに力を解放するのは、心が痛みます。もっと別の方法があったかもしれないって…。」


「うーん、そうですね♪ 確かに別の方法もあったかもしれないですね♪ でも、それは、たぶん、きっと時間をかけて認めさせることしかないでしょう♪ 今のアニスさんにその時間は無いのですよ♪」


「私に今回、与えられた日数は二日ですからね…。とても、一日で認めさせるのは、難しいでしょう。お互いの理解が無ければ、成立はしないのですから…。」


「うん♪ そこまで、わかっているのなら、問題はありませんよ♪ 瑠璃ラピス様も同意見でしょう♪」


カボチャさんは、私のしたことを間違っていないと尊重している。別の方法もあったことも心を読んでいる様子。

反省モードでさっきから俯いている私を励ますかのように瑠璃ラピス様が答える。


「えぇ、ジャック様の言う通りです。あの場で、あの態度はあり得ません。監督不行き届きも限度があります。客人に対しての礼をも失するとは、情けない限りです。それにしても、ジャック様も言われたい放題でしたけど、何とも思わないのですか?」


「あぁ、僕はあそこでは、嫌われ者だからね♪ 北西の中央に管理整備棟を作って、北と西からのあの方々が下賤と思っている種族を匿うかのように人事異動を勝手にしてるからね♪ だから、北部と西部の庭園は、僕の北西庭園とは違った美しさを誇っているから、それが許せないんだろうね♪」


北部と西部の中央に新たな管理整備棟を作ったって言われたわね。そんなことって可能なの?

本来ある別々に別れている庭園の各自の美を追求するのが根底なはずなのに…。

勝手に作ったなんてことは、無いと思うけど…。


「ジャック様、もしかして、勝手に作ったのですか?」


「うん、そうだよ♪ もう北部も西部も区分特区が酷くって、格差社会が前面に押し出されているような庭園なんだよ♪ それでも、人やドワーフ、ハーフ種の方々は、我慢して働いていたのさ♪ でも、それに見かねて、僕が北部と西部で有能な方々や秘めた可能性を持つ方々を人事異動させて来て貰ったんだよ。無理強いはしなかったよ♪ 来る者は拒まず、去る者は追わずだからね♪」


瑠璃ラピス様、管理整備棟を勝手に作ることなんて出来るのですか?」


「いいえ、普通には無理よ。そうね、特別管理顧問官様の許可を頂いて、北部と西部の境目の土地を大規模に買収して、新たに管理整備棟を作るという途方もない手段はあるけど…。」


「はい♪ その通りです♪ 特別管理顧問官様の許可を頂き、北部と西部の境目の中央に面する土地を買収して、管理整備棟を作り、北西部の管理整備官になったのですよ♪」


「それでも、中央管理局に認められるには、それ相応の成果が必要になりますよね?」


瑠璃ラピス様の仰られる通りです♪ しかし、北部と西部の仕事の才はあるのに下賤と蔑まされた方々を人事異動にて北西部に招集したので、皆様、快く見事な庭園を作り上げたのですよ♪」


「アニス、ジャック様がしていることが凄すぎて、私はこれ以上何も言えないわ…。」


「お褒めに預かり光栄です♪」


この方、どんだけの財力を持ってるの?それ以外にどれだけの人望を持ってるのかしら…。

上の方々には、あれだけ嫌われてるけど、下の方々には、とても慕われてる気がする。


「さて♪ お喋りはここまでにして、特別管理顧問官様の所へ参りましょう♪ 瞬間移動テレポートで一瞬ですよ♪ では、3.2.1.ハイ、到着♪」


ここは、闇の古巨樹ダーク・エンシェントツリーの頂点付近なのかしら、周囲に特殊な結界が施されているのがわかる。

クラ爺の住んでる所と同じ雰囲気が漂ってくるわ。この奥に居るのよね。


「フォンセ様♪ 光の大庭園ライト・ガーデンからのお客様をお連れ致しました♪」


「はい、ご苦労様。ジャック君、ありがとうね。」


なんだろう。竜の威厳を全く感じさせない。

それに人化してるみたいだけど、なんて綺麗な方なんだろう…。

褐色の肌に美しい黒髪、真紅に燃える瞳と蒼玉の高貴な瞳。


「はじめまして、アニスさん。そして、お久しぶりね。瑠璃ラピスさん。私がここ、闇の大庭園ナイト・ガーデンの特別管理顧問官のフォンセよ。宜しくね。」


「はじめまして、フォンセ様。光の大庭園ライト・ガーデンより参りました特別管理整備補佐官のアニスと申します。」


「お久しぶりですね。フォンセ様。それにしても、竜族の方々は傍観者すぎはしませんか?」


「そんなことは無いわよ。現にジャック君を使って、北西部に新しい管理整備棟を作ったりして、陰ながら暗躍してるのよ。」


「それでは、その管理整備棟の周囲に渡る土地をジャック様に売ったというのですか?」


「そうよ。それなりの対価を頂いたし、ジャック君も特別管理整備官に任命して、区分特区の廃止を目指しているのよ。」


フォンセ様の言葉に瑠璃ラピス様が呆れている。


「フォンセ様、この方は本当に何者なのですか?」


「うん♪ 僕はジャック♪ この6つの大庭園とは別の滅亡した小庭園ロスト・リトルガーデンから来た存在♪ 滅亡した小庭園ロスト・リトルガーデンと行き来ができる哀れなカボチャなのさ♪」


「ジャック君、今日の君はお喋りね。その話は、前にも聞いたけど、この子達にも詳しいお話をしてあげてくれないかしら?」


「わかりました♪ フォンセ様♪ さて、ここからはちょっとだけ長いお話になるよ♪」


そして、カボチャさんは話を語り始めた。


……………


…………


………


ここからでも、よく見える月。あれも、昔は庭園の一つだった。

今でいう古代の技術ロストテクノロジーを駆使した科学的に発展した小庭園。

でも、発達しすぎた科学は暴走をし始めた。そして、異形の者が現れ始めたんだ。

発展した科学という名の力を使って、この小庭園の全てを侵略し、拠点として、各大庭園を侵略しようとしていた。

そして、結果的に小庭園を滅亡し、全ての命の象徴たる大樹すら枯らしてしまった。


僕は、普通の人だった。科学の恩恵を受けて、生きていた。

まだ幼く、庭園の管理にも整備にも属していなかったんだ。

でも、大樹や庭園の美しさは大好きだった。

ある日、声が聞こえたんだ。大樹からの声が…。


「貴方は、この地に残る最後の希望となるでしょう。私が枯れても貴方だけは生き残る。そして、一人になってしまう。それでも、この小庭園を異形の者から守って欲しい。いつか来る再生の未来の為に…。」


僕は選ばれてしまったのだ。大樹にそして小庭園に。

それから、僕は力に目覚めていくことになった。異形の者と戦う力を…。

異形の者との戦いの末、大樹を守り切れなかった僕は、大樹を枯らしてしまった。

そして、大樹から永遠とも呼べる不死の力を分け与えられたんだ。

大樹が枯れ、小庭園は僕を残して滅亡した。あの月の光は、科学の結晶が残した光。

今も尚、僕と異形の者の闘いは続いている。


でも、それに疲れ、孤独を感じた時、古代の技術ロストテクノロジーの一つを使って、闇の大庭園ナイト・ガーデンにやってきたんだ。

そして、フォンセ様に会い、月の事情を話し、時折、僕をここで休ませて貰えるようにお願いしたんだ。

こんなことは、信じがたい出来事だし、信じて貰えるとは思ってなかった。

さすがに竜の心は厳重で読めなかったからね。

それでも、僕の言葉を信じてくれて、特別管理整備官の任を与えてくれたんだ。


だから、休息の間は、中央管理局で一人の特別管理整備官として働いていたんだ。

働き始めた際、一方的に人であって人でない僕を下賤の者と蔑む北西管轄部の方々と最終的に対立するような形になってしまってね。

疑問に思った僕は北部と西部を視察に行ったんだよ。その視察で見たのは、区分特区に格差社会の酷さだったよ。

だから、僕は北部と西部の境界線上の土地をフォンセ様の許可を得て、売って貰い、北西管理整備棟を作って、区分特区と格差社会の無い庭園を造ったんだよ。

その為、僕は基本的には、北西管理整備棟に居るんだ。中央管理局に居ても、僕は部外者扱いされてしまうからね。

それに月に異形の者が現れれば、枯れた大樹と同調リンクしているから、すぐに戻って戦わなければいけないからね。

この終わりなき戦いにいつか終止符を打たないといけない。

だから、滅びの月で戦い続ける。でも、ここでは、守る為の力は使うけど、僕は基本的には戦わない。戦う意義が無いから…。


………


…………


……………


カボチャさんの話が終わる。あそこに見える月というモノには、そんな秘密があったんだ。

そして、カボチャさんは、孤独な時を過ごしてきたのね…。ずっと一人じゃ、寂しいものね。

それにしても、土地を買い取るとか、結構、やることは大胆なのね…。


「まぁ、僕のお話はこんなかな♪ 僕は中央に居ても何も変えられないと思ったから、現場へ行ってそこの一部の改善をしたんだよ♪ まぁ、そのせいで、余計に中央管理局の北西管轄部の方々には、敵視されてるけどね♪」


「カボチャさんって、結構、大胆なことをするんですね。それに今もあの月で戦いを続けているのですか…。カボチャさんが使ってる力って、もしや超能力と言われるモノでしょうか?」


「おお、超能力を知っているの♪ アニスさんは博識だね♪ そうさ、僕の力の一端は、超能力だよ♪ テレパシー♪ 念動力サイコキネシス♪ サイコメトリー♪ 念写♪ 予知♪ 透視♪ 千里眼♪ 瞬間移動テレポート発火能力パイロキネシス物体取り寄せアポート♪ なんでもござれ♪」


「超能力に代表される全てじゃないですか!すごいです!」


「その代わり僕は、精霊や魔力、天力と言った類との契約は出来ないから、魔術や天術、精霊術の類は全く使えないんだよ♪ 自然の力と呼ばれる類は使えるけどね♪」


「だから、私と始めて会った時もジャック君は、私のことをすぐに竜だと透視か千里眼かわからないのですが、それで見破ったのですよ。まぁ、あの月の件は、私の管理下ではないので、ジャック君のすることに手出しはしないの。だけど、ここはアニスさんも見ての通り、情けないことに区分特区や格差が中央にまで侵食していてね。それを外部的に解決してきたのがジャック君であり、先程、心理的な畏怖で変革を促したのが、アニスさんと言う訳なのよ。」


急に中央管理局の話にフォンセ様が戻される。

そろそろ私に対しての罰が下るころよね。覚悟しないと…。


「さて、アニスさん。貴女には本来、感謝をしなければいけないのですが、これまでの所業は、力に寄る制裁と高圧的に迫る者達に対する畏怖という名の心理的圧力返し、過剰防衛と言ったほうがいいのかもしれないわね。でも、そこまでしないとあの者達には伝わらないから仕方ないんだけど…。」


「フォンセ様の言う通り、力での解決を選びました。ただ、やられたからやり返しただけです。私に弁明の余地などありません。」


「でも、アニスさん。何故、右腕をきちんと回復させないの? 貴女の力ならすぐに完全回復できるでしょうに。」


「これは私自身が私に下した罰です。本当は言葉や態度、気持ちで伝えなければいけないのに力で解決した愚かな私への戒めです。」


「戒めですか、なら、その罰は私が許します。」


すると、フォンセ様の竜気が私の右腕の怪我を瞬時に完全治癒させてくれました。

瑠璃ラピス様は、ずっと黙って静かに話を聞いている様子。


「これで、貴女自身の罰は、終わりです。そして、これは私からの願いであり、貴女に対する罰でもあります。この中央管理局所属の特別管理整備官としての任を与えます。この中央内部に存在する区分特区の全て壊してください。必要であれば、外部視察も構いませんし、方法は自由です。」


「それは、罰なのでしょうか? それに私は光の大庭園ライト・ガーデンの特別管理整備補佐官でもあります。兼任は難しいのではないでしょうか?」


「何を言ってるのアニスさん。貴女には、闇の大庭園ナイト・ガーデンの特別管理整備官に任じたのですよ。それに光の大庭園ライト・ガーデンの研修生として来る訳でもなく、貴女は家族の一員で来るのでしょう。光の大庭園ライト・ガーデンの人事とは特別、関係ありません。それにクラルテ様が見込んだ貴女なら何も問題はありません。」


「わかりました。その罰としての任、承りました。特命として、この先、再度、来たる3ヶ月の間に中央内部に存在する区分特区全てを破壊してみる努力を致します。」


私は覚悟を決めて、罰としての任を受けました。

これで、この環境を変えられるのなら、今度こそ失敗せずにやり遂げたい一心で。


「ありがとう。アニスさん。期待してるわね。」


「アニスさん、大変なことになったわね。クラルテの爺様やルーシェ叔母様が知ったら、きっと驚くわよ。」


「このカボチャも何かあれば、アニスさんの手助けするから言ってね♪」


瑠璃ラピス様の言葉で、ふと思う。クラ爺のことだから、大して驚かない気がするんだけど…。

ルーシェ様はきっと驚くわよね。さて、両親の反応も…うん、大して驚かない気がするわ。


「フォンセ様、明日、トロン君が通う学校に行かせて頂きたいのですが。」


「大規模天族消失事件のことね。その件はアニスさんに全てお任せするわ。ミカさんにも伝えておくから問題ないわ。今日は、中央管理局の客人用の宿舎でゆっくり休むといいです。ジャック君、案内を宜しくお願いしますね。」


「了解しました~♪」


「それでは、失礼します。」


「アニスさん、先に宿舎に戻って貰ってもいいかしら? 私はまだフォンセ様とお話があるので。」


「わかりました。では、先に宿舎で休ませて貰いますね。カボチャさん、案内の方を宜しくお願いします。」


「では、行きますよ~♪ 3.2.1.ハイ、到着~♪」


瞬間移動で中央管理局内にある客人用の宿舎に一瞬にして、到着しました。

部屋へ案内されて、豪華だなと思いつつ、疲れも出たのか、ベッドで一気に眠ってしまいました。

私のことが心配だったのか、光の大精霊レムちゃんがいつの間にか傍に居たけど…。


明日は、トロン君にあって真実を聞かないと。

でも、今日も色々とあって疲れたわ。私が闇の大庭園ナイト・ガーデンの特別管理整備官になるなんて、思っても無かった罰だわ。

帰ったら、色々と報告することが今日だけで沢山あり過ぎたわ。

残り一日、悔いの残らないように私らしく突き進もうっと。

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